2つの「エントロピー」と「整理・整頓」が、自分の中で完璧に繋がった話。
先日、ジムで「オブ狂い」というPodcastを流しながら、いつものように運動をしていたのですが、思わず動きを止めて聞き入ってしまう話題が出てきました。
「#10 情報の洪水に溺れないための3つの方法」で紹介されていた「エントロピーを下げる」という考え方です。
Podcast更新!
— Ogawa (@1ogawan) March 9, 2026
#10:情報の洪水に溺れないための3つの方法
・情報処理は仮説ありきで行う
・これから価値が高まる「縦の思考」とは?
・Obsidianのノートはカオスにならないの?#オブ狂いhttps://t.co/XETRHUrB8k
昨年受講した10X情報処理エキスパート講座の中で、「エントロピーを下げよ!」という情報処理における大事な概念を知ったのもあって、反応しやすい状態になっていたのだと思います。
「エントロピーには2つの種類がある」
「その2種類は、それぞれ整理と整頓という行動に結びつく」
こんな話がポッドキャストで出てきました。
「整理」と「整頓」の違いは、10X講座を受講する以前から考えてきたことでもあったのですが、Podcastの中で「2種類のエントロピー」と絡めて語られていたことで、理解の次元が一気に上がった感があります。
というわけで、これをきっかけに考えたことや気づきを、ざっくりとでもまとめておきたいと思いました。
「整頓は整理ではない」加藤秀俊氏の「整理学」
まず、私が「整理」と「整頓」の違いを知ったきっかけからお話させてください。
1963年に出版された加藤秀俊氏の「整理学 忙しさからの開放」という本があります。
この本に出会ったのは2022年の1月のことでした。
それ以前は正直に言うと、「整理整頓」という言葉に対して「散らかったものを分類してスッキリさせること」くらいの浅い理解しかできていなかったんです。
しかし、加藤氏は明確に断言しています。
「整理」とは、散らばっているものを目障りにならないように綺麗に片付けることではない。
それは「整頓」だ。
物事がよく整理されているとは、見た目はともかくとして、「必要なものが必要なときに取り出せるようになっている状態」 のことだと。
整頓は整理ではない。
逆にいえば、見た目には乱雑な整理もありうるということである。
見た目には散らかっているようでも、右手のほうにはやりかけの仕事Aに関する書類、まん中のはBに関する資料、左手のはC関係の報告書・・・、といったふうな「分類」がおこなわれているのが整理ということである。
ちらかっているか、サッパリと整頓がおこなわれているかというのは、おおむね見た目の問題であって、整理の本質とはなんの関係もない。
この箇所は私にとって遥かに大きな発見で、目から鱗がたくさん落ちました。
つまりは、
世の中には、整理がよくて整頓の悪い人。
整頓がよくて整理の悪い人。
そして整理も整頓もよい人が存在する、ということ。
アインシュタインの机は、亡くなった日に撮影された写真を見れば誰もが「ぐちゃぐちゃ」と思うでしょう。

マーク・トウェインもスティーブ・ジョブズもそうだったと言われています。

でも、彼らの頭の中がカオスだったとは考えにくい。
物理空間が散らかっていても、頭の中が整理されていれば、創造性は損なわれない。
この考え方は以来、私の中で確信に近いものになっていました。
2つのエントロピー
オブ狂いの話によれば、エントロピーは2つあるという話でした。
以下は、自分の解釈も交えつつの内容になります。
熱力学のエントロピー
一つ目は熱力学におけるエントロピーです。
これは「乱雑さの度合い」を表す概念であり、熱力学第二法則として有名な「エントロピーは増大する」という原則があります。
すなわち、放っておけば物事は必ず乱雑、無秩序、複雑(まとめるとカオス)に向かっていくという自然の法則です。
例えば、部屋は掃除しなければ必ず汚れていきます。
体も鍛えなければ衰え、仕事も手を抜けば質が落ちていく。
組織も放置すればやがて混乱し、崩れていく。
全て崩れる方向に向かおうとする力が働いているのです。
コーヒーにミルクを入れると自然と混ざっていきますし、部屋も時間が経つごとに秩序は崩れていきますよね。
こうして、「エントロピー」という視点から見ると、あらゆるものは努力せずして整った状態を保つことはできない。
これこそが熱力学のエントロピーです。

ちなみに漢字だとこのように書くらしいです。格好いい…
エントロピーは漢字で熵って書くらしい
— 富谷(AI×物理)/東女教員/京大教員/理研(富岳) (@TomiyaAkio) October 12, 2025
ここ100年くらいに新しく作られた字で、火の商ということでQ/T(熱を割る)を表しているようです。
— 富谷(AI×物理)/東女教員/京大教員/理研(富岳) (@TomiyaAkio) October 14, 2025
情報理論のエントロピー
もう一つの「エントロピー」は、情報理論におけるエントロピーです。
1948年、クロード・シャノンによって定式化されたこの概念は、ざっくり言えば 「平均情報量」=「予測のしにくさ(不確実性)」 を数値で表すものです。
2択のケースでいうとこうなります。
- 確率100%(または0%):結果が完全にわかっているので、不確実性はほぼゼロ(エントロピーは最小で0)
- 確率99%:ほぼ当たるので、あまり迷わない(不確実性は低い)
- 確率50%:究極の「どっちに転ぶかわからない」状態(不確実性は最大=エントロピー最大で1)
以下のグラフのように両極(0%と100%)が一番エントロピーが低く、真ん中の確率50%が一番高くなるというものです。

例えば、「コイントス」は表が出るか裏が出るかの確率は50%なので、情報理論のエントロピーは1(最大)になります。
これに対して「太陽は東から昇る」ことについては、確率100%なので、情報理論のエントロピーは0(最小)になります。
そしてこの理論について、もう一つ大事なのは、選択肢の数そのものが増えると、エントロピーはさらに増えるという点です。
コイントスが2択、サイコロが6択、ツール選びが10択……という具合に、候補が増えるほど「予測しにくさ(不確実性)」は高まっていきます。
たとえば、ファイルを探しているとき。
「絶対ここにはない」と分かりきっていても、「ここを探せば必ずある」と確信できていても、不確実性は低く、エントロピーも小さい。
でも「このフォルダかもしれないし、去年のノートかもしれないし、全然別の場所かも…」という状態は、候補(選択肢)が増えた上に、どれも決め手がない。
つまり不確実性が一気に上がって、情報空間はカオスになり、エントロピーが高い状態になります。
逆に言えば、「あのアイデアは去年4月のノートにある」と迷わず手が伸びる状態や、タグ・リンク・検索で「探せば必ず見つかる」と感じられる仕組みがあれば、情報エントロピーは低くなるわけです。※ちなみに私のObsidianは今この状態です。

今年2月にゲスト登壇したOBC(🔰Obsidianビギナーズカフェ)のセミナーでは私の「メモツールの歴史」をお話ししました。
Obsidianに1本化される以前は、10個とは言わないまでもメモを取る場所として様々な選択肢がありました…

いやはやエントロピー、めちゃ高かったです。
2つのエントロピーは「整頓」と「整理」に対応している
で、Podcastを聴きながら、自分の中でかなりスッキリしたことがあります。
それは、2つのエントロピーが、そのまま「整頓」と「整理」に対応しているということです。
熱力学のエントロピーは、物理的な乱雑さの度合い。
これを下げる行為は、散らかった部屋を片付け、物を並べ直し、見た目の秩序を保つこと。
すなわち「整頓」です。
放っておけば部屋は散らかり、書類は積み上がり、デスクの上はカオスになる。
整頓は、これに抗って秩序を取り戻す行為。
一方、情報理論のエントロピーは、不確実性の度合いです。
これを下げる行為は「あれはどこにあるんだっけ?」という迷いを消し、必要なものを必要なときに取り出せる仕組みを作ること。
すなわち「整理」です。

こうして並べてみると、加藤秀俊氏が「整理学」で半世紀以上前に「整頓は整理ではない」と言い切った話が、2つの異なるエントロピーという科学的なフレームワークで裏付けられているように思えてなりません。
見た目が綺麗でも必要なものが取り出せなければ、情報エントロピーは高いまま。
見た目が散らかっていても「右手にA、真ん中にB、左手にC」と分かっていれば、情報エントロピーは低く済む。
アインシュタインの机が散らかっていたのは、熱力学のエントロピーは高かったけれど、情報エントロピーは低かったのだと、今ならよく理解できます。
「曖昧な指示」は情報エントロピーを爆上げする
そしてここで、もう2つ繋がったことがあります。
それは自分自身の経験です。
以前、あるメーカー勤務の方(Bさん)から「プロジェクトのメンバーがなかなか思うように動いてくれない」という相談を受けたことがありました。
Bさんはプロジェクトリーダーを任されて、数人をまとめながらプロジェクトを推進していくことを求められていたそうです。
以下のようなやり取りがありました。
Bさん:「メンバーから信頼されていないのか、私の何がいけないのか、結構悩ましくて、田中さんだったらこういう時どうされていたんでしょうか…」
私:「Bさんとは仕事の内容が異なるので参考になるかは分からないのですが、私がとくに注意を払ってやっていたことは『やって欲しいことがあるなら指示は明確にして出す』ですかね」
私:「なんのために、このタスクを、いつまでに、どのレベル感で、予算はいくらで、参考となる資料はこれです。というように、あらゆる依頼に対して必要なことを明確にしていくようにしたんです。そうしたら、プロジェクトがいい感じに動いていくようになりまして」
Bさん:「言われてみれば、私の指示はちょっとあいまいというか、ざっくりというか、少しはあなたも察して考えて、というようなものになっていたかもしれないです…」
私:「あいまいな指示には、人を動けなくしてしまう力があるのだと思います。こちらは相手に動いてもらいたくて出したわけですが、逆にそれが動けなくしてしまうというか。どう動いたらいいかが明確に分かることって、すごく重要なことなのかなと」
この会話から数年後、Bさんと久々にお会いする機会がありました。
開口一番、Bさんはこう言ってくれたのです。
Bさん:「以前、指示内容からあいまいさをなくすことを意識しだしたら、以前よりもメンバーの動きがかなりよくなりました。その節はありがとうございました」
指示を明確にしただけで、メンバーの動きが変わった。
この報告は私にとっても大きなフィードバックでした。
*
そして、2つ目の繋がったこと。
Bさんとの会話を終えた数日後、偶然にも、Togetterで「仕様に書いてないが普通のエンジニアならできるでしょ」というまとめを目にしました。
要するとこういう話です。
あるエンジニアが「作業クオリティが低い」と指摘を受けた。
しかし話を聞いてみると、仕様書に書かれていないことを「普通ならできるでしょ」と求められていた。
仕様確認の場もなく、中間テストもなく、品質確認はテストフェーズまで一切されていなかった。
これもまさに、曖昧な指示が情報エントロピーを爆上げしてしまった案件だと思いました。
「仕様に書いてないが普通のエンジニアならできるでしょ」
この一言は、受け手にとっての不確実性を最大にします。
何が「普通」なのか分からない。
どこまでやればいいのか分からない。
判断基準が50%対50%どころか、もはや無限に散らばっている状態です。
*
これらの経験を、エントロピーの話に重ねてみて「あ、これだったのか」と深く膝を打ちました。
曖昧な指示は、受け手にとっての情報エントロピーを一気に高めてしまう。
「なんとなくいい感じにやっておいて」と言われたメンバーの頭の中では、何をすればいいのか分からない。
Aかもしれない、Bかもしれない、Cかもしれない。
50%対50%どころか、選択肢が乱立して、不確実性はより大きくなる。
これはまさに情報エントロピーが最大化した状態です。
スタンフォード大学のチップ・ハース教授は、これを「意思決定の麻痺」と呼んでいます。
選択肢が増えたり、あいまいさが増したりすると、人は凍りつき、動けなくなってしまう。
変化を成功させるには、あいまいな目標を具体的な行動に置きかえることが必要だ。
ハース教授はこう述べています。
つまり、人に動いてもらいたいなら、指示から「あいまいさ」を消すこと。
それは言い換えれば、相手の情報エントロピーを下げてあげること。
これは「整理」そのものです。
相手が「次に何をすればいいか」を迷わず取り出せる状態を作ってあげる。
必要な情報を、必要なときに、必要な形で届ける。
逆に言えば、曖昧な指示を出すリーダーは、メンバーの頭の中の情報エントロピーを上げてしまっている。
無意識のうちに、相手の「整理された状態」を壊してしまっているとも言えるかもしれません。
2つのエントロピーの両方を下げていく
こうして考えてみると、日々の暮らしや仕事の中で私たちがやっていることは、2種類のエントロピーとの終わりなき付き合いなのだと思えてきます。
部屋を掃除し、デスクを片付け、物理的な秩序を保つのは、熱力学のエントロピーを下げる行為。
つまりは「整頓」。
リンクを貼り、タグを付け、必要なものが必要なときに取り出せる仕組みを作るのは、情報エントロピーを下げる行為。
つまりは「整理」。
そして、人に指示を出すとき、相手が迷わず動けるように情報を明確にすることも、情報エントロピーを下げる行為。
これもまた「整理」です。
どちらのエントロピーも、放っておけば必ずカオスの方向に向かいます。
部屋は散らかるし、情報はカオスになるし、コミュニケーションは曖昧になる。
だからこそ、意識的に「整頓」と「整理」の両方に取り組んでいくことが大事なのだと、「2つのエントロピー」という視点は私たちに教えてくれていると思います。
自分に対しても。他者に対しても。
スタジオジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんは「仕事の8割は整理整頓だ」と言います。
本質ですね。
思うに、2つのエントロピーを下げることが、ジブリ作品のような「高密度・高品質な情報(作品)」を生み出している。
私が大好きな「ハウルの動く城」ではまさに、整理、整頓、エントロピーに関するシーンが幾つか出てきます。


今回の内容が、みなさんの日々の「整理」や「整頓」に対する見方に、少しでも新しい角度を加えるきっかけになれば幸いです。
【著者プロフィール】
「僕は今まで逃げ続けてきた。今は守るものがある」と自ら戦場にバンバン飛び込むようになるハウルが大好きです。
自分の中に守るものがある人は弱い。
自分の外に守るものがある人は強い。
思うに、成長するってことは守るものが変わることなのかなと。
◼︎ ハグルマニ(プロジェクトコンプリメンター)
◼︎ 命名創研(命名家)
◼︎ 栢の木まつり 実行委員会
◼︎ タスクシュート認定トレーナー

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