田中 新吾

「属人性を高める行為は知的謙虚さにかける」という考え方を知り、プロジェクト推進の標語にすぐにしたいと思った話。

タナカ シンゴ

最近読み終えた本の中でこれはアタリだったなと思う本がある。

GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた ドキュメントの活用でオフィスなしでも最大の成果を出すグローバル企業のしくみ、というものだ。

この本は昨年、私がプロジェクト伴走支援をしている会社の代表の方からオススメしてもらった。

タイトルどおりGitLab(ギットラボ)社とは世界最大のリモート組織である。

・世界67カ国以上に従業員2,000名以上

・自社オフィスを持たない世界最大のオールリモートカンパニー

・リモートワークのための方法論やカルチャーを「GitLab Handbook」として公開

・リモートワークの方法だけでなく評価、給料の決め方、部門ごとの仕事の進め方など、社員として必要な知識をすべて支える「ドキュメント文化」が浸透

GitLab社のマニュアル原本は大変情報が膨大らしく、いきなりこれらすべてを読み解くのはハードルが高い。

本書は、それらを各施策の背景まで誰でも理解しやすいように整理することを目的している。

実際めちゃくちゃ整理されていて大変読みやすかった。

リモートでプロジェクト推進の支援などを行う私としては、働き方として参考になる情報が大変多く、答え合わせをしているような感覚も持ちながら読んだ。

そして、そんな本書の中で私は大変参考になる考え方や言葉を多数発見した。

例えば「かすれたインクは鮮明な記憶に勝る」は、ドキュメント文化が浸透している会社ならではの素晴らしい標語だ。

幾つもあった中で強いて一番を決めるとするならば、個人的には以下の考え方を大きな発見として推したい。

属人性を高める行為は知的謙虚さに欠ける

私はこの考え方を知り、プロジェクト推進の標語にすぐにしたいと思った。

属人性を高める行為の具体例

言うまでもないが、組織運営における「属人性を高める行為」とは​​特定の個人の能力や知識に依存するようなことを意味する。

例えば以下のようなものだ。

私の経験則をベースに理由と共に示してみたい。

・重要な情報やノウハウの共有を行わない

理由:特定の個人だけが重要な知識やノウハウを持つことになり、組織全体の知識の深度が浅くなるため。

・業務プロセスのドキュメンテーションを怠る

理由:業務の詳細が記録されていないため、特定の人にしか業務の実行方法がわからなくなってしまうため。

・特定のタスクやプロジェクトの責任を一人に集中させる

理由:個人のスキルや経験を活かすことができる一方で、その人がいなくなった場合、プロジェクトが停滞する可能性があるため

・意思決定プロセスを限られた人に依存させる

理由:効率的な意思決定が可能になるが、その人々が不在の場合、重要な決定が遅れる可能性があるため

・コミュニケーションチャネルを限定する

理由:情報の流れが特定の個人を通じてのみ行われると、その人が不在の時に情報が遮断されるため

・研修や教育プログラムの欠如

理由: 新入社員や他のメンバーが、既存の知識やスキルを学ぶ機会が少なく、特定の人材に依存する体制が強化されるため

この他にも「タスクや役割のローテーションを行わない」や「フィードバックや評価のプロセスが不透明」なども「属人性を高める行為」の具体例と言っていいだろう。

大なり小なりの組織の一員として動いたことのある人であれば思い当たるところがあるはずだ。

属人性を高めることが組織運営やプロジェクト推進のリスクを高めることも、である。

そして、どんな組織やプロジェクトであれ、人間関係によって行われる以上は共通の課題と言って差し支えはないだろう。

「知的謙虚さ」を構成する要素

話をGitlab社に戻すと、Gitlab社ではこのような属人性を高める行為を良しとしていない。

そして、その姿勢や考え方を表したものが「属人性を高める行為は知的謙虚さに欠ける」というものなのだ。

それは「休暇をとらないことは組織の弱点」という項目の中にあった。

GitLabでは、休みを取らない人が存在することは2つの理由で組織における脆弱性がある状態だとみなしています。ひとつは当たり前ですが、休みを取らないことでメンバーが疲弊してしまい、いつか限界を迎えてしまう可能性があることです。

(中略)

もうひとつの理由は、休みを取らない人の業務が単一障害点になってしまうためです。休みを取ることは、誰かがその人の代わりに役割を担うことになります。

そのためには他の人が業務を引き継いで担当できるようにプロセスを言語化し、業務を委任できる形にしなければなりません。

休みを取らないことでいつまでも属人化の状態が続き、他の人が代替できるようなしくみ化やドキュメント化が行われないという問題が生じてしまうのです。

このことは、単一障害点の担当者が突然の体調不良や退職となった際には、誰も対応できなくなるリスクを秘めています。さらに、休むことによって他のチームメンバーが新しい仕事を担当できるチャンスにもなります。担当したことのない新たな経験を積むことで、能力を伸ばせるかもしれません。休まないことでこうした機会も得られなくなってしまいます。

(中略)

このような属人性を高めるような振る舞いは、GitLabのようなグローバル企業では「知的謙虚さに欠けている」とみなされており、休暇を取らないことや長時間労働を自慢するようなことはやめるようにいわれます。

(太線は筆者)

私はこの部分を読み、30代後半にして初めて「知的謙虚さ」という言葉を知り、興味を持ったため調べていくと「知的謙虚さ」を構成する要素がまとめられた記事をネット上で発見した。

その記事によれば「知的謙虚さ」は以下の要素により構成される。

・自分の信念は間違いあり

・自分の意見や立場、視点を疑う

・新たな事実で自分の意見を再考

・自分とは異なる意見に価値あり

・自分の真実とは異なる発見が好き

・自分の考えと矛盾する事実で意見を変える

参照:対話型の学びに欠かせない「知的謙虚さ」

このような情報もふまえ「属人性を高める行為」への評価をする上で、「知的謙虚さ」という言葉以上に適当な言葉はないと直感的に捉えた。

そして「属人性を高める行為は知的謙虚さに欠ける」をすぐにプロジェクト推進の標語にしたいと思ったのだ。

組織やプロジェクトに関わるあらゆる人に一読をオススメしたい

先に紹介した「かすれたインクは鮮明な記憶に勝る」という言葉からも分かるように、Gitlab社はとにかく、人間の知的能力に対していい意味で疑い深い。

本書の著者である千田和央さんも以下のように続けていた。

知的謙虚さが高い」とは、自分が絶対的に正しいわけではなく、柔軟に考え方を変えられる状態です。「無知の知」にも近い考え方かもしれません。

前述の「知的謙虚さ」を構成する要素にも合致する。

私は本書を読み、Gitlab社のようなフルリモート組織に限らず、あらゆる組織運営において、構成メンバーの「知的謙虚さの高さ」は成否を分ける最重要項目なのかもしれないと考えるようになった。

知的謙虚さの高いメンバーによって運営されている組織やプロジェクトは上手くいくが、低いメンバーによって運営されている組織やプロジェクトは破綻に向かうというように。

正解が誰にもわからない今この時代だからこそ、真に必要とされる考え方なのではないだろうか。

本書から得られる学びはこの他にもさまざまにあった。

組織やプロジェクトに関わるあらゆる人に一読をオススメしたい本である。

UnsplashLinkedIn Sales Solutionsが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

著者:田中 新吾

プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車

自らの知的謙虚さを高めるためにも、関わるプロジェクトの全てにおいては、率先してドキュメント化から着手していきたいと思います。

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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