「スローメディア」を支持する時間の経過と共に「自分のスローメディア化」が着々と進んでいる話。
あらためて言うまでもないが現代の「情報を取り扱うメディア」は雨後の筍のようだ。
テレビ、新聞、ラジオ、雑誌のような昔からあるマスメディア。
文学や科学技術などの文章を読むための書籍というメディア。
インターネットやスマートフォンといったメディアを土台にしてテキストメディア、動画メディア、ソーシャルメディアなど様々なデジタルメディアが今だに出現している。
最近も「Z世代がよく使うソーシャルメディア」という記事を見かけたが30代半を過ぎた私には半分以上が知らないものだった。
こんな感じで現代には取り取りのメディアがあるわけだが、皆さんにおかれてはどんなメディアが好みだろうか?
あるいはどんなメディアを求めているだろうか?
そもそもそんなことは考えもしないだろうか?
かくいう自分の話になるが、今現在、私が好きで支持しているのは「スローメディア」と呼ばれるメディア群である。
ここでスローメディアについての私なりの現時点での定義を述べておきたい。
スローメディアとは、
「時間に追い立てられず自分のペースでゆっくりと味わうことができるメディア」
である。
少し補足をすれば、スローメディアが時間に追い立てられないのは、タイムラインのような形式をしていないから。
ゆっくりと味わえるのは、情報の文脈や視点が丁寧に示されていて、著作者とじっくり対話することができるから。
そんなスローメディアの代表格は「書籍」になるだろう。
対する概念となる「ファストメディア」もここで触れておきたい。
ファストメディアとは、
「タイムラインの流れにのまれて、いつまでも見てしまい、FOMO(fear of missing out = 取り残されることへの恐れ)を感じてしまうメディア」
といったもの。
その代表格はご存知、Twitter、Facebook、Instagram、TikTokといった「SNS」が挙げられる。
そして、何を隠そう今の私が「スローメディア」を支持するようになったのは「長い間、ファストメディアに触れてきた」というのが大きい。
触れてきた中で上のような感覚を強く身にしてきたのだ。
改めて、人間が持つ「反転の力」というのはすごいものだなと思うばかりである。
私が支持しているスローメディア4選
具体的に現時点で私が支持しているスローメディアを4つご紹介してみたい。
①書籍
「書籍はスローメディアである」ということについて異論の余地がある人は少ないのではないだろうか。
書籍は、時間に追い立てられることなく、自分が読みたい時に自分のペースで書籍の中の情報に触れることができるスローメディアの王道だ。
情報そのものではなく、情報の文脈や視点が丁寧に示されているからこそ、「なるほど」と思えたり、自分の実経験と照らし合わせて「これは違うな」と感じたり、主人公が大事な人を喪って「これはきついでしょ」と悲しむことができたりする。
こうやって著作者の文脈や視点とじっくり「対話」ができるのも、時間に追い立てられることなく自分のペースで書籍の中の情報に触れることができるからだ。
私が生まれる前に出版された書籍を読んだ時この感覚はとりわけ生じる。
「世の中のことを情報そのものではなく文脈を収集しながら知っていきたい。」という欲求の強い私からすれば書籍ほどフィットするスローメディアはおそらくない。
②ニュースレター・メールマガジン
「ニュースレターやメールマガジンがなぜスローメディアなのだろうか?」と思った方もいるかもしれない。
この問いを考える上で参考になる記事を二つほどご紹介してみる。
まず私が現在購読中のニュースレターの一つで「Lobsterr」についての取材記事。
この中でLobsterrの発起人であるTakramの佐々木さんはニュースレターについて以下のような見解を述べている。
佐々木:大前提としてニュースレター自体が自分たちも急かされず、人のことも急かさないフォーマットだなと思います。
Twitterはいつ更新があるか分からないから無限スクロールしてしまうけど、ニュースレターは曜日が決まっているから自分たちも読者の方々も情報に対して脊髄反射したりする必要がない。
「自分たちも急かされず、人のことも急かさないフォーマット」とは本当に言い得て妙だと私は思う。
実際、Lobsterrをはじめとして複数のニュースレターメルマガを購読しているのだが、私が読みたいタイミングで、ゆっくりとその情報を味わうことができているからである。
そして自分自身もメルマガを毎週配信している中で「自分も急かされない」もまさに身をもって実感してきている。
二つ目が以下の記事。
ソーシャルからスローへ。メール配信で急成長を遂げるメディアたち
この中で特に個人的に重要な見方だと思えたのが、MarketingProfsアン・ハンドレーさんのコメントだ。
メールには、シェアする前に自ら考えるという役割が埋め込まれています。これをソーシャルメディアで体験するのはほとんど不可能です。だからこそ、私はメールを「スローメディア」と呼んでいます。
「メールはシェアする前に自ら考えるという役割が埋め込まれている」
これにはハッとさせられたのだが言われてみれば私はとても納得がいった。
このようないくつかの見方ができるようになると「ニュースレターもメールマガジンもスローメディアである」という考えを生じさせる人も出てくるのではないだろうか。
③音声配信メディア
そして「音声配信メディア」というフォーマットも私にとっては「スローメディア」に該当する。
代表格は「ポッドキャスト」だ。
ポッドキャストをよく聴くようになり6年以上になるが、時間に追い立てられることなく、自分のペースでゆっくりと味わうことができるのを実感してきている。
幾つかの番組をサブスクライブしているため、番組が配信されるたびに更新されていくわけだが視聴するタイミングは完全に私のペース。
具体的には「車で移動している最中」「洗車をしている最中」「掃除など意識が小さくてすむ家事をやっている最中」「移動のために歩いている最中」「仕事の休憩時間」の5つの時間に限っている。
この他のタイミングで聞くことはない。
ちょっと前までは「ランニングしている最中」にも聞いていたのだがこれは止めた。
何度か試行した結果、ランニングしている最中はその時に立ち現れる思考モードの方を大切にしたいと思うようになったからである。
ちなみに同じ音声配信メディアという括りでは「ボイシー」もあるが、ボイシーの場合SNSのフォーマットが色濃いのと、インフルエンサーで毎日更新のチャンネルも多く、フォローしすぎると時間に追い立てられてしまうので、現時点ではよく考えて使うサービスという位置付け。
④NHKオンデマンド
そして4つ目は上の3つとはレイヤーが揃っておらず申し訳ないが、動画メディアの「NHKオンデマンド」である。
NHKオンデマンドも私にとっては時間に追い立てられず自分のペースでゆっくり味わうことができるため、大事にしたいスローメディア。
NHKオンデマンドには、情報の背景や文脈を時間をかけて丁寧に取材したコンテンツが多く、5年前10年前のものを今視聴したとしても私にとっては本当に大きな発見があるものが多い。
特に好きな番組は、NHKスペシャル、100分de名著、プロフェッショナル仕事の流儀、英雄たちの選択、ヒューマニエンス、ブラタモリ、クローズアップ現代といったあたりだ。
スローメディアを支持する時間の経過と共に「私のスローメディア化」が着々と進んでいる
極論を言えば、どんなメディアのフォーマットであっても、自分の心持ち次第でそれはスローにもファストにもなり得る。
しかし経験則から思うに、やはりタイムラインのようなフォーマットはファスト的になりやすく、逆にニュースレターのようなフォーマットはスロー的になりやすい。
そのメディアはどんなフォーマットであるのか。
言い方を変えれば、そのメディアがどんな環境をしているのか、によって私たちが受ける影響は大きく変わるのだと思う。
このように注意を払うようになった結果が前出の4つのメディア群への支持である。
そして面白いと思えるのが、スローメディアを支持する時間の経過と共に「私のスローメディア化」が着々と進んでいるということ。
それはまるで「好きな人や物に自分自身が染まっていくように」だ。
以下に時系列でその進行の状況を示してみたい。
<2021年〜>
●2021年7月RANGERにリニュアルする以前のメディアの頃から記事の投稿は「毎週水曜日」に固定としていた。
それより以前は毎日投稿をしていたこともあったが、毎日投稿だと時間に追われるため投稿ペースを調整した背景がある。
●その分、一つの記事の情報の背景や文脈あるいは情報の関係性を丁寧に示していくことで、息の長い、欲を言えば5年後10年後でも何かしら味わうことができる記事を意識して作ることを心がけるようになった。
<2022年〜>
●2022年2月からはメルマガの配信をスタート。毎週金曜日12:30頃に固定配信。
メルマガはスローメディア的で相手も自分も追い立てることがないフォーマットである、という理解から始めてみることに決めた。
<2023年〜最近>
●Twitterの取り扱いが定まるまでが一番時間がかかったが、ようやく納得するスローメディア的な方向性を最近発見。投稿をセットする時間は平日は10分×1回、閲覧して反応する時間は3分×3〜4回のタスクとして処理する。
以上がざっくりとだが「私のスローメディア化」の進行状況だ。
個人的には最近見つかった「Twitterのスローメディア化」の方針が大きい。
どんなにファストになりがちなフォーマットであっても、思想およびそれに伴う工夫次第でスロー的にできることが身をもって分かったからである。
Twitterを使うようになってもう10年以上になる。
使い続けながら迷い続けてきたからこその現在地なのかもしれない。
2022年11月にオープンした「ジブリパーク」のサイトに行くとはじめに目に飛び込んでくるのが「ゆっくり きて下さい。」というコピー。
ここにスローメディア的なメッセージを感じるのはきっと私だけではないはず。
メディアが爆発的に増えた社会であるから、どうやってメディアと付き合っていくのかについて悩み、考えを巡らせている人はきっと私の他にもいるように思う。
拙い経験則ではあるが、そんな方にとってこの話が何かの参考になれば嬉しい。
UnsplashのGilles Lambertが撮影した写真
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスクと時間を同時に管理するメソッド)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
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