田中 新吾

「自然は、世界共通の美しさで、最強の世界共通語」という考え方に、感銘を受けた。

タナカ シンゴ

最近読み直していて、ふたたび結構なインパクトを受けた本がある。

慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、株式会社マザーハウス代表取締役兼チーフデザイナーとして活躍中の山口絵理子さんが書かれた「Third Way 第3の道のつくり方」という本だ。

知っている方も多いと思うが、株式会社マザーハウスは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とするブランド「MOTHERHOUSE(マザーハウス)」を展開し、途上国の豊かな自然に育まれた素材と受け継がれてきた職人の手仕事から生まれるバッグ、レザーグッズなどを販売している会社である。

この本が出版されたのは新型感染症が蔓延する以前の2019年8月。

私はそれが出版される以前からブランドのファンだったため(現在もマネークリップ、小銭入れ、パソコン入れは当ブランドのものを使っています)、出版されると同時にタイトルにも惹かれて直ぐに買って読んだのを覚えている。

社会性とビジネス。

デザインと経営。

大量生産と手仕事。

個人と組織。

グローバルとローカル。

「Third Way」とは、相反する二つの軸を掛け合わせて新しい道を創造すること。

二極化する世界を生き抜くための思考のヒントが、所狭しと示されている。

掻い摘んで言えばこのような趣旨の本で、当時の私に大きなインパクトを与えてくれた。

初めて読んでからも、時折部分的に読み返してはいたのだが、最近「相反する二つの軸」であるとか「美意識」について再度考える機会があり「そういえば山口さんの本にそんな内容が書かれていたな」と思い出し読み返していたといった具合である。

そして、今回再読していて受けた大きなインパクトは、これまで私が読み飛ばしてしまっていた項目にあった。

グローバルとローカルのサードウェイを考え、見出していく中で、強く意識しているという「自然は、世界共通の美しさで、最強の世界共通語」という考え方である。

自然は、世界共通の美しさで、最強の世界共通語

なぜ私はこの時まで読み飛ばしてしまっていたのか?

この記事を書いている今も後悔の念がフツフツと湧き上がってくる。

そのくらい私にとっては大きなインパクトがあり、その考え方に強く感銘を受けた。

以下に山口さんが考えられていることを少し乱暴かもしれないが、まとめてみたい。

・山口さんはデザイナーとして、世界の誰もが「共鳴・共感できる美しさ・フォルム」とは何か?という問いに対する「万国共通の美」を探し続けてきた

・問い続けた結果として、何かを美しいと思う感覚はその国の文化や歴史に根付くところも多い。しかし、山や木々、風などの「自然」だけは共通の美として存在するのではないか?という仮説を、山口さんはもった

・そして、国や地域ごとの違いを超えて、直感的に「あ、これなんだかいいな」と思う共通感覚があるのではないか?という思考から、現在は「自然」の世界に常にクリエーションのテーマを見つけているという

・このテーマを見出した背景には2つの気づきがある

・一つ目は、昔日本のファッション雑誌をバングラディッシュの人に見せた時のこと。その雑誌の中にあった黒いショルダーバッグ(鋲のようなリベットと呼ばれる金具が全面に打たれているもの)を見て「こういうの、日本で本当に人気があるの?これから戦うみたい!」と笑われたことがあったという。その頃から「日本の流行や好みっていうのはみんなにとっては、美しいと思えるものばかりではないのか」と考えるようになったというのだ

・二つ目は、バングラの工場での職人さんの会話の断片。山口さんが問いの答えを得ないまま日常を過ごしていると、ある時、工場の職人さんたちが、窓から入ってくる風を受けて「今日は風が気持ちいい」とつぶやいていたり、ふと誰かが「花ってきれいだよね」と口にしたりする、その何気ない会話の断片がキラキラと光を帯びて見えてきたという。そして、そんな山口さんご自身も、疲れて工場から帰る道の途中、リキシャに揺られながら「なんてきれいな月なんだろう、今夜」と呟くこともあったという

・この2つの気づきから、世界共通の美しさは「私たち人間が生かされている自然にあるのではないか?」と思うに至ったと述べている

・それから、「はなびら」「よぞら」「風まとう」など、自然をコンセプトにしたものづくりを繰り返し、職人さんたちと国境を超えた美しさをつくりながら学んできているということ

そして、これらをまとめあげた考え方が「自然は、世界共通の美しさで、最強の世界共通語」というものである。

日本人の美意識、里山サイクリング

次は私がこの部分に、しかもこのタイミングでなぜ強く感銘を受けたのか?という話を書いてみたい。

これは思うに三つの理由が考えられる。

一つは「人は何を美しいと思うのか?(美意識)」という問いが私の中で大きくなっていたから。

思うに人間の頭の中には様々な問いが日々ぐるぐると巡っている。

しかしながら、その問いの大きさは大小様々で、小さい問いはそれほど気にならず、大きくなればなるほど、その問いに関連する情報をキャッチしその問いついて考える時間を費やす。

そんな機能が私たち人類には備わっているのだろう。

かくいう私は最近、あることがキッカケで「日本人の美意識」について特に考える時間が多かった。

侘び寂び、幽玄、自然、風雅、余白、もののあわれ、

用の美、民藝、四季、花鳥風月、一期一会、情緒、利他、おもてなし

道、和、義理人情、仁義礼智信、粋、禅。

思いつくままにランダムにキーワードを挙げてみたが、このあたりは古くからある日本的な美意識と呼んで恐らく間違いはない。

数年前に「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」という本がベストセラーとなったが、私にもいよいよ美意識を鍛えるタイミングが来たようだ。

そんなわけで「人は何を美しいと思うのか?(美意識)」の問いが大きく育ち、常に頭を巡っている。

二つ目は、「自然は、世界共通の美しさで、最強の世界共通語」を証明している事業に触れていたから

岐阜県飛騨古川という場所で、外国人をターゲットに随分前から「里山サイクリング」という事業が行われている。

この事業を推進しているのは「美ら地球(ちゅらぼし)」という会社で、私は2016年にはじめてこのサービスを体験をした。

新型感染症の影響を受け、ここ数年は随分苦境に立たされていたようだが、最近では再び勢いを取り戻しているそうだ。

里山サイクリングとは、文字通り飛騨古川という里山をガイド付きでサイクリングするという観光サービスなのだが、従来のような観光地開発をしてではなく、クールな田舎を、あるものをそのまま活かす、という考え方に基づいて展開されている。

ガイドさんに自然や歴史の説明を受けながら、道ゆく人と挨拶を交わしたり、時にはお家にもお邪魔したり、そんな時間を堪能する内容だ。

日本人にとっては見慣れた田舎の自然や風景なのだが、田んぼやカエルなど、訪れる外国人にとってはそれらが本当に輝いて見えるという。

自然は、国境を超える。

自然は、国境に関係なく存在する。

そんな里山サイクリングという体験を加えたフィールドワークを、再読するのとほぼ同時期に企画していたことも山口さんの自然に対する考え方への感銘にきっと繋がっている。

大自然のおかげで成立した見知らぬ人とのコミュニケーション

そして最後の三つ目である。

時は少し遡るが、私は今年の6月頭に、長野県戸隠で行われた「戸隠マウンテントレイル」に出場をした。

今年で3回目、2年ぶりの挑戦となった。

前日夜中まで激しい雨風が降り続き、「これ開催できるの?」という心配が募るばかりだったが、まずは無事に開催されたこと、そして無事に完走できてよかった。

大会の出場に向けて、GW頃からロードを10km〜15kmくらい週に2回ほど走るようにし、足の筋力を戻していたのだが、ロードの練習では手応えがあったものの、前日の台風での泥沼化で予測していたよりも遥かに力を奪われてしまったのは大きな誤算だった。

また、知人が初参加ということで途中まで伴走をしていたことも、前回比較で順位を下げることに繋がったのかもしれないと振り返っている。

とはいえ、2年間のブランクがあり完走することが目標だったのでそこは無事に達成できたといった具合だ。

そんな大会の最中に私は、同じくランナーである「全く知らない人たち」とたくさんのコミュニケーションをした。

瑪瑙山(めのうさん)の頂上では、絶景は雲によって見えなかったが、登りきった達成感を分かち合い。

スキー場の厳しい登りでは苦しさを存分に共有し。

泥沼化ではスピードダウンを前日の台風のせいに共にした。

その全てがゴール時の喜びに繋がった。

このような大自然のおかげで成立した見知らぬ人とのコミュニケーションの成功体験も、山口さんの考え方を自分にしっかり吸収するのに大きく役に立ったと今思えてならない。

自然は、世界共通の美しさで、最強の世界共通語。

これは本当に秀逸な言語化だ。

そう思うからこそ、このような価値ある自然を破壊するようなことはどうにかして減らしていきたいし、再生させたり、活かしていくことに貢献をしていきたい。

そして、この領域を対象にする事業やサービスを行っていきたいし、支援していきたいし、(MOTHERHOUSEのようなブランドを)応援もしていきたい。

そんな思いを「Third Way 第3の道のつくり方」の再読を通して私は強くした。

オススメ本の一つなのでもしよかったら手に取ってみて欲しい。

あと、MOTHERHOUSEの商品も。

UnsplashBailey Zindelが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

著者:田中 新吾

プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車

戸隠のトレランしている最中にMOTHERHOUSEの小銭入れを落としてしまいました・・・。家についてから気付いて本当にショックを受けたのですが、ダメ元で事務局に電話をしたら落とし物としてあると。拾ってくれた方、本当に感謝しています。ありがとうございます!

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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