RYO SASAKI

クラフトビール沼にようこそ。~クラフトビールに見る時代の変化~

タナカ シンゴ

ビールというものはなんと美味しいものなんだろう?

毎年夏にしみじみ思う。

今年の夏も例年同様だった。

私がその美味しいビールをどのように選んでいただろうか?

お酒は好きだが、所詮は嗜好品だからお酒自体が贅沢なものだと思っていて、それでも、第三のビールは美味しくないからそこは譲れない。

こんな思いから、結局は長い間日本の大手のメーカーの有名なビールに落ち着いていた。

好みの変遷はこんな感じ。

こだわりなし → 一番絞り → プレモル → エビス 

私は私の合理的な選択のために、世の中にある美味しくて高価な商品をないことにする、=目を塞ぐというひとつのテクニックを持っていて、これは私を象徴する処世術のひとつと言っていい。笑。

自動車なんかも贅沢品だから、興味を持たない、じっくりは見ない、という時期が長くあった。

一時盛り上がった地ビールを飲む機会もあったが、リピートには至らなかった。

ところが、この私らしさが、数年前、旅先でカミカツビールに出会って大きく変わってしまった。

大手メーカーの有名ビールにはない美味しさを知ってしまって、その美味しさに私の合理的な判断が壊れてしまった。

一缶200円ではとても済まなくなってしまった。

国内、海外問わず様々なクラフトビールを飲み進めるうちに、IPA(インディアンペールエール)という苦みもコクもあるガツンとしたビールが特に美味しいことに行き着いたが、そうしていると今度は、アメリカンIPAやら、ダブルIPA、トリプルIPAやら、ヘイジー(Hazy)IPAなどの言葉を聞くことになった。

※後から分かったが、ダブル、トリプルはホップの量を多くしているもののこと。

これは、近所にできたクラフトビール提供店を知ってしまったことが大きい。

MOTS BEER PARTY 2021年11月3日オープン

どうやら、私が目を塞いでいるうちに世の中では、いろいろなことが起きていて、私が目を塞いでいたクラフトビールの世界は、とんでもなく深淵で、私が数年前に知ったのは、そのほんの入り口にすぎなかったようなのだ。

私は今、クラフトビールというこの不思議な沼にハマってしまいそうである。

今回はその沼で右往左往する様を見ていただきたい。

ブームが起きている!?

部分的な情報にすぎないが、国内のクラフトビールに関して私が知りえた最近の動きをピックアップしてみる。

まずは、ブルーワリー。

〇うちゅうブルーイング 山梨県北杜市

2018年醸造スタート

こちらは日本におけるヘイジー(Hazy:濁ったビール)のさきがけらしい。

タップルームが、2022年9月3日、山梨県北杜市小淵沢町にオープン。

〇ウェストコーストブルーイング 静岡県静岡市用宗

2019年醸造スタート

最近直営ホテル The Villa & Barrel Lounge

が2022年7月オープン。

全室にビアタップがあって飲み放題付の宿泊プランがある。

〇トートピアブルワリー  愛知県長久手市

2022年8月醸造スタート

クラウドファンディングにより約800万円を調達。

次にクラフトビール提供店

〇クラフトビアマーケット 2017年4月7日オープン

〇ガハハビール 2017年6月11日オープン

〇びあマ神田  2018年4月19日オープン

〇びあマ亀戸 2022年4月28日オープン

コロナなどの影響もありながらも、オープンの動きが盛んのようだ。

これらの動きは各地域の名称を冠した町おこしのクラフトビールとはまた毛色が違う。

日本のビールの消費量は右肩下がりだが、クラフトビールの消費量は伸びているらしい。

これは日本に限ったことではなく、東南アジアでもブルーワリーが台頭し、ワイン王国のフランスやイタリアの若者も好んで飲んでいるらしい。

そして、その火付け役となったのがアメリカ。

・アメリカのビール市場全体におけるクラフトビールの消費量

 2013年 7.8% → 2017年 23.7%

 ※日本ではまだ数%程度。

・アメリカのクラフトブルワリーの軒数

 1995年 794軒 → 2017年 6,266軒

 ※日本 マイクロブルワリー軒数 

 2014年頃 200軒以下 

 → 2022年8月 626軒 

と大幅に拡大している。

以前のアメリカではとりあえずビールはガブ飲みさえできればそれで幸せ!と考える人が多く、味に関して探求心を持つ人はあまりいなかった。

それがブームの始まりと言われる2000年初め頃に、

「もっと独創的な味わいのビールを飲みたい!」

「人と同じはなんか嫌っ!」

という人が出てきたことが発端なのだという。

「ガブ飲みさえできればそれで幸せ!」と思っていたのは、私も同じ、日本人も同じなのではないか?

国は違えど一緒なんだなあと思う。

「別を味わいたい」これも私も同じ、ならば、日本人も同じのはず。

そんな自然の流れがたまたまこの時期に世界で起こっているのかもしれない。

それには、ビールの原料のホップの新しい品種が最近できていることも影響しているみたいだ。

クラフトビール好きの人々

こんな変化の中で私が今美味しいと思えているビールは、Hazy(ヘイジー)IPAだ。

Hazy(ヘイジー)とは濁ったビールのこと。

IPAだから苦みやコクはあるが、Hazyは更に果実味、酸味があるものもあって、濃厚で非常に美味しい。

クラフトビールの中でもHazyIPAはかなりの人気でブームを牽引しているタイプのひとつらしい。

ここで、クラフトビール専門店のお客さんを紹介してみよう。

その日は、私の席の両横が千葉の市原などの遠方からやってきた人だった。

ここのタップに繋がれているビールはそれほどまでに魅力的なのだろうか?!

夏休みに和歌山から東京に遊びにきて、クラフトビールを飲み回るんだ、という20代の男性もいた。

自分が好きなブルーワリー、推しブル?の話になることは自然だが、推しブルの周年イベントなどでブルーワリーに直接出向いた経験がある人が実に多い。

「今回の〇〇〇v.24も美味しかったですねえ。」

などと最新ビールの味について、店主と会話が弾んだりする人もいる。

お客さんと専門店の店主とブルーワリーがつながって渾然一体となっているような感じがなんともいい。

ある時は、店主と女性のお客さんのやりとりが専門的過ぎて、全くついていけない。

あとから補足してもらってわかったのだが、どうやらHazyはいろいろな出来のものがあって、難しいというような話だった。

そこに別の男性が、

「樽の種類だとか、樽の中のどの部分を取るか?でも違うんですよね。」

とかぶせてきたりして盛り上がった。

HazyIPA好きだという私に、店主が言うことには、濁りは本来不要なものであって、だからただ濁ればいいというものではなくて、Hazyビールを造れるブルーワリーは澄んだビールも美味しく造れる技術がある、どう濁すかがポイントだ、と言う。

とはいえ、店主はIPA以外のものも好きで、いろいろなビールを味わってもらいたいという思いがあって、仕入れをIPAに偏らないようにしているようだ。

「私もIPAは苦手なんですよね。(ラガービールに分類される)フィルスナーや(最初にベルギーで造られた)セゾンビールなどスッキリしている方が好きです。」

そこに別のお客さんが、参戦してきて店主と意気投合。

IPA好きの私はひとり取り残されてしまった。笑。

この人もとにかく詳しい。

素人ではなさそうだが・・・。

後から、酒販店勤務の女性だとわかった。

秋は、褐色系のビールが旨い、とお勧めいただいた。

黒ビール好きで、奈良醸造のものが好きだという男性もいる。

IPA好きで私に共感してくれた男性もいる。

クラフトビール歴5年。

それ以前、体が大手メーカーのビールを一切受け付けなかったらしいが、ベルギービールは意外にも飲めて、それがはまるキッカケだったらしい。

ウェストコーストブルーイングも、最近オープンした宇宙ブルーイングのタップルームも、既に訪問済。

香り高いモルティーなビールが好きだ、という。

モルティーってなんだ?調べてみると・・・

モルティー:麦芽のもろみに由来する旨味に富んだリッチな香りのこと。

自分の若い頃にはなかったから、今タップルームなどに来ている20代が羨ましい、とも言っていた。

店主からはこんな話も聞けた。

国内ブルーワリーのビールは輸送時間が短いからフレッシュな美味しさがあり、海外から空輸されてくる缶ビールは、それがないからフレッシュ以外の別の旨さを持ち合わせていたりする。

どの特徴を味わうか?ということのようだ。

確かに味が違う気がする、??。

一旦わかってる風にしておこう。汗。

私はこのように、沼の新しい動きに、新しい単語に、キョロキョロして落ち着かずにいるのだった。

ワインとの違い

そう言えば、ワインブームもあった。

日本のワインブームはこれまでに7回あって、最初のブームが1972年頃だったという記事があった。

私が飲みだしたのは1990年代だから第4次高級ワインブームの頃だ。

当時を思い出すと、何か正しい知識の教科書があって、ソムリエがいて食との組み合わせにうるさくて、無知な私はオドオドしながら半分、納得がいかない半分で飲んでいたような記憶がある。

どこまで美味しいと思って飲んでいたのか、今思うとあやしい。

ソムリエは宮廷の食事やワインを管理する者をルーツとしているから、高尚なものとして日本に入ってきて(それは販売戦略のひとつだったかもしれない)、それに日本人のヨーロッパへの憧れが重なって、敷居が高く入ってきたように思う。

今のクラフトビールブームはどうだろうか?

若者から教わることばかりで、それぞれが詳しいのだが、みんな自分なんかは全然詳しくない、好きなだけだ、と口を揃えて言う。

言葉通り、自分の好みを純粋に追いかけているように見える。

それは権威的ではなくて、多様性に富んでいて、自由な世界だ。

これらのことは、ビールを教わる相手がすべて年下なので私に感じられる新鮮さによるものなのかもしれない。

ビールを教わる人に年上の人がいないのは、ビールが特別なものだからではなくて、単に私が年をとったからだ、と気づいて苦笑する。

今はワインも自由な世界になったのかもしれないから、ビールとワインの違いではなくて、時代が変わったというだけかもしれない。

最初のワインブームから数えて、約50年が経った。

日本の欧米へのあこがれはずいぶん薄まってきたんだろう。

ブームに乗っかるのではなく、無知を埋めてカッコつけるでもなく、純粋に自分が美味いものを求める、という当たり前すぎるこの本質に、大げさにも時代の変遷を感じる。

当時よりネットによってアンテナを立てさえすれば、情報はどんどんと入るようになっているから、フラットな時代に変わってきたんだろう。

各ブルーワリーも、自分たちが美味いと感じるビールを造っている。

個性的なビールは大手は造れない(採算から)から、本当の好みのビールは探求さえすればマイクロブルーワリーで見つかることになるだろう。

好みが分散することで、たくさんのマイクロブルーワリーが共存できることになる。

店主は、アメリカからの輸入クラフトビールと同等レベルのビールを国内で醸造できるブルーワリーが増えて、大手のビールにない、クラフトビールの美味しさがもっと認知されていく社会を目指したい、と言っていた。

思うに、クラフトビールを手がける地方のマイクロブルーワリーには、以下のワードとの親和性があるようだ。

・小規模分散

・独立(インディペンダント)

・多様性

・自分らしさ

・フラット

これらにはサスティナブルの要素も含まれていたりもして、まさに現代社会そのものの流れを表しているようで応援したくなったりもする。

なーんて、ただ美味しいもので酔いたいだけなのに、それ以外の飲む理由を後付けしたくなってしまっただけなんじゃないの!?。

自分が疑わしい。

今、クラフトビールは黎明期にあり、それぞれ多様な好みを持つクラフトビール好きが市場全体を盛り上げて行こうとしているようにも感じられる。

私は、この美味しいクラフトビールが手に入るようになった時代、そして新しいものが拡大していくなんともワクワクする時代に偶然居合わせたラッキーに感謝して、時代の変化を味わいながら、もう少し沼に身を委ねようと思う。

んっ!? 失礼しました。

飲みたいだけです、はい。汗。

参照:ビールの消費量

参照:アメリカのクラフトビールの特徴とは?歴史や種類、オススメのビールは?

参照:アメリカのクラフトビール事情、「そもそも何でブームなの?」

参照:最新626箇所!全国クラフトビール醸造所

参照:日本で7回起こったワインブームについて考えてみる

UnsplashElevateが撮影した写真

【著者プロフィール】

RYO SASAKI

来年の夏、私はビールに何を思うのか、その変化がまた楽しみです。

工学部を卒業後、広告関連企業(2社)に29年在籍。 法人顧客を対象にした事業にて、新規事業の立ち上げから事業の撤退を多数経験する。

現在は自営業の他、NPO法人の運営サポートなどを行っている。

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