田中 新吾

「相手の話を最後まで聞く」は、人生を変えるコミュニケーション技術。

昨年末に読んだ記事がまだ頭に残っている。

「誰も話せる相手がいない」日本の既婚男性が次々と発症する”見えない病”の正体

これによれば、男性は50歳から急激に「友達ゼロ」が増えるそうだ。

70歳以上でさらに「友達ゼロ」が増えるのは、少ない友達が死んでしまうからというのが主な理由のようだが、それでも男性は「加齢と所属の有無」とともに友達がゼロが増えていく、という調査の結果が示されている。

私は今30代半ばだが、これからくる未来かもしれないと思えば当然他人事ではない。

そんな私の頭に浮かんだことが「なぜ男性は加齢と共に友達がゼロに向かうのか?」という問いだった。

記事の中には、内閣府が行った第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(対象は60歳以上男女)にある「生きがいを感じるのはどのような時ですか?」という質問の回答が示されている。

それによれば、高齢男性は趣味を除けば、仕事や勉強、収入など仕事的なものが多いのに対して、高齢女性は、おしゃれをして、友達と交流し、おいしい物を食べたり、旅行したりして、そうしたつながりの中から他人からの感謝を受けることが生きがいとなっている、ということだった。

このような男女の性差があることに対しては直感的に納得がいった。

高齢女性にとって当たり前にできることが高齢男性にはできない。

しかし、「なぜ男性は加齢と共に友達がゼロに向かうのか?」の回答にしては納得感が弱く、大きな要因は別のところにあるように感じた。

そんな私の頭に浮かんだのが「人は歳を取ると、相手の話を最後まで聞かなくなる」というものだった。

加齢と共に友達ゼロに向かう要因としてはこれが大きいのではないか、ということである。

いったいどうして「相手の話を最後まで聞かなくなる」と「友達ゼロ」の状態に向かっていくのか?

私が考えるロジックを2つあげてみたい。

1.「相手の話を最後まで聞かなくなる」と相手に好かれなくなる

個人的な話になるが、私はこれまでの人生で「相手の話を最後まで聞かない大人」とそれなりの数、会ってきた。

年齢は(私が会った当時で)40代後半〜60代だった。

男性の方が多く、ただ女性の方も中にはいた。

その方々は私がまだすべて話を仕切っていないのに途中で自分の話をよく被せてきた。

「それはこうでしょ」というように答えを導出しようとする被せ方もあれば、「それはこういうこと?」というように質問による被せもあったと思う。

話の結論が見えない場合、途中で被せたくなるのは分からなくもない。

だが「結論から言う」ことを学生の頃からトレーニングされていた私に関しては、結論がなかなか見えないことはおそらくなかったはず、、、、である。

(とはいえ、相手にわかる形で結論をはっきり明示できていなかった可能性はゼロではない)

「人は歳を取ると、相手の話を最後まで聞かなくなる」という現象は、私個人の経験だけに留まらない。

こちらのツイートに多くの反応が集まっているところを見るに「一般化できる」と言って過言ではないだろう。

そして、私に関して言えば、「自分の話を最後まで聞いてくれない人」を懇意にしたいとか、「自分の話を最後まで聞いてくれない人」と永く付き合っていきたいとはまったく思わないのだ。

相手の話を最後まで聞くという行為は、相手の存在を承認し、大切にすることとイコールであって、その感覚が得られない人を好かないというのは正常な感覚を持っている人であれば普通のことではないだろうか。

「人は歳を取ると、相手の話を最後まで聞かなくなる」ことに性差はなく、男性でも女性でも起きうる。

だが強いて言えば、プライドの高い傾向にある男性の方がより発症率が高い現象なのかもしれない。

「相手の話を最後まで聞かなくなる」と相手に好かれなくなる。

だから、友達ゼロの状態に向かっていく。

これが私が考える一つ目のロジックである。

2.「相手の話を最後まで聞かなくなる」と交渉が下手になる

そして、二つ目のロジックが「相手の話を最後まで聞かなくなる」と交渉が下手になる。

だから友達ゼロの状態に向かっていく、というものである。

話は変わるが、麻布高等学校、東京大学法学部と進み、マッキンゼーに入社し、日本交通の経営再建などを手がけながら、エンジェル投資家としてご活躍されながらも、病のため2019年8月に47歳で夭逝した「瀧本哲史さん」という方がいる。

ご存知の方もきっと多いだろう。

瀧本さんは生前、東大の伊藤謝恩ホールで行った講義の中で20代〜30代の参加者300名に対して一つの実験を行っている。

その実験というのが、

いま座っている席の隣の人に、自分が持っているものをなんでもいいので売り込む

というものだ。

売り込むものは、バッグにつけているぬいぐるみのような具体的なモノから、ビジネスのアイデアまでなんでもOK。

制限時間は7分で、自己紹介を簡単にした後で「この人だったら、こういうものを欲しがるだろうな」と考えてみて、提案するという流れだ。

結果はどうだったか?

瀧本さんが「いま相手の話を聞いて、「それはぜひ買ってみたい」と思った方、手を挙げていただけますか?」と参加者に尋ねると、手を挙げた人はたったの3、4%だったという。

これはつまり、ほとんどの人は、色々な提案したにもかかわらず、相手の関心がまったく得られなかった、ということである。

瀧本さんはこの実験結果を土台にして講義の中で「交渉」の本質部分へと迫っていく。

関心を得られなかったのにはいろんな理由があると思いますが、そもそも会ったばかりの隣の人が何に関心を抱いているか、わからなかった人がほとんどだったんではないでしょうか。

モノを売ったり相手の関心を得るときに大切なのは、「セグメンテーションされた情報を与える」ということです。「相手のニーズに応じたもの」と言い換えてもいいでしょう。

ほんの数十秒の自己紹介では、相手がどういう人かぜんぜんわかりませんから、当然その人の考えもニーズもわからない。だから、心に響く提案もできないわけです。

それをみなさんに実感してもらいたくて、やった実験なんですね。

結局、交渉というのは「言ったもん勝ち」ではなく「聞いたもん勝ち」。

自分の主張をガーガー言った方がいい、という交渉の一般的なイメージは間違っている。

交渉は「情報戦」に近くて、いかに相手側から情報を集めるかで交渉がまとまるかどうかが決まってしまう。

これが瀧本さんのいう「交渉の本質」である。

もうお分かりだろう。

「相手の話を最後まで聞かなくなる」と交渉が下手になっていくのだ。

相手から得られる情報が少なくなるのだから必然の流れだろう。

交渉とは言うなれば、異質な人とお互いの利害を調整して、手を取り合うためのコミュニケーション技術である。

したがって、交渉上手な人は新たに友達をつくるのも上手い。

相手から十分な情報を得ることができ、相手のニーズやウォンツにあわせたコミュニケーションを的確にできるからである。

一方、交渉が下手になっていけばそういうわけにはいかない。

新たに友達をつくるのは極めて難しい課題になってしまう。

「相手の話を最後まで聞く」は、人生を変えるコミュニケーション技術

「相手の話を最後まで聞かなくなる」と、相手に好かれなくなるので友達は離れていき、交渉が下手になっていくので新しく友達をつくることも困難を極める。

私が思うに、こういう2方向からのアプローチによって「友達ゼロ」に向かっていくのではないだろうか。

前述のとおり「相手の話を最後まで聞かなくなる」は、私について言えば男性と女性の両方で観測をしてきた。

その中で割合男性の方が多かったことを思うと、男性の方が比較的ゼロに向かいやすいのかもしれない。

ただ、あくまでも個人調べだ。

結局、相手の話を最後まで聞かなくなってしまった人は、男性でも女性でも等しく友達ゼロの状態に向かっていってしまう。

そういうことなのだと解釈している。

前述のツイート主は「相手の話を最後まで聞かなくなる」理由について、加齢とともにストックワードが増え、自分の中のストックワードで処理できる範囲ですべて応答したがるようになるからだと続けている。

これには直感的に納得がいく。

心理学者の榎本博明氏が挙げている「人が相手の話を最後まで聞かなくなる理由」も参照すると、より私の納得感は高まった。(*1)

1.他人に関心がない

→アラフィーになるとおおよそのことは経験していて、他人に対する関心が低くなる。

2.自己主張が強い

→欧米文化の影響で自分を主張したい、意見をいいたいという人が増えている。

3.気力が減退している

→年齢とともに体力・気力が減退し、会話の最中にうわの空になってしまうことも。

4.認知的複雑性に乏しい

→長い文脈で物事を理解することは心理学で「認知的複雑性」とよばれている。読書量が減るとこの性質が衰えて何事も単純化しやすくなる。数語を聞いただけで結論を出すのはその表れの可能性が高い。

いずれかに心当たりがある場合は、相手の話を最後まで聞けなくなってきているのかもしれない。

私ももちろん注意が必要である。

冒頭の「なぜ男性は加齢と共に友達がゼロに向かうのか?」という問いを起点にして、ここまで好き勝手に考えていることを書いてきた。

歳をとっても友達がいる人生とそうでない人生とがあって、どちらの人生を選ぶかはその人の価値観だからどちらだっていい。

ただ、歳をとっても友達がいる人生を過ごしたかったのに、気付いたら周りから友達がいなくなり、新たに友達を作ることもできなくなってしまっていた、となればこんな悲劇的なことはない。

「相手の話を最後まで聞く」は、人生を変えるコミュニケーション技術。

大袈裟に聞こえるかもしれないが、このくらい重要なものだと捉えておいていいのではないだろうか。

少なくとも今の私はそう思う。

*1.エクラ担当編集が検証!「人は年をとるにつれて、話を最後まで聞けなくなる?」

thumbnail: 今月から、スタジオジブリ作品の場面写真の提供を開始します

【著者プロフィール】

田中 新吾

経験則ですが、人は受け止めてもらえるだけでも相当満足する生物なのだと思います。 なので「人の話を最後まで聞く」がちゃんと身についていると世渡りがしやすいという解釈です。

幅を愉しむWebメディアRANGER(http://ranger.blog)の管理人・ブロガー・複業実践者。長年のマーケティングの経験があり、商品やサービスとお客さんの出会いを演出するのが得意です。

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