昔、上司から教えてもらってよかった「人の話の聴き方」。
先日、とあるスタートアップ企業に勤務している方から「相談」に乗って欲しいという連絡をもらった。
その方は40代前半の男性で、私のネットワークの誰ともつながりのない全くはじめての人だった。
名をKさんと言う。
事前にいただいた情報は以下のようなもの。
・スタートアップのマーケティング部の長
・1on1のコーチングを何百回とやってきた
・内省を深めるタイプ
・自分の目標や願望、それにむけてやるべきことについてモヤモヤしていて相談をしたい
幾ばくかのフィーも払うのでというものだった。
相談をもらった時、率直に「自分でいいの?」と私は思った。
なぜなら、私が介入しなくともモヤモヤを解消できるようなタイプの人だと感じたからである。
何でも前提を間違えると良い結果にならないという経験があったため「本当に私でいいのですか?」といった具合に念押しの確認を行った。
すると「大丈夫です。お願いしたいです。」というお返事が。
断る理由も見当たらないと感じたので、私はKさんの相談を受けることに決めた。
時間は60分くらいだったと思う。
面談はZoomを使って行った。
終了後、Kさんから私のところにフィードバックが届いた。
自身の内省を深めるために、いろいろ話をさせていただきましたが、真摯に聞いていただき、とても有効なFBをいただけました。
話しているうちに、もやもやのアテがつき、掘り下げて、気づくことができとても感謝しています!
ありがとうございました!!
また宜しくお願い致します!!
最初に抱いていた私の心配は杞憂に過ぎなかったようで、かなり満足いただけたようだった。
相談が始まれば時間が過ぎるのはアッという間で、私自身も学ばせていただくことが多く大変有意義な時間だったと思う。
これでお金ももらえたのだから大変有難い限りである。
相談を受けている最中、私がとりわけ意識して行ったことは以下のようなこと。
・自分がやっていることはすべて止める
・集中して相手の話したいことを聴く
・相手が話していることをメモする、書き出す
この3つをただ忠実に行っていた。
実を言うとこれらは、「人の話の聴き方」として私が以前からストックしているもので、前職の時にお世話になった上司のYさんから教えていただいたものである。
*
私が新卒だった頃の話だ。
毎日、新しい経験をさせてもらい、成長を実感していた私にとって仕事はとにかく面白かった。
Yさんはそんな私にとって初めての上司だった。
温厚で理知的で周囲からの人望も厚かったと思う。
そんなYさんの行動を見ていて最初に驚いたのが「人の話の聴き方」だった。
Yさんのチームに配属されてすぐに、同じチームだった先輩が「ちょっと今相談してもいいですか?」とYさんを尋ねるところを私はたまたま目撃した。
先輩が側に寄ってくると、Yさんは自分がやっている作業をすぐに止め、紙とペンをもって、先輩の話を集中して聴きはじめた。
先輩の話を聞いている最中、自分から何か言葉を被せることはなく、とにかく話を聞き、紙にメモを取る。
そして、先輩の話がすべて終わるとYさんはようやく口を開いた。
数分後。
欲しかった回答が得られたのか、先輩は満面の笑顔でYさんに感謝を告げていた。
私の知る限り、Yさんは誰に対してもこのスタイルを貫いていたと思う。
ある時、私は思い切ってYさんに聞いた。
「あのー、人の話を聴くときに意識していることってありますか?」
するとYさんは、
「自分のやっていることは止めて、相手の話をちゃんと聴くことかな」
と言った。
「それは僕らみたいな新人に対してもですか?」と私が続けて聞くと、Yさんは言った。
「そうだね。タナカみたいな新入社員でも社長でも取締役でも基本変わらない。」
「自分のやっていることは一旦止めて、話を聞くようにしている。」
Yさんの人望がなぜ厚いのかがすこしだけ私は分かった気がした。
「他にも意識していることはあるんでしょうか?」と更に聞いた。
するとYさんは、
「話の内容を裏紙とかにできるだけメモするようにしているかな。」
「これは忘れないように、というのもあるけど、メモしておけば後から相手が言ったことの検証ができるから。」
「それに、メモを真剣にとりながら話を聴いてくれる人に対しては、自分の話をしっかり聴いてくれていると感じないか?」
と教えてくれた。
この教えを聞いて強く膝を打った私は、それ以来Yさんの「話の聴き方」を真似するようになった。
それが前出の、
・自分がやっていることはすべて止める
・集中して相手の話したいことを聴く
・相手が話していることをメモする、書き出す
というものである。
冒頭のKさんからの相談に当てはめた場合、もしかすると「自分がやっていることはすべて止める」という項目が分かりにくいかもしれない。
したがって、少し補足をしておく。
上司だったYさんの場合、その多くは「PCでやっている作業」を止めるというものだった。
ではKさんから相談を受けた今回の私の場合は何だったのか?
実際に行ったことを並べてみたい。
・スマホの電源を切る
・スラックやメッセンジャーなどの通知を切る
・ブラウザのタブを全部閉じる
こんな具合に「自分がやっていること」をほぼ止めた。
思うに、現代においては「インターネットに接続している」時点で、「何かをやっている」のと同一だ。
したがって「ほぼ止めた」という表現を用いている。
この他は、Yさんに教えていただいた通り。
相手が話したいことに集中し、相手が話していることをできるかぎりメモして、書き出していった。
この結果として、相談者のKさんに満足していただけたという感じである。
*
Yさんの話の聴き方を真似するようになって分かったことがある。
「次に何を言おうか・・・」という心配が頭の中に浮かび上がってこないのだ。
私の経験則だが、「次に何を言おうか・・・」という心配は、初対面の人や自分よりも優れていると感じる人との会話で浮かびがち。
しかし、これが浮かんできてしまった時点で相手の話をしっかり聴くことができていない。
したがって聞き逃しも増えてしまい、自分が話す番で会話から外れたことを口走ってしまったりする。
しっかり聴けていないのだから当然のことだろう。
今注目を集めている「LISTEN」という本の中にも同じようなことが書かれていた。
[itemlink post_id=”8285″]
いちばん会話を邪魔するのは「自分は次に何を話そうか」という心配
心をしっかりと相手の話に集中させて聞き続けるにあたり、いちばんの障壁はおそらく、自分が話す番になったら何を言おうかという心配が頭から離れないことでしょう。
日常的な(コンビニに寄ってあれを買わなきゃ、など)考えを手放すのは比較的たやすいですが、次に言う言葉を心の中で用意するのはなかなかやめられないものです。
仕事にせよプライベートにせよ、大切な会話であれ気軽な会話であれ、言葉に詰まる、またはもっとひどい場合は変なことを口走ってしまう、という状況には誰も陥りたくありません。
加えて今の社会では、発言のリスクはさらに高く感じられます。
誰かの発言が無神経だとか侮辱的だと思ったらすぐに噛みつこうとした
り、インターネット上に投稿しようとするような風潮があるからです。
情け容赦なく寄ってたかって攻撃するソーシャルメディアのせいで、つい言葉が過ぎたり深く考えずに意見を口走ったりしたら、屈辱や失職につながってしまうのではないかと恐れるのは、無理もありません。
ですからどうしても言葉は注意深く選ばなければいけません。
そのため、相手がまだ話しているにもかかわらず、次は何を言おうかとあれこれ吟味するようになってしまうのです。
「次に何を言おうか・・・」は、一番会話を邪魔するもの。
私にはとても納得のいく箇所だった。
しかし、一体なぜYさんから教えていただいた「人の話の聴き方」をしている時は「次に何を言おうか・・・」という心配が浮かんでこないのだろうか?
おそらく、メモする、書き出すというアウトプットを、相手の話を聴きながらリアルタイムで行うため「次に何を言おうか・・・」を思い浮かべる暇がないからなのだと思う。
今回相談を受けたKさんの話を聴いている時もあらためて感じた。
相手の話をしっかり聴いていないとメモすることはできないので、自然と相手の話に集中するようになる。
しかし、入力と出力を同時に行うことは脳のリソースをかなり喰うので、それ以外に何かを考えたりする暇がないのだ。
*
思うに、会話というのは
・相手が「知りたいことを話す」
・相手が「話したいことを聴く」
を実現することよっていい感じになる。
要するに会話の中心が、常に「相手」の場合に上手くいくのだ。
そして、この二つは「相手が話したいことを聴く」の方が先にきて、これがしっかり提供できるからこそ「相手が知りたいことを話す」ことができる、という関係性にある。
この関係性の発見も、Yさんから教えていただいた「人の話の聴き方」の実践があったからこそだ。
昔教えてもらうことができて本当によかったと今あらためて感じている。
Photo by Kaleidico on Unsplash
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|プロジェクトデザイナー|タスクシュート認定トレーナー|WebメディアRANGER(https://ranger.blog)管理人|ネーミングの仕事も大好物|白湯の魅力や面白さをお伝えする活動もしています(@projectsau)
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
私の場合、「相談」は、「答えをもらうためのコミュニケーション」ではなく「自分の味方や仲間をつくるためのコミュニケーション」として捉えた方が断然ワークします。
会員登録していただいた方に、毎週金曜日にメールマガジン(無料)をお届けしております。
「今週のコラム」など「メールマガジン限定のコンテンツ」もありますのでぜひご登録ください。
▶︎過去のコラム例
・週に1回の長距離走ではなく、毎日短い距離を走ることにある利点
・昔の時間の使い方を再利用できる場合、時間の質を大きく変えることができる
・医師・中村哲先生の命日に思い返した「座右の銘」について
メールマガジンの登録はコチラから。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
これからもRANGERをどうぞご贔屓に。
コメントを残す