田中 新吾

価値観や方向性の共有に向いているオススメの「コミュニケーション環境」の話。

タナカ シンゴ

チームで仕事を進めていく場合において、メンバー間の「価値観や方向性を共有していくこと」は極めて重要だ。

価値観や方向性が完全に一致することはないにせよ(少なくとも私は人間とはそういうものだと捉えている)、大きくズレてしまっていると仕事が上手く進むことはない上に、修正に膨大な手間を要するからだ。

最初の擦り合わせは当然のことながら、進行途中でも丁寧に共有していくのが望ましい。

では、この価値観や方向性を共有していくためには一体何が必要なのだろうか?

私が思うにそれは大きく二つある。

一つは「時間」だ。

時間は、当然ながら長ければ長いほど価値観や方向性の共有をすることができる。

会議室で20分話すのと、居酒屋で1対1で2〜3時間話すのとでは大きく違う。

そして二つ目に必要なのが共有する際の「環境」だ。

会議室がいいのか、居酒屋がいいのか、はたまたランチがいいのか、サウナがいいのか、といった話だ。

思うに、この「環境」というファクターの影響はかなり大きい。

では一体どんな環境下におけるコミュニケーションが価値観や方向性を共有していくのに有効なのだろうか。

最初に言っておくと、思うに「会議室」ではこれが難しい。

価値観や方向性を共有するには「最近、観てよかった映画はありますか?」や「この前こんな面白い人に会ってさ」といった無駄話が実はかなり重要。

しかし、仕事の会話を目的とし生産性が求められる会議室では、こういう時間はなかなか作ることができないからである。

作れたとしても僅かだろう。

その上で、私の経験則にはなるが有効性を感じているオススメの環境を二つご紹介したい。

一つは「居酒屋におけるカウンター席」でのコミュニケーション。

もう一つが「車内」でのコミュニケーションだ。

ということで、一つづつその理由と共に見ていきたい。

居酒屋のカウンター席という環境

最初にオススメしたいのが「居酒屋のカウンター席」という環境だ。

「カウンター席」と言っても種類は色々とあるが個人的な好みを言えば、小料理屋に備え付けられた一枚板のカウンター席は良い。

「美味しいモノを食べたい」「飲みたい」「コミュニケーションをしたい」の三つの願望が叶えられる場所として私はとても気に入っている。

個人の感覚ではあるが、繋がっている周りの人と比べてカウンター席のあるお店を選ぶ回数は多い方ではないだろうか。

居酒屋であるため、当然のことながら20分〜30分では済まず、2時間〜3時間という「時間」を自然に共有できてしまう。

では、なぜ「カウンター席」におけるコミュニケーションは価値観や方向性の共有に向いているのだろうか?

以下、私の経験が根拠ではあるのだが考えていることを示してみたい。

一つ目は「面と向かわない」から。

仕事における(リアルの)ミーティングは机を挟んで対面で行う場合が多い。

そして私は「話すときは相手の目を見て話せ」など言われて育ってきたものだから、なるべくそうしなきゃいけないとも思ってきた。

しかし、目を見て話すのが苦手な人にはこれが億劫に感じてしょうがない。

緊張してしまい、言いたいことがあっても口からなかなか出なかったりするのではないだろうか。

が、面と向かう必要のないカウンター席ならこの心配はかなりなくなる。

姿勢は基本前、時に半身。

特に、まだ関係性の薄いチームメンバーとコミュニケーションをしながら擦り合わせをしたい場合は特に効果抜群だ。

夫婦は正面を向き合わない方がいい、という「ガウディの椅子」にも通じるものだろう。

そして、二つ目は「フラットである」から。

「面と向かわない」ことともブリッジするものだが、ご存知のとおりカウンターの関係性は物理的に「フラット」だ。

前後や上下を感じにくく、年上の人と座ってもあんまり緊張しない。

これが会議室だと、クライアントが奥、目上の人が奥というような暗黙のルールがあり、気持ちはそうでなくてもポジショニングによって前後や上下という感覚をお互いに持ってしまう。

強制的にフラットに成らざるを得ないカウンター席はどこまでいっても横。

思うに、横位置は縦位置と比べて心理的安全性が高く、だから胸襟が開かれる。

三つ目は「安心感に溢れている」から。

見えないところで作られた料理が美味しいこともあるが、思うに自分の目の前で作られた料理のお皿には安心感という無形の価値が乗ってくる。

こんな感じでカウンター席は安心感に溢れるわけだから会話も弾んで当たり前ではないのだろうか。

これらに加えて、お酒が入れば高揚感でコミュニケーションがスパークしアイデアが噴き出ることもある。

私に関しては「大好きなもの(一枚板のカウンター席)と一体化していること」がポジティブな気分にさせてくれるというのもあるように思う。

車内という環境

そして、もう一つオススメの環境が「車内」である。

これも価値観や方向性の共有にはオススメしたいコミュニケーション環境だ。

最近キングコングの西野さんがVoicyで「車内のコミュニケーションはオススメ」という話をしていたのだが、これには心の底から同意した。

「居酒屋のカウンター」で取り上げた「面と向かわない」と「フラットである」という理由はこちらでも言えることだが、思うに車内には車内ならではの良さもある。

一つ目は「常に動いていて時々止まる」こと。

私には「止まっている」という身体感覚を得ている時よりも「動いている」という身体感覚を得ている時の方がアイデアがスパークしやすいという感覚がある。

ランニングをしている最中に思考が研ぎ澄まされていくのも基本的に前に進んでいるからだ。

しかし、もっというとそこに時々「止まる」が加わると更にアイデアが良い感じにまとまったり深掘りされていく。

車に乗っていると、この動静のリズムを受けながら相手とコミュニケーションを取ることができるのだ。

常に動いているが信号で時々止まる。

高速道路に乗っている時の止まるはサービスエリアがその役目を果たしてくれるといった具合だ。

二つ目は「個室性・密閉性がある」ということ。

私はオープンなカフェなどでの深い話合いがどうも苦手なのだが、それは思うにオープン性によって人目を気にしたり意識が散漫になってしまうから。

ところが車内はそうはならない。

良い感じに閉ざされているため意識が散漫にならず今ここに意識を向け、集中することができる。

車の中の風通しが悪いと腐敗することがあるので時々風を感じることもあって良い。

その時はボタンを押して空気を入れる。

そうすると不思議と気持ちがよくなり停滞していた会話がまた活気を取り戻していく。

考えてみると以上のような特性をもった環境は車内しかないのではないだろうか?

ちなみに私は、妻との価値観や方向性の共有はほぼ車内で行われる。

車内でのコミュニケーションの有用性については以前から時々Twitterに投稿していたものでもあり、本当に個人的にオススメしたい環境だ。

一番の目的がコミュニケーションにならない環境

そして、居酒屋のカウンター席にしても、車内にしてもどちらも「一番の目的がコミュニケーションではない」という部分も非常に大きい。

居酒屋であれば一番の目的は、飲んだり食べたりすること。

車内であれば一番の目的は、移動することで、最初からドライバーはハンドル操作をしているし、乗っている人はそれぞれスマホをいじっていたり、外の景色を見たりしている。

だから、もしも仮にコミュニケーションが途絶えたり、話が脱線したりしても違和感は小さく、問題にならないのだ。

どちらも「コミュニケーションにおける心理的安全性が担保されている環境」と言うことができるだろう。

例えば、Appleのスティーブ・ジョブス氏が、散歩をしながら考え事をする「散歩ミーティング」を取り入れていたことは有名な話だ。

これは、散歩で酸素を取り入れながら筋肉を使うと、血行が良くなり、脳への血流が増え、酸素が多く運ばれるようになるためである、と科学的にもその効果が実証されている。

こうして脳が働きやすい状態になるため、座ったままでは解決できなかった悩みが解決できたり、新しいアイデアが浮かんだりしやすくなるということ。

時々、私も散歩をしながらコミュニケーションをするが、居酒屋のカウンター席、車内と似た要素を持ち合わせつつ、手軽にできるという部分も魅力的な環境と言えそうだ。

そんな散歩も、一番の目的は「散歩をする」こと。

だから、端からコミュニケーションにおける心理的安全性が担保されているのだ。

価値観や方向性の共有をしたいと考えた場合、

思うに「一番の目的がコミュニケーションにならない」はまず抑えた方がいい条件だ。

その上で、それぞれの環境の細かな特性に目を向けてフィット感を探っていく。

拙い経験則ではあるが今回の話が何かの参考になれば嬉しい。

UnsplashBrian Ericksonが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

田中 新吾

プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車

カウンター席、車内、散歩、他にも良いコミュニケーション環境はあるはずなので探求していきたいです。

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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