田中 新吾

仕事において、想像力を働かせて、相手の期待をしっかり把握することは、凄く大事な作業だと思っている。

タナカ シンゴ

マーケティングファームに勤めていた時に読んだ本の中で「コンサル一年目が学ぶこと」は、私が「仕事の流儀」を確立する上で結構参考にした本だ。

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確か、入社して3年経った頃くらいに、当時住んでいた新宿区にある書店で「鮮やかな青の表紙」が目に入り軽い興味本位で手に取った。

著者は外資系コンサル出身の方。

本を手にとった時、私の一年目は当に過ぎていた。

だが読むと、まるで今の自分のために書かれたような内容で何度も読み返しては、現場経験と照合したりをしていた。

そして、書かれていた項目の中でとりわけ忘れられないのが、

ビジネスをする上で一番大事なものは何か?

それは相手の期待を越え続けること

という問答の部分である。

著者がこの質問を多数のコンサルタントにしたところ「これこそがビジネスにおける一番の秘訣」だと、全員のコンサルタントの答えが一致したそうだ。

「相手の期待」とは平たく言えば、「相手がやってほしいと思っている」ことである。

「相手の期待と関係ないこと」をいくらやっても評価されない

本の中に出てくる「コンサル1年目にマネージャーから激怒された人」のエピソードをご紹介したい。

そんなこと、1ミリも頼んでいない!

彼は、コンサルタント一年目にマネージャーから激怒されました。その理由が、「ていねいな仕事をしてしまった」からだと聞いたら意味が分からないかもしれません。でも怒られた。

どういうことでしょうか?

彼は、一年目で配属されたプロジェクトで、あるサービスの市場規模を算出することに取り組んでいました。この仕事において、クライアントが知りたいことは単純で、そのサービスの市場規模そのものでした。

それを正確かつ合理的に算出するというのが彼のミッションでした。

しかし、彼はサービス精神から、市場規模の数字以外にも、関係者に行った議事録を書き直し、ていねいにファイリングして、正月を返上して自分なりに働きました。非常に前向きな努力です。

しかし、正月を潰してつくったファイルをもって休み明けに会社にいったところ、上司に言われたのが先ほどの言葉だった、というわけです。

「そんなこと、1ミリも頼んでいない。それより、市場規模の算出を進めるように。きみがやっているのは単なる無駄。事実、正月休みだってなくなったじゃないか。そんなことして(過労で)倒れてしまったら元も子もないぞ」

彼はその考え方の違いに、ショックを受けたといいます。たしかに、クライアントの求めているのは、市場規模を出すことでした。

数字の精度を上げる方向の努力なら喜ばれもするでしょうが、本筋と関係のないおまけをくっ付けたところで、クライアントからしたら、どうでもいいこと。クライアントの立場に立ってちょっと考えてみれば、分かることです。

求められていないことに時間を使っても、クライアントからも上司からも評価はされないのです。

(出典:コンサル一年目が学ぶこと)

社会人であればこのような経験がある人もいるのではないだろうか?

かくいう私にはある。

入社してから3ヶ月が過ぎ、本配属が決まった直後のことだった。

配属決定度、早速直属の先輩の案件のサポートに入ることになり、私は外注先となるデータベース会社のNさんとのやりとりを一任された。

先輩から聞いた内容をもとにNさんに依頼をかけ、Nさんからの納品物を見やすいようにデータを加工して先輩に見てもらうと、

「違う、こんなものは頼んでいない!」

と先輩に激怒されてしまった。

てっきり「見易くしてくれて助かったよ」と言われるものだと思っていたので私は完全に面食らった。

恐る恐る先輩に「何が違うんですか?」と聞いたら、理由が分かった。

先輩の期待する納品物を「私が」しっかり把握することができておらず、データベースとして不十分だったのだ。

そして、そもそもの一番重要なところが不十分にもかかわらず、見栄えの加工に時間を費やすなど持っての他だ、と派手に叱られた。

結局、この件はデータベースの修正などで予定していた以上のコストが発生してしまい、外注費が増し粗利は減少。

案件全体のスケジュールにも悪影響が出た。

私のマーケティングファーム時代の苦い思い出として、間違いなく上位にくるものだ。

しかし、

「苦い思い出や嫌なことも人生の糧に変えられる」

「良いことばかりが良いことを生むわけではない」

というのは本当にそうで、

この一年目の経験があったからこそ、「相手の期待(やってほしいこと)をしっかり把握し、一番重要なところで期待以上の成果を出す」という意識が私の中に芽生え、その後の業務を通して着実に根を張っていった。

「想像力」を働かせて、相手の期待をしっかり把握することは凄く大事

「相手の期待」というのは人の数だけあり、一概にコレという解は存在しない。

ちなみに、私が「仕事がデキる」と思う人に関しては、大部分がいい意味で「相手に期待していない」。

期待はもちろん「ゼロ」ではないし、間違っても面と向かって「君には期待してない」と言うことはないし、相手の面倒を見ないわけでもない。

だが、おしなべて、あまり期待していない。

これは「人が自分の思い通りにならない」ことをよく知っているからだろう。

ただ、私からすればこういう人相手の仕事は非常にやりやすい。

なぜなら、そもそも私への期待値が低いので、ハードルを超えやすく、その結果、相手からの信頼を得やすいからである。

私の大好物だ。

一方、「勝手な期待」や「過剰な期待」をしてくる人も割合多くいる。

経験上、こういう人と仕事をし続けていると心身がすり減っていくため、期待に違和感を感じた場合は「距離」を取る、あるいは「垣根」をつくるのが良い。

よい垣根がよい隣人を作る」は「身銭を切れ」の中に出てくる知見の一つだが、私はこれを金言だと感じている。

複雑系について研究する物理学者のヤニア・バーヤムは、「よい垣根がよい隣人を作る」ことを、きわめて説得力のある形で証明した。

(出典:身銭を切れ ー ナシーム・ニコラス・タレブ)

以上のように、相手の期待というのはかなりバラエティに富む。

だからこそ、相手の期待を超えるためには、先ずもって相手の期待、すなわち相手がしてほしいことをしっかり把握する必要があるのだ。

当たり前だが、この部分がなければ相手の期待は絶対に超えることはできない。

そして、期待を把握するために不可欠なのが「想像力」。

想像力とは、相手の言動に対して「ということは?」の思考を持ち込み「新しい関係性」を見出す力のことである。

例えば、「星座」。

カシオペアにしろ、アンドロメダにしろ、くじらにしろ、あれはただの「線」だ。線どころかもはやただの「点」。

しかし、ただの点とただの点の間に「ということは?」を持ち込み、そこに「新しい関係性」を見出し、結ぶことでストーリーを生み出している。

凄いのは、ここで発揮された「想像力」が長い間人々によって受け継がれてきているところだ。

もしかすると、星座というのは想像力のトップオブトップなのかもしれないとさえ私は思う。

人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」とスティーブ・ジョブズは遺しているが、期待(やってほしいこと)もまさにこれだ。

思うに、人の期待というのは「フワッ」と漠然としている場合が多い。

だからこそ、相手とのコミュニケーションの中から、想像力を振り絞り、働かせて、確認しながら、期待をしっかり把握することは凄く大事な作業だと認識している。

「相手の期待を超える」ことこそが、仕事における「成功」

相手の期待を超えることができた仕事は「成功」と呼ぶに相応しい。

最近、改めてこれを感じたエピソードを紹介してみたい。

先日「サウナが良いから」と知人に誘われ、川崎にある「朝日湯源泉ゆいる」に行ってきた。

この施設は、3月12日にグランドオープンを迎えたばかりなのだが、調べてみると、新しくオープンした銭湯ではなく、約70年間も川崎区で「朝日湯」として銭湯を営んでいた老舗銭湯が生まれ変わったものだった。

感想から先に言ってしまうが、元々もっていた期待の「遥かに上をいく」素晴らしい体験をさせてもらった。

私は何に対してもベースの期待値が低いので、それを超えてくる商品やサービスは結構あるのだが、ゆいるの超え方はちょっと異常だった。

小綺麗で清潔感のある施設。

地下1200mから湧出する天然温泉。

炭酸含有量にこだわった超高濃度の炭酸泉。

上質なロウリュサウナ。

関東一の水風呂の深さ(男湯150cm)。

いかなる天候でも外気浴ができるととのいスペース。

クラフトコーラなどのこだわりの飲食。

5時間1500円(平日)というお得過ぎる料金設定。

いずれも遥かに大きな価値を感じた。

しかし中でも、休平日問わず、数時間置きに行われる「アウフグース」がとにかく物凄かった。

私の初体験は「剣持さん」というアウフギーサーだったのだが、これぞまさしく「全身全霊」と呼ぶにふさわしい圧巻のパフォーマンスに、完全に魅了されてしまい、すっかりファンになってしまった。

彼のサービスはサウナ室内だけに留まらず、外気浴をしている私たちに向けて、呼吸困難で今にも倒れそうになりながらも、タオルで何度もいい風を送ってくれた。

「最高でした。ありがとうございました」

とサウナ施設であそこまで深くお辞儀をしたのは生まれて初めてだった。

後に調べたら、剣持さんは「ハリケーン」の異名を持っていたことが分かり、とても納得感の高いネーミングだと感じた。

私が「ゆいる」に行ったのは平日の日中。

ここは駅からもだいぶ遠い。

にもかかわらず多くの客で賑わっていたことに最初はかなり驚いたが、施設を後にしてその理由がよく分かってきた。

ゆいると剣持さんが私の期待を遥かに超えてきたのは、彼らが「想像力」を総動員させ、それを働かせまくったからに違いない。

私は感動しっぱなしで、この体験談を早速人に伝えたり、こうして記事にもしている。

これを仕事における「成功」と呼ばずして、何と呼べばいいのだろうか。

相手の期待(やってほしいこと)に応えることができれば「信用」が積み上がる。

というか、「信用」は「相手の期待」に応えた時にしか積み上がらない。

そして、相手の期待を超えた先には「お客さんを大満足させる」という仕事における「成功」が待っている。

だからこそ、

これから先も想像力をもっともっと働かせて、まず相手の期待(相手がやってほしいこと)をしっかり把握することに心血を注いでいきたいと私は思う。

Photo by Estonian Saunas on Unsplash

【著者プロフィール】

田中 新吾

平日にあれほどの質量の「アウフグース」があるところに行ったのは初めてでかなり驚きました。

「ハリケーン剣持さんに会うために」また「ゆいる」に行きたいです。

プロジェクトデザイナー/企業、自治体のプロジェクトサクセスを支援しています/ブログメディア(http://ranger.blog)の運営者/過去の知識、経験、価値観などが蓄積された考え方や、ある状況に対して考え方を使って辿りついた自分なりの答えを発信/個人のプロジェクトもNEWD(http://ranger.blog/newd/)で支援

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