「積極的歯車」という言葉はどのようにして生まれたのか。
昨年末に久々に飲みの席をご一緒させていただいた女性から「昔からそうだけど、めっちゃM(マゾヒスト)だよね」という言葉をもらった。
彼女とは旧知の中なのだが「ハグルマニ」という事業名を聞いてあらためて思ったそうだ。
たしかに「歯車になる」という言葉から受ける印象は一般的にはそうなのかもしれない。
一見すれば、取り替え可能であり、使い捨てられる存在と捉えられがちな歯車。
「歯車になんてなりたくない」そんな声をあげる方も多いのかもしれない。
もちろん「歯車」と「M(マゾヒスト)」が結びつくのも分からなくはない。
しかし、私としては「Mだけ」のつもりは毛頭ないのだ。
事業概要にも書いてある通り、私は「積極的歯車」という考え方を持っている。
文字通り、積極的に歯車になりたいのである。
これをMというのかはたまたSというのか。
個人的にはどちらとも言えると思っている。
つまり私は、MでありながらもSでもあるのだ。
積極的歯車という言葉は、私が勝手に作り出した言葉であるため当然辞書には載っていない。
そこで、この「積極的歯車」という言葉がどのようにして生まれたのかについて、説明的な記事を残しておこうと思った。
必要な「歯車」であり続けたい
もう2年も前になるが、私はX(当時ツイッター)に以下のようなポストをした。
このメールをもらった時、それはもう非常に嬉しい気持ちになったのを今でもよく覚えている。
そして、私が自らのことを「プロジェクトデザイナー」と名乗るようになったのは間違いなくこの頃からだった。
参照:「自己紹介は常にアップデートされていくもの」という話。
名乗るようになって以降「田中さんのことを紹介しやすくなった」という話を周囲からもらうことが増え、プロジェクトデザイナーと自らのことを紹介することへの手応えを日に日に高めていった。
しかしながら一方で、完全に我が意を得たりの状態ではない、といった考えも頭の中にあった。
「より良い伝え方があるはず。」と思い、幾つかのアイデアを練りながらも、イマイチしっくりこない日々を過ごしていたのだ。
そう思っていたところ、昨年の初夏になる頃、久々に再読していた文筆家の松浦弥太郎さんの過去記事の中で、必要な「歯車」であり続けたい、という言葉を目にすることになる。
以前同記事を読んだ時にはアンテナが立つことはなかったのだが、あらためて触れた時、この「歯車」という言葉が、強い我が意を得たり感を生んだのだ。
事業名として冠した「ハグルマニ」は、この時の感覚をベースに、程よい違和感を交えつつネーミングとして昇華させたものである。
ミッションは「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」とし、プロジェクトデザイナーとハグルマニ、そしてミッションを揃えたことで、誰かによりお伝えしやすくなった。
ただ、この時点でもまだ「歯車」という言葉が纏う「M(マゾヒスト)」感には課題があるとも感じていた。
歯車なんだけれども歯車ではない。
そうしてじっくり考えを深めていった先に生まれた言葉が「積極的歯車」というものだった。
「積極的受け身」という考え方
実は、この言葉を生み出すのに大きく参考にさせてもらった人がいる。
校正者の大西寿男さんだ。
昨年1月に観た、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」を頼りに、大西さんについてすこし触れていきたい。
大西さんは、書籍や雑誌など、出版物に記されたことばを一言一句チェックし改善策を提案するフリーの校正者だ。
芥川賞作家の金原ひとみさん(代表作:蛇にピアス)、宇佐見りんさん(代表作:推し、燃ゆ)をはじめ、名だたる作家や編集者から絶大な信頼を得ており指名も絶えない。
とても柔らかな雰囲気の人柄でありながら、ひとたびゲラと向き合うとまばたきすることも忘れ、言葉の海に潜り込み、ひと文字ひと文字確認し、最善の表現を探していく。
今でこそ多くの話題作を支える大西さんにも悩める時代はあったという。
26歳でフリーランスになり10年後には担当した作品から数々のヒット作が生まれた。
がしかし、時には「才能は必要ない。単なる下請け。」などといわれたことも。
インターネットの台頭とともに深刻な出版不況が訪れ、校正料の削減や納期を短縮をしないと仕事が回ってこないことも多々発生。
この状況を受け、睡眠時間を削り必死に仕事をこなしていたが、ある時、一冊の本の校正を期限までに終わらせることができないという事態を招いてしまうことに。
大西さんは50歳の時、再び原点に立ち返ることを決意。
生活を切り詰めてでも無理な仕事は断り、一つ一つの仕事に丁寧に時間をかけるように自分を変えていった。
そして、この時の決意が現在の仕事に繋がっている、という内容だった。
以下は、番組の中で特に私の胸に刺さった箇所だ。
自分じゃない他の人、作者が一生懸命生み出した言葉に一生懸命くっついていって、それって全く未知の世界ですよね。
でも、そこが面白いんですよね。
物語を紡ぐ人に比べれば自分は何も作らない。
そういう意味で言えば何から何まで受け身。
でも、相手が何か一生懸命何か表現しようと伝えているときに、受け身になることで理解したり発見したりすることもたくさんある。
その受け身であるってことを最大限強みにするのが積極的受け身。
それはそれですごく面白いというか、ワクワクするというか。
自分で選び取った受け身だからこそ、広がる世界がある。
「積極的受け身」という考え方は「受け身では良くない」といった世間の固定観念に一石を投じる素晴らしい概念だと感じた。
そして、何を隠そう「積極的歯車」という言葉は、大西さんの「積極的受け身」という考え方を大きく参考にして生み出されている。
姿勢を端的に示すものとして
冒頭のエピソードにも書いたとおり、確かに一般的に考えると歯車という言葉からはM(マゾヒスト)感が拭いきれない。
主体的に生きたい、コントロール感を得たい、と思う(動物としての)人間からすると、M(マゾヒスト)感があるがゆえ、歯車という言葉を忌避することに繋がっているのではないだろうか?
しかし、私の場合、突き詰めて考えれば考えるほど、いかに社会にとって必要な歯車になるかが求められているということに行き着く。
どんなに年齢を重ねたとしてもここは変わらない気もする。
であるから、積極的に歯車になろうという風に考えるわけだ。
そして「積極的歯車」という言葉は、その姿勢を端的に示すものとして今のところ最適なのではないだろうか、と思っている。
以上が「積極的歯車」という言葉はどのようにして生まれたのか、ついての説明となる。
何かを考える時の参考に少しでもなれば嬉しい。
UnsplashのMalcolm Lightbodyが撮影した写真
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車
冒頭の女性と飲むことがなければ、この記事を書こうとも思わなかったです。やはり記事ネタは人との出会いの中から生まれるのだなと改めて思いました。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
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