田中 新吾

プロジェクトの推進において、「関係者の不安を取り除く」と同じくらい大事にしている「関係者の期待値調整をする」件について。

タナカ シンゴ

先日、とある方(以下、Aさん)と会食をしている最中に「プロジェクトを上手く進めるためのコツ」について話をする時間がありました。

きっかけは、Aさんから「田中さんがプロジェクトを進める際に、何かコツとしているものはありますか?」という質問をいただいたことでした。

色々話を聞くとプロジェクトマネジメントに悩みを感じているということが判明。

私は少し考えた後、「色々あるにはあるのと、プロジェクトのフェーズによってコツは異なるのですが、例えば、プロジェクトの初期段階では関係者の不安を取り除くことにめっちゃ力を入れます」と回答しました。

理由もあわせて続けて説明をすると、Aさんは非常に納得が行ったようで、遥かに大きく感謝されました。

不安を取り除く件については、以下の記事にも書いたことがある内容です。

ある考え方とは、仕事でプロジェクトを進める際に「関係者の不安をいかに解きほぐすか」をめちゃくちゃ大事にしているというものです。

以下でもう少し掘り下げた説明をしてみます。

思うに、仕事を任せた側には「不安」がつねに付き纏います。

「時間はどのくらいかかるのか?」
「本当に終わるのか?」
「適切なクオリティのものになるのか?」

といった具合にです。

ですから、このような不安を取り除く行動を丁寧にとることができれば、相手に安心を与えることとなり、相手からの信用が積み重なるわけです。

で、Aさんが「もう一つあるとしたら何でしょうか?」と聞いてくるので、私は同じくらいめちゃくちゃ大事にしているのは「関係者の期待値調整をすること」と答えました。

プロジェクト型の仕事に携わるようになり、早15年以上が経ちましたが、そんな中で強く実感してきたことは、どんなに気合いを入れた提案も、どんなに流暢な説明も、関係者の期待とずれていたら普通にスベる、ということです。

関係者の期待を把握し、その期待に応える。

そうすることではじめて評価をいただくことができる。

品質が良ければ、評価が得られるのではありません。

大事なのは関係者の期待値とのギャップです。

例えば、どんなにいい商品やサービスでも関係者の期待値を下回れば評価は下がってしまいます。

その一方で、ちょっとしたことでも関係者の期待値を超えることができれば「めっちゃいいじゃん!」と評価が高まり、感謝してもらえる。

このように、関係者の期待値を超えていけるよう様々な局面で期待値を調整すること。

それが「期待値調整」です。

プロジェクトの成功も突き詰めると、特に重要な関係者は、プロジェクトオーナーですから、プロジェクトオーナーの期待値を超えることができたかどうか?になると思っています。

つまりは、プロジェクトマネージャーの腕の見せ所はプロジェクトオーナーの期待値調整であるということです。

これまでに「(裏切られると辛いので)人に期待するのはやめましょう」といった言及を時々目耳にしてきました。

つい最近もXのタイムラインで目撃しています。

実を言えば、私も一時は似た様なことを言っていた時がありました。

「人に期待するのはやめましょう」と。

でも謝らなければいけないのですが、人間である以上、期待の程度の調整はできるにしても、「相手に期待をしない」を完全に実践するのは無理難題なことなんですよね。

「人に期待しない」と心に決めていても、やっぱりどこからしらで期待をしてしまう。

思うに、期待という感情ほど制御するのが難しいものはない。

様々な経験を通してこのあたりがよくわかってきました。

そして、その大なり小なり期待してしまうという性質が我々に備わっているからこそ、相手からの評価も生まれるし、相手からの信頼も生まれる。

こういう循環の中を我々は生きているのだと思います。

随分前のことですが、私が住んでいる地域の産業文化センターというホールで、ファクトリエの山田社長が講演される機会がありました。

ファクトリエさんのことはそれ以前から知っていたため、話が聞けると知って直ぐに申し込んだのをよく覚えてます。

とにかく刺激的で学びの多い講演だったのですが、特に覚えているのは、「期待されていないところを徹底的にアプローチすると満足度があがる」という話です。

具体的には、配送用のダンボールの中にトリビアを入れるなどのサプライズを加えることで、お客様が熱狂してくれて、口コミが起こるといった話でした。

これもまさに期待値調整で、今思い返しても極めて納得がいく話です。

プロジェクトの関係者から、「今日中に連絡します!」と聞けば、普通の人は今日のうちに連絡がくるものだと期待します。

そこで、今日中に連絡をすれば当然期待どおりになるわけですが、意外と今日中に連絡せず、その期待を裏切ってしまう人も結構いるという経験則です。

実はこの間もそんな経験をすることがありました。

「なんだそんな些細なことを気にしているのか?」と思った方もいるかもしれませんが、私はこの辺の本当に些細なことでも、仕事に関しては実はめちゃくちゃ気にします。

プロジェクト推進においては、日々様々なコミュニケーションが展開され、コミュニケーションが発生する度に相手の期待やこちらの期待が発生する。

つまりは、私たちは常に大なり小なりの期待値調整をしたり、されたりする局面にいるということ。

そのさまざまな期待値調整の局面で、関係者の期待値を超えていく、という積み上げを丁寧に行なっていった先に、プロジェクト全体の期待値も超えることができる、といった捉え方です。

逆のことをしてしまうとその結末は言葉にするまでもありませんよね。

ちなみに期待値調整は、冒頭の「不安を取り除く」というムーブとも密接に絡んでいます。

例えば、プロジェクトの初期段階で、期待値としての進捗を実際の進捗が上回っていると感じてもらえると、安心して任せてもらえるようになるわけですが、これはつまり、期待通りにいくのかわからないという不安を取り除いたということです。

最近、AIの話題を聞かない日はないくらいAIがすごいですが、「期待値調整」は、AIがこの部分を直接担うことはできず、人間にしかできない重要な仕事なのかなと思っています。

AIに関しては、AIに対するコミュニケーションにおいて、常に自分に対しての期待値調整を行っているという捉え方です。

具体的には、自分が期待する通りの回答が得られるように「プロンプトを調整したりすること」はまさに、自分の期待値に対する期待値調整なのだと思います。

ここまでつらつらと書いてきましたが、Aさんにはこのような話をしたと思います。

結構盛り上がりました。

そして、どうやらこれも大きなヒントになったようで、不安を取り除く話の時と同じかそれ以上に、感謝をされた気がします。

そういえば、Aさんにお伝えするのを忘れてしまったのですが、とはいえ、期待値調整をして「期待に応えること」がゴールになってしまうと「面白さが後回しになりがち」なことも押さえておくとよりよさそうです。

この辺はバランス感覚を養う必要があるのかもしれませんが。

さいごに、三谷幸喜さんの座右の銘をご紹介させてください。

期待に応えて、予想を裏切る。

裏切るのは期待ではなく、予想である。

短い中に本質が詰まった金言だと思いませんか?

以下は昔々に書いた記事ですがこちらももしよければご覧ください。

今回書いておきたかったことが以上です。

UnsplashKristina Paparoが撮影した写真

【著者プロフィール】

著者:田中 新吾

引き続き、関係者の期待値調整は重要事項として取り組んでいきたいと思います。

プロジェクト推進支援のハグルマニ代表。 お客様のプロジェクトの推進に必要とされる良き「歯車」になるがミッション。 現在は、大企業様、中小企業様、NPO法人様など複数のプロジェクトの歯車になっています。 ネーミング、習慣、コミュニティ、地域づくり、タスクシュート、白湯、情報化、情報処理が探求と実践の領域。

●lit.link 田中新吾

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

記事URLをコピーしました