タナカシンゴ

勝手に決めた軸足は、やっている内に「本当の軸足」になる。

少し前になるが、

自分の得意な土俵で勝負する」ためには、若い内から仕事を選り好みするべき

という記事を読んだ。

世間では「得意なことを伸ばせ」「苦手な分野で勝負するな」という言葉をよく耳にするが、

肝心な「得意なことで勝負して、苦手なことでは勝負しない具体的な方法論」となるとあんまり聞かないよな?

といった筆者の鋭い問いから生まれた記事である。

話題の「ウマ娘」も登場してくるなどで大変楽しく読ませてもらった。

具体的な方法論として筆者は以下の3点を挙げている。

・実績のあるなしに関わらず、自分の「得意分野」を一つ設定してしまうこと

・「得意分野」を遠慮なく、かつなるべく具体的にアピールすること

・仕事は可能な限り選り好みすること

当然、その会社が若手のアピールをどれだけ許容してくれるか、どれだけタスクを振る裁量がある会社なのかは環境次第なところはあるが「できるかぎり若い内からこれをやるべきだ」という。

これこそが「自分の得意な土俵で勝負する」ために重要だと。

この主張に関連して、文中に「勝手に決めた軸足は、やっている内に「本当の軸足」になる。」と書かれている箇所があった。

勝手に決めた軸足は、やっている内に「本当の軸足」になる。

これは私の経験則的にも超絶共感しかないので思うところを書いておく。

お客さんに刺さる提案書作りの勘所

新卒で東京のマーケティング会社に入社した私は、2年目を迎えた頃「提案書の作り方」でよく思い悩んでいた。

「先輩が作った提案書」や「提案書作成に関する文献」を片っ端から読み込んでいたものの、どのような提案書がお客さんに刺さるのか、何が作り方の勘所になるのか、なかなか腹落ちせずにいた。

もう少し補足すると、お客さんに刺さる良い提案書というのは「その人のセンス」に依り、再現性が無いように感じていたのだ。

そんな悩める私に救いのヒントを授けてくれたのは、ブランド顧問をされていたAさんだった。

私はAさんに思い切って相談した。

私「本を読んだり、先輩の提案書を漁ったりしてみたんですが、提案書の作り方の勘所がよく分からないでいます。」

私「作っていくうちに分かるというのはあるのかもしれませんし、つべこべ言わずにやれば分かるというのもあるのかもしれませんが・・・」

私「提案書作りの勘所って一体なんなんでしょうか?」

Aさん「・・・・」

Aさん「じゃあ聞くけど、お客さんに良いと思ってもらえる提案書に無くてはならないものはなんだと思う?」

私「お客さんに良いと思ってもらえる提案書になくてはならないものですか?」

Aさん「そうだ。」

私「・・・・・良いアイデアでしょうか?」

Aさん「じゃあ、その良いアイデアとやらには何が必要だ?」

私「根拠でしょうか?」

Aさん「大体あってる。でもそれでは不十分。」

Aさん「根拠は明確でなければいけない。

私「言われてみれば確かにそうですね。」

Aさん「それからもう一つある。」

私「もう一つですか?」

私「なんだろう・・・すいません、出てこないです。」

Aさん「お客さんに良いと思ってもらえる提案書には必ず、明確な根拠と鋭い仮説がある。逆にこれらがなければ良いとは絶対に思ってもらえないと思った方がいい。」

私「なるほど・・・お客さんに良いと思ってもらえる提案書の勘所というのは明確な根拠鋭い仮説なんですね。」

Aさん「そういうこと。これをふまえてどうしたら良いと思ってもらえる提案書がつくれるか考えてみたらいい。」

私「ありがとうございます。考えてみます。」

といった感じで、私はお客さんに良いと思ってもらえる提案書作りのヒントを得たのだった。

「お客様からのご要望」を「明確な根拠」とする

私はAさんからもらったヒントを参考に提案書における「明確な根拠」について、もう一度コンペに勝った過去の提案書を読み返すなどして思考を重ねた。

するとその中で大きな発見があった。

いずれも提案書の最初に与件として「お客様からのご要望」がしっかりと示されていたのだ。

そして「お客様からのご要望」を「根拠」にしてロジックを展開していた。

提案書の作成者に詳しく話を聞いてみると、お客さんからのヒアリングで得たことだけでなく、その会社のHP、プレスリリース、中期経営計画など関連する情報は隈なくチェックして、その要望が生まれた背景や意図を把握することに努めているのだという。

「なるほど。お客様からのご要望はこうやって明確な根拠にしていくものなのか」と、私は理解を深めた。

そして、この時を境に「お客様からのご要望を明確な根拠にする」を提案書作成の「軸足」にしようと自分の中で勝手に決めた。

軸足にすることを決めて、少し経ってから分かったことがあった。

仮説の精度」が上がっていく手応えがあったのだ。

つまり、提案書の中で「お客様からのご要望」という根拠を明確にすればするほど、Aさんの言っていた「鋭い仮説」が生まれやすくなる。

といった実感が湧いてきていた。

やがて、この実感は実際の結果にも反映されていき「コンペの勝率」はみるみる上昇していった。

私がマーケティング会社に勤めていた頃に従事したプロジェクトの中で、もっとも売上が大きく、社内外に影響力のあったものは世界最大規模のグローバル企業が手掛けるペットフードブランドの新規事業開発案件だった。

5社,6社ほどによるコンペだったのだがそれも無事に受注。

この提案書の冒頭に添えたのも「お客様からのご要望」で、CEOの声、中期経営計画、書籍、今までのプレスリリースなど、ご要望の背景に関わるであろうことを徹底的に下調べ(*1)したのを今でもよく覚えている。

そして、要望に沿う形で仮説を構築し、ソリューションを丁寧に整理して提案書としてしたためた。

当日のプレゼンテーションでは、

「先日、私たちがコンペのオリエンテーションを受け、ヒアリングをさせていただき、御社の記事や書籍にあたったところ、これがお客様のご要望であると認識しています」と伝えて説明をはじめている。

この「お客様からのご要望」を「明確な根拠」とすることは、提案書を作る場合、今や私にとっては「本当の軸足」となっている。

そして、このような「軸足づくり」の成功体験はこれ一つにかぎらない。

ゆえに冒頭の記事の、勝手に決めた軸足は、やっている内に「本当の軸足」になる。に強く共感したのだろう。

軸足は「フィードバック分析」で決める

では「軸足」は一体どのようにして決めたらよいのか。

「軸足」を決めるための指針となるもの何かあるのだろうか。

これについては色々ところで散々言われていることだが、

思うに「ポジティブなフィードバックを頼りにする」に尽きる。

私が「お客様からのご要望」を「明確な根拠」にすることを「軸足」にしようと決めたのも、それを備えていた提案書が「コンペに勝利した」という「ポジティブなフィードバック」があったからだ。

これがなければ「軸足にしよう」だなんて多分思わなかった。

「軸足」とは言い換えれば「強み」である。

経営学者のピーター・F・ドラッガーは「フィードバック分析が強みとなるものを明らかにする」として、フィードバックの重要性を以下のように述べている。

長い人類の歴史において、わずか数十年前までは、自らの強みを知っても意味がなかった。

生まれながらにして、仕事は決まっていた。

農民の子は農民となり、耕作ができなければ落伍するだけだった。

職人の子も職人になるしかなかった。

今日では、選択の自由がある。

したがって、自らの属する場所がどこであるかを知るために、自らの強みを知ることが不可欠となっている。

強みを知る方法は一つしかない。

フィードバック分析である。

何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。

九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。

私自身、これを五〇年続けている。そのたびに驚かされている。

これを行うならば、誰もが同じように驚かされる。

こうして二、三年のうちに、自らの強みが明らかになる。

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もしも今既にポジティブなフィードバックを得ているものがあれば、それは「軸足の候補」になるだろう。

新しくやってみたことでも、「役に立った」などのポジティブなフィードバックが少しでも得られたのならそれを「軸足の候補」とするのもいい。

そして、候補の中から軸足とするものを勝手に決め、あとは試行錯誤をしながらやり続けるのみだ。

当然のことだが「軸足を決めるのは自分」ということは、「それによるリスクをとるのも自分」ということは決して忘れてはならない。

「残酷じゃない世界」は「軸足づくり」が創る

勝手に自分で軸足を決めて、本当の軸足にする」という「軸足づくり」は、個人的に思うに「一種のスキル」のようなもので、人生100年時代といわれる現代において持っておいて損のないスキルだろう。

というか、人生100年時代をより良く送るためには「必要不可欠なスキル」なのかもしれない、とさえ思う。

作家の浅生鴨さんは「働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる」の中で以下のように主張している。

「人生100年時代」にもっとも重要なのは、好きなこと、得意なことを仕事にすることです。

嫌いな勉強を1世紀もつづけることなど誰にもできませんが、好きなことや得意なことならいくらでもできるからです。

医師の日野原重明さんが105歳まで患者の診療をつづけたのは天職であり使命だと考えたからでしょうが、それに加えて医師の仕事が好きだったからにちがいありません。

「好きなことで生きていく」というと、「そんな甘いことが通用するはずがない」という批判がかならず出てきます。

そのようにいうひとは、労働とは生活のための必要悪であり、「苦役」であると考えています。

しかしそうなると、人生100年時代には、20歳から80歳までのすくなくとも60年間、労働という苦役をやりつづけなくてはならなくなります。

私には、こんなことができる人間がいると考える方が荒唐無稽としか思えません。

人生100年時代には、原理的に、好きなこと、得意なことをマネタイズして生きていくほかありません。

もちろん、すべてのひとがこのようなことができるわけではありません。

だから私は、これを「残酷な世界」と呼んでいます。

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これは「勝手に自分で軸足を決めて、やっている内に本当の軸足にすることができない人」にとっては「残酷な世界」になってしまう、と言い換えることもできるのではないだろうか。

個人的なことだが、私がプロフィールに示している「バリューディレクター」や「ブロガー」や「ポッドキャスター」というのも、これまでのフィードバックを通して「自分で勝手に決めた軸足」だ。

絶賛試行中ということもあって「本当の軸足」と呼ぶにはまだ早いが、着実に育っていっている感覚はある。

おそらく、提案書作成における「お客様からのご要望」のように、試行錯誤しながらやっている内にきっと「本当の軸足」になっていくのではないだろうか。

個人的に思うに、「残酷じゃない世界」は「軸足づくり」が創る。

引き続き「軸足づくり」に鋭意取り組んでいきたい所存だ。

*1 「下調べ」は、やれば誰でも使うことができる強力なコミュニケーションツール。

Photo by Nigel Msipa on Unsplash

【著者プロフィール】

タナカ シンゴ

今推しの漫画は、ジャンププラスで連載中の「ダンダダン」。「ターボババア」という現代妖怪に心とアソコを奪われそうです。

理工学部卒業後、東京のマーケティングファームに7年勤務。営業、リサーチ、コンサル、商品開発、集客、マネジメントの現場経験を積みジョブチェンジ。

現在は一人会社との複業で、中小オーナー企業や地方自治体をクライアントに商品開発と集客のプロジェクト運営などを行っています。

○Twitter タナカシンゴ

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◯noteマガジンで「事業の役に立つネームコレクション」を運営中

○Podcastで白湯専門番組「白湯FM」を配信中

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