タナカシンゴ

なぜ「どんなジャンル」の仕事でも高い評価を得られるクオリティを出せるのか、という話。

先日「佐藤可士和展」に行こうと思いオフィシャルHPを開いたら緊急事態宣言の影響を受け予定よりも早く会期が終了したとの知らせが書かれていた。

都内の感染症の状況などあまり気にせず、もっと早くに観に行けば良かったと私は大きく後悔した。

言わずもがな、クリエイティブディレクター佐藤可士和氏の仕事はいずれも「日本を代表する作品」ばかりである。

その「ジャンル」は本当に多岐に及ぶ。

・UNIQLO

・セブンイレブン

・日清食品

・国立新美術館

・今治タオル

・ヤンマー

・楽天

・HONDA Nシリーズ

・三井物産

・CCC

・キリンビール

・SMAP

こう見ていると、なぜ「どんなジャンル」の仕事でも高い評価を得られるクオリティを出せるのか、と不思議に思う方も多いだろう。

私にもその理由は分からないでいた。

しかし、

展示会に行くことが叶わなかった悔しさで読んでいた「佐藤可士和の超整理術」という本が、この疑問を払拭し、納得のいく答えを私に提示してくれた。

「他人事を自分事にする」力こそがクオリティの発生源

この本は「なぜクリエイティブディレクターが整理術を?」という問いを持つところから読み進めていくことになるわけだが、読後いかに仕事において「整理」という技術が重要な位置を占めるかを知るに至る。

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空間の整理術。

情報の整理術。

そして、思考の整理術。

いずれも洗練された内容で極めて本質的だ。

そして、私が最も感銘を受けた項目こそが「なぜどんなジャンルの仕事でも高い評価を得られるクオリティを出せるのか」についての答えになっていた。

可士和氏は「他人事を自分事にする」ことを非常に大切なポイントにしていたのだ。

「他人事を自分事にする」

これは思考の整理で非常に大切なポイントです。

あいまいなものを情報にして、さらには問題点を見出して解決していくわけですから、自分との接点を見出さないと実感が湧かず、目指すビジョンも空々しいものになってしまう。

これは、決してエゴを持ち込むことではありません。

自分勝手なイメージを作り上げるのではなく、対象のなかから本質を導き出すというアプローチだからこそ、いかに自分のモチベーションを上げていくかが大事になってくるのです。

ですから、対象をねじ曲げて自分に引き寄せるのではなく、対象と自分との接点に近づいていくことでリアリティが生まれるのです。

例えば、こんな話がある。

「今治タオル」のブランディングプロジェクトの話だ。

このプロジェクトが始動したのは2006年頃。

当時「地域産業のブランディング」は可士和氏にとって未経験の分野で、最初は自分に何ができるのか、いまひとつ見当がつかなかったという。

そもそも今治タオルのことでさえピンときていなかったそうだ。

「佐藤可士和」でも悩むことはあるのだ。

普段どおりに「顧客への問診」から始めたものの、今ひとつ集中してプロジェクトに取り組むことができない。

一体なぜだろうか。

こう考えた時、

「自分自身との接点がないからリアリティをもって捉えられていない」

「リアリティがないから本当の意味での問題意識が生まれず、モチベーションが上がってこない」

このことに気づいたという。

ではそんな可士和氏は、どうやって今治タオルのプロジェクトに自分自身との接点を見つけ、リアリティを持ったのか。

曰く、

顧客に対して、丁寧に問診を続けて、掘り起こして、自分自身が共感できるポイントを見つけ出した。

これに尽きるという。

実際、この時は問診の中から、タオルをアピールするというだけの話ではなく、自分の国「日本」をどうブランディングするか、すなわち「国家ブランディング」の一環という視点で見つめ直したら突然リアリティが湧いてきたそうだ。

そして、このような所作こそが「他人事を自分事にする」ことだという。

たとえ担当するプロジェクトにおいて、個人的な接点が見当たらない場合でも丁寧に問診をして自分との「強い共感点」を見出す。

強い共感点が見出せればエネルギーはいくらでも湧いて出てくるということだ。

思うに、この「他人事を自分事にする」力こそが、可士和氏のどんなジャンルの仕事でも高い評価を得られるクオリティの発生源になっている。

他人事とは「他人のためになる事」で、自分事とは「自分のためになる事」。

つまり「他人事を自分事にする」というのは「他人のためになる事を自分のためにもなる事として捉え直す」とも言い換えることができる。

HONDAの創業者である本田宗一郎氏は、胸に来る言葉を多く遺しているが、その中に以下のようなものがある(*1)。

まず自分のために働け

「私はいつも、会社のためにばかり働くな、ということを言っている。

君たちも、おそらく会社のために働いてやろう、などといった、殊勝な心がけで入社したのではないだろう。

自分はこうなりたいという希望に燃えて入ってきたんだろうと思う。自分のために働くことが絶対条件だ。

一生懸命に働くことが、同時に会社にプラスとなり、会社を良くする」

いい仕事をするために底なしの「エネルギー」を生むには、「自分のため」に働くことは絶対条件なのだ。

リアリティが生まれ、他人事が自分事になった瞬間

振り返ってみると、自分の経験の中にも「他人事を自分事にする」ことに思い当たるものがあった。

前職東京のマーケティングファームにいた時のことだ。

私は「ドッグフード」の販売を行うグローバル企業のマーケティング支援を約2年ほど担当したことがある。

リサーチ、商品開発、集客、CRMなど幅広くサポートした。

世界的な企業はさることながら、毎月の売上金額が大きく会社全体としても注目されるプロジェクトだった。

少し昔話をする。

私が中学1年生の時のことだ。

ある日、放課後友達とサッカーのミニゲームをしていると、私目掛けて猛然と見知らぬ「」が走ってきた。

まったく訳がわからない。

突際に「このままでは噛まれる」と思った私は全速力で走って逃げた。

この時ほどそこそこに足が早くて良かったと思う日はなかった(中一の時、確か100m14秒フラットくらい)。

噛まれたくない一心で「200m」くらい一気に走り抜いた。

走り抜いたところで犬は追いかけるのを止めどこかへ消えていった。

周囲にいた友人達はその光景を見て大爆笑していたが、こちらは本当に笑えるような状況ではなかった。

この日から私は「犬嫌い」になったのだった。

ドッグフードのプロジェクトの話に戻そう。

実は、こういう過去もあって当初私はプロジェクト運営に全く乗り気にならなかった。

プロジェクトの中では犬ともたくさん接することが確定していたからだ。

まったく恥ずかしい話なのだが、いくら世界中に名の知れた企業のプロジェクトといえど、自分の嫌な気持ちの方が優っていた。

感情は思考よりも遥かに強し。

ほとんど「他人事」の状態だったと言っていい。

ところがある日。

プロジェクトを進めていく中で親密になっていった外部の専門家の方に「なぜ犬のしつけがうまくいかないオーナーが多いのか」といったような話を丁寧に教えていただく機会があった。

すると、その話の中から「上司と部下」といった「人間関係」における共通項や応用できるものが私に見えてきたのだ。

「人間関係」には強い関心があった私には目から鱗で、その時からプロジェクトを捉え直し、エネルギーが湧き出るように変わり、クオリティを高めようと努めるようになった。

佐藤可士和氏のいうところの、自分自身との接点が見つかり、リアリティが生まれ、他人事が自分事になった瞬間だった

これを「あらゆるジャンル」において実践されてきた軌跡と現在地こそが「佐藤可士和展」なのだろう。

もう畏敬の念を抱かざるを得ない。

曖昧さと不確実性が増すと「幅」がどんどん重要になる

科学ジャーナリストのデイビッド・エプスタインが著した「RANGE」という本の中に、非常に興味深い研究報告が上がっている。

ある研究者達は、880の組織の3万2000チームによる15年間の「技術特許」を分析した。

その中で、

・個々の開発者がチーム間を移動するのを追跡し、それぞれの「発明のインパクト」を検証する。

・各技術分野の「不確実性」も測定する。

を行ったという。

すると、「不確実性が高い分野」には、全く役に立たなかった特許が多数だったが、その一方で「大当たり」した特許もいくつがあることがわかった。

将来の方向性が明確な「不確実性が低い分野」は、まあまあ役に立つ程度の特許が多く大当たりはなかったという。

そして、まあまあ役に立つ程度の特許を開発しているのは「専門特化のスペシャリストチーム」が多かった。

反対に、大当たりした特許を開発していたのは「幅広い技術分野に関わった経験のある人がいるチーム」だったという。

これは要するに、分野の不確実性が高ければ高いほど、チーム内に「幅の広い人材」を持つことが重要ということなのだ。

別の研究結果もある。

幅の広さ」が「クリエイティビティ」にもポジティブに影響していたのだ。

「コミック」のジャンルには、コメディーや犯罪、ファンタジー、アダルト、実話、SFなど20程度ある。

この研究によれば、経験年数はクリエイターの差別化にはつながらなかった一方で、「幅広いジャンルを経験しているクリエイター」は、平均的に商業的価値の高いコミックや、革新的なコミックを生み出していたのだ。

また、50万本以上の学術論文の中で、分野の異なる知識を組み合わせて行われた研究は、当初は評価されなくても、のちに大ヒットとなる研究が高いという報告もあった。

この本における重要なテーゼを抽出すると以下のようになるだろう。

十分に説明されていて、理解されている問題なら、スペシャリストが本当にうまく解決する。しかし、曖昧さと不確実性が増すと幅がどんどん重要になる

思うに、専門特化は少しも悪いことではない。

程度の差こそあれ、みんなどこかの時点で何かしらの専門を決める。

しかし、エプスタイン氏曰く、「不確実性の高い現代」や「すぐにルールが変わる意地悪な世界」においては「」が大きな力になってくるということだ。

であるならば、佐藤可士和氏のようにあらゆるジャンルに関わることができ、どんなジャンルでもクオリティを発揮できる人であればあるほど、これからの時代に「有利」という事にはならないだろうか。

少なくとも私は「他人事を自分事にする」力の必要性とその重要性を今大きく感じている。

そして、この力を磨くことは仕事にのみ活きるのではなく、あらゆる「人との関係」や「社会との関係」を今よりもずっといい感じにしてくれると思うのだ。

*1 Hondaイズム

Photo by Hao Wen on Unsplash

【著者プロフィール】

タナカ シンゴ

この間、約2ヶ月ぶりに「ホームサウナ」に行きました。

サウナ室が改装されデュアルタワーに容赦無く降りかかるオートロウリュと風に吹かれて2セットで完成。神が見えたような気がします。

理工学部卒業後、東京のマーケティングファームに7年勤務。営業、リサーチ、コンサル、商品開発、集客、マネジメントの現場経験を積みジョブチェンジ。

現在は一人会社との複業で、中小オーナー企業や地方自治体をクライアントに商品開発と集客のプロジェクト運営などを行っています。

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