田中 新吾

運動している最中に頭が冴える。その本質的な理由を知って納得した。

タナカ シンゴ

過去の記事にも書いたとおり、私はランニングやウォーキングといった運動をすることを基本的に「自分ミーティング」と呼んでいる。(*1)

これはランニングやウォーキングをしている最中は頭がすごく冴えて、新しいアイデアが生まれたり、モヤモヤしていたものが整理されてスッキリするという実感から命名したものだ。

運動している最中に頭が冴える」という実感は「新たな読書スタイル」の誕生にも影響している。

それは「部屋の中で歩きながら読書をする」というもので、代表的な日本人と言われる「二宮金次郎」と「運動している時に頭が冴える」が結びついて生まれたものだ。(*2)

「歩きながらなんて読めないのでは?」という最初の思いに反して、相変わらずこの読書は面白いくらい捗っている。

この「運動している時に頭が冴える」という実感に対して、私は「地面を足で蹴ることで脳血流が良くなるからではないか?」という仮説を立て、誰かに説明したりすることで検証しながら自分を納得させてきたところがあった。

しかし最近になってこれには本質的な理由があることを知った。

そしてそれは個人的にとても納得がいくものだった。

「ストレス脳」という新しい本の中にあった

知ったのはベストセラー本「スマホ脳」で知られる精神科医アンデシュ・ハンセン氏が著した「ストレス脳」という新しい本の中だった。

本書のテーマは、これほど快適に暮らせるようになったのに、なぜ多くの人が精神的な不調を訴えているのか?

この答えを探すことだ。

そして、うつや不安からどうやって脱却するのかを提案することだと私は解釈した。

前作のスマホ脳を土台にして、それをさらに発展させたものとも言えるかもしれない。

そんな本書を読み進めていた私の目に興味深い研究結果が飛び込んで来たのだ。

学生たちにヘッドフォンで単語を聞かせ、あるグループは歩きながらそれを聞き、別のグループは座ったままそれを聞いて48時間後にテストをしたらどうなったか??

歩いていた学生の方が20%多くの単語を覚えていたという結果になったというのだ。

さらに別の調査では、運動している時の方が集中力が高まり、発想力も上がるという結果が出ていたり、運動した1時間後にブレインストーミング能力が60%以上も向上したという科学的な発見もある、ということだった。

これはつまり「運動が思考能力を向上させる」ということが科学的にも証明されている、ということである。

運動で「精神状態が強化される」ことは突き止めていたハンセン氏にとって、思考能力と運動の関係性を見出したこの結果は驚くべき発見だったという。

この運動が記憶力や集中力、発想力といった思考能力に大きく影響を与える件についての彼の説明は、

・なぜ運動が記憶力や集中力、発想力といった思考能力にそれほど大きな影響を与えるか。考えられる説明としては、私たちが歴史上のほとんどの時間、身体を動かしていた時に思考能力を最も必要としたから。

・狩りや採集という運動の最中に新しい情報を得て、それをちゃんと覚えておかなければいけなかった。

・脳が今の世界に適応しているとすれば、私たちの思考能力はパソコンの前に座っている時に一番研ぎ澄まされるはず。

・しかしパソコンはここ2世代しか存在しておらずそんな短い期間では人類の脳は適応することはできない。

といった具合になる。

人類の歴史上のほとんどの期間、思考能力を最も必要としたのは運動している時。

その何万世代の時間に比べたらパソコンの前に座るようになった時間など極めて短小で、そのような短い期間で脳が一番冴えるように適応できるわけもない。

だから今もなお脳は運動している時に一番冴えるように適応している。

私はハンセン氏のこの説明に対して直感的に納得がいった。

そしてこれこそが「運動している時に頭が冴える」という現象の説明として相応しく、最適と思うに至ったのだ。

「脳血流がよくなるから」も一理あり、間違ったものではないだろう。

しかし、より本質的な理由は我々人類の「進化」の中にあったのだ。

このテーマは長らく考えてきたことでもあり私にとって遥かに大きな発見となった。

もしかして年々頭が冴えなくなってきている?

そして同時にこんなことを考えるにも至った。

年々座っている時間が伸びていると言われる現代人の頭は、年々冴えなくなってきているとも言えるのではないだろうか?

買い物を通販で済ませるなど、私たちの生活は日に日に便利になっていく一方だ。

便利を追求する欲求のエネルギーは本当に底が知れない。

しかし、この利便性を得る一方で運動量がどんどん減少しているという問題が顕在化してきている。

厚労省が発表したデータによれば、90年代後半を境に労働、家事、通勤といった日常生活での身体活動は年々減少しているとある。


出典:あなたの日常は大丈夫?実は怖い、「座りすぎ」の話。

ここにコロナ禍の影響も加わり、ますます運動をしなくなってきているといった具合だ。

このことは「ストレス脳」の中でも触れられている。

ハンセン氏曰く、私たち人類の祖先は1日に1万5,000〜8,000歩ほど歩いていたと考えられるが、それに対して現代人は1/3程度しか歩いていない。

しかも人類の長い歴史の間に歩数が減ったのではなく、短期間で減っていることも指摘していた。

日本人は座っている時間が世界一長い国民」というデータもある。

これはオーストラリアのあるシドニー大学が世界20か国を対象に「平日の座位時間」を調査したものだ。

その結果、日本人は最長の「1日7時間(420分)と最も座っている国民」ということが分かったというものである。

日本人は世界一座っている!?

出典:日本人は世界一「座りすぎ」? 糖尿病や認知症のリスク…仕事見直す企業も

歩かなくなり、座りすぎな私たちに、部位の痛み、代謝の低下、血流の悪化、そしてメンタルを崩すなどの悪影響が指摘されていることはすでに認識している人も多いはずだ。

この悪影響群の中にもしかして「頭が冴えなくなる」も加わってくるのではないか?と私はストレス脳を読み、思ってしまったのだ。

現代のビジネスシーンでは「自分の頭で考えろ」というフレーズをしばしば聞くが、これは考えられない人が多いために生まれた言葉と言って違いない。

人間の思考力が最も高まる運動時間がどんどん減っていることを考えれば、考えられない人が増えるのも当然のことなのではないだろうか。

そんなことを今思うのだ。

運動はまだ手付かずの宝の山

運動している最中に頭が冴えるように私たちの脳が適応していることを知れば、誰もが「じゃあ運動しよう!」となりそうである。

しかも運動は、鬱や不安やストレスを和らげ、身体の各器官を強め、自信も高めてくれるというのだから良いこと尽くしでしないことが本当に馬鹿らしい。

(これらのことはストレス脳に詳しいので興味があれば手にとってみて欲しい)

なのになぜ明らかに自分にとって良いことをしない人の方が実際のところは多く増えているのだろうか??

この疑問についても「ストレス脳」の中に納得いく説明があった。

・人類の歴史のほとんどの期間で命を脅かす甚大な脅威は飢餓だった

・だから、私たちの脳は運動するという環境を前提に進化した以前に、何よりも生き延びるために進化をした

・そしてその期間、カロリーは滅多にお目にかからない贅沢品であり、見つけたら即座に食らいつくようにプログラムされ、摂取したカロリーは無駄にしないようにも進化した

・進化というものは非常に時間がかかり、何十年ではなく何万年のスパンで起きる話であるため、私たちの脳はいまだに現代社会には適応していない

ざっくりとだがこんな内容が示されていた。

ソファに座ってネットフリックスやユーチューブを観るよりも、どうしてもジョギングに出たい」という考えが内から湧き上がってきにくいのは、運動欲求よりも圧倒的に強い「カロリー欲求」が内臓されてしまっているから。

残念ながら?私たちは先天的に怠惰なのだ。

いやむしろ怠惰でなければならない。

汗だくになって走っては同じ場所に戻ってきたり、重いものを持ち上げては下ろすなんてことをしていると知ったら、私たちの祖先たちはきっとそれを狂気の沙汰だと思うのだろう。

このようなことから、私たちは運動に対してごくナチュラルに矛盾した態度をとってしまうということである。

しかし、こういうロジックがあることは極めて重要な学びと言っていいだろう。

運動とは見方を変えれば「宝の山」だと言える。

鬱や不安やストレスを和らげ、身体の各器官を強め、自信も高め、さらには思考能力までも高めてくれるなんてものはそうそうない。

ただ、こういう捉え方をしたとしても強いカロリー欲求には負けてしまうことも多いだろう。

しかし「運動している最中に頭が冴える」その本質的な理由を知って納得した今の私は、以前よりも運動することに対してずっと前向きにになっていることだけは間違いない。

現代の環境下において、いかに運動の時間を増やすか?

これが目下私の課題として明瞭に顕在化された感じである。

本当に長い時間座っていてはならないのだと今は思えてならない。

さあイスから立ち上がって運動をするんだ!自分よ!

自分の健康のため、そして思考能力のためにもなるのだから。

Photo by Tikkho Maciel on Unsplash

*1:自分にとって「不都合な言葉」は、呼び方を変えてしまえばいい。

*2:二宮金次郎のように「歩きながら読書」をする習慣が確立してきた、という話。

【著者プロフィール】

田中 新吾

今年は遥か昔の祖先に思いを巡らせるようなこれまでとは一味違うお盆になりました。

ネーミングに強いプロジェクトデザイナーとして、企業や個人やNPOの顧客・商品・マーケットを生み出すプロジェクトの支援をしています。元マーケティングファーム ディレクター。Webメディア(http://ranger.blog)管理人。Twitterではプロジェクト進行や、顧客・商品・マーケット創出の助けになる知見・ノウハウを発信。

すべてではありませんがここ数年の実績をまとめています。

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