「余計な失点」は死ぬ気で防ぎ、「取り返せる失点」には恐れずどんどん挑戦して加点にしていく、という考え方について。
知人から「本を自分で出版したので読んでみて欲しい」という連絡をもらった。
それがこちらの「0から3ヶ月で高級店の寿司職人:29歳、IT系会社員からの「転職論」」という本である。
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Amazonの「Kindle ダイレクト・パブリッシング」を使って出版したそうだ。
どのような内容なのか、出出しだけ掻い摘んで紹介してみよう。
筆者の「飯田雄介」というアラサーの一般男性は、大学を出てから新卒でITベンチャーに入社した。
入社3年目の終わりを迎えたあたりから他社への転職を検討するものの、転職した先に待っているであろう未来に希望が見出せず、「自分が本当にやりたいこと」を探すことに舵を切る。
そして、やりたいことの仮説を立てては、それを検証するために多くの時間を割いた。
その必死な活動は実を結び、「他人や社会、時間や場所の制約を受けず、自分主体でやれること」かつ「自分の興味関心が高いジャンル」という次の仕事に求める要件定義へとつながっていく。
また、どれほど個人が強かろうが社会に抗えないこともあるという考えから、所属する社会を自由に選べるように「海外の永住権を取得できること」も筆者にとっては重要だった。
これらの要件を満たす仕事は「医者」か「料理人」か。
というところまで考えるに至った筆者は、5年勤めたITベンチャーを退職して、思い切って半年間海外の旅に出る。
そして、旅先の一つだった美食の国「スペイン」で、日本固有で世界的にも魅力的なバリューを保持する「寿司職人」という仕事への道が開かれていくのであった。
このような具合にテンポよく話は進み、タイトルの通りの筆者等身大の体験記で、非常に読みやすい出来上がりとなっている。
「アトラクション満載でスピード感のあるエピソード」と、出版経験ゼロの人間とは思えない「高い国語力」が、読み手を飽きさせることなく最後まで誘ってくれるはずだ。
本書の内容をもう少し抽象化すると以下のような具合にまとまる。
「年齢を重ねてから新しいことをはじめたい」
「何か困難なことに挑戦したい」
という場合に、
「そこには一体どんな困難が待っているのか」
「その困難をどうやったら乗り越えることができるのか」
「その困難を早くクリアするにはどうしたらいいのか」
が書かれている本と言えるだろう。
筆者の「自分が本当に納得する働き方や生き方」を探し求めていくそのプロセスは、私も含め共感する人はきっと多いはず。
ビジネス書風な仕上がりも個人的には価値を感じるポイントになった。
「癖のある人たちと軍隊的風土」に対して「失点を失くし漢らしさで加点する」
この本の第3章には、寿司職人として働く上で立ちはだかる「4つの困難(身体の壁、人間関係の壁、精神の壁、技術の壁)」が示されており、それぞれにその詳細と対策とが書かれている。
個人的にはこの章に共感するところが多かったわけだが、中でも「人間関係の壁」という部分に焦点を当ててみたい。
では、寿司職人の仕事における「人間関係の壁」とは一体どんなものなのか?
筆者はそれを「癖のある人たちと軍隊的風土」として説明する。
アドラー心理学では「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」とされていますが、殊に閉鎖的な寿司屋の中においてその傾向はより強いです。
まず一般企業では考えられないような人が正直いって沢山います。
元々寿司職人になるような人は刑務所に行くか寿司屋になるかで悩む人たちだったという話もあります。
今でこそだいぶ変わったとはいえ、それでもヤンキー上がりのような人は多くいます。
また知人のお店ではお金をちょろまかす小悪党もいて、日々数千円をレジから盗み最終的に数百万単位のお金を盗んだ人がいた、といったような話もザラにあります。
そして一般的にイメージされるような体育系をよりガチガチにした軍隊のような雰囲気感も健在で、先輩や役職者の言うことは絶対とするのが基本です。
そして気の弱い人に対する軽いいじめのようなコミュニケーションも散見されます。
その上僕のような異業種からやってきたような人はよそ者とみなされるので、フラットな関係に持っていくまでも一苦労します。
それにも関わらず仕事上ではスポーツチームのように、一丸となって動くことが求められますし、技能の上達には先輩から上手いこと教えてもらうことが必要不可欠。
そういった方々と上手く付き合っていくしか無いわけです。
刑務所、ヤンキー、小悪党、そして窃盗。
体育会系をさら激成したような軍隊的で強制的な雰囲気。
現在の一般企業では考えられないような「過酷な人間関係」の中に身をおき、尚且つ求められるのは「チームワーク」だというのだから、読んでいるだけで胃がキューキューしてくる。
「ITベンチャー5年勤務」の筆者は、どのようにしてこの超え難い壁を乗り越えていったのか。
それが「余計な失点を無くし漢らしさで加点する」というもの。
「余計な失点」とは、意識すれば確実に無くせる悪い印象のことで、遅刻をしない、挨拶をちゃんとする、声を大きくするといったようなレベルのことである。
曰く、人材が定着しない度合いの高い飲食業界において、どこの馬の骨かわからないよそ者がきた日には「どうせすぐに辞めるんだろ」というような否定的な見方をされていると考えて然るべきだと。
そのような見方をされている中に、「遅刻をする」「挨拶ができない」などのマイナスの要素が強くインプットされてしまうと「やっぱりコイツはダメなやつだ」という印象を補強しかねない。
だからこそ、
「余計な失点は死ぬ気で防いでゼロにすべし」
「加点をしようとするのはそれから」
といった対応が重要だというのだ。
「加点」方法としての「漢らしさ」に関しては、働く環境によっては「漢らしさ」がいまだに高いバリューを持つことが確認できたことは、私にとって大きな発見であった。
やはり「価値」とは、何かに固着して存在するものではなく、環境や受け手によって上下変動していくものなのだ。
そして、何よりも重要なことは「戦力として貢献すること」だと。
そもそも人材が不足している業界という中で、ちゃんとやれるだけで貴重な存在なわけで、最低限の人間性が担保されていて、忙しくもちゃんと働いて貢献してくれるのであれば、少なくとも仕事の関係性においてまず悪いことにはならない、というのはその通りなのだろう。
経営学者のピーター・ドラッガーは「プロフェッショナルの条件」という本の中で、「貢献の重要性」を述べているが、まさにこの通りだと私も思う。
「成果」というのものは「貢献」に焦点があたっていなければ一向に出ない。
成果をあげるためには、貢献に焦点を合わせなければならない。
手元の仕事から顔をあげ、目標に目を向けなければならない。
「組織の成果に影響を与える貢献は何か」を自らに問わなければならない。
すなわち、自らの責任を中心に据えなければならない。
貢献に焦点を合わせることこそ、成果をあげる鍵である。
仕事の内容、水準、影響力において、あるいは、上司、同僚、部下との関係において、さらには会議や報告など日常の業務において、成果をあげる鍵である。
そして、余計な失点を死ぬ気で防ぎ、戦力として貢献していくことをコツコツ続けていくと、ある時突然、臨界点を突破したかのように警戒が解かれ「一員として認めてもらえた」と感じる瞬間が来るのだという。
「ここまでくればあとは余裕を持って楽しく働けるようになる」と筆者はいうが、辿り着くまでの「辛抱強さ」は欠かすことはできない、というのは何をするにしても同じことだろう。
努力を怠り「余計な失点」を積み重ね、信頼を失うなんて本当に愚かでしかない
「余計な失点」に関しては私にも思うところがある。
昔、IT系上場企業に勤める知人から一緒に飲んでいた時に下のような質問を受けた。
「基本的なことができないやつに注意するのはおかしいことかな?」
聞くと、どうやら職場の人間関係ではなく、「友人関係」で悩んでいたようだった。
私は「基本的」な度合いにもよる、と思っていたところよくよく聞いてみると、本当に基本的なことだとわかった。
「約束した時間にこない」
「遅れるにもかかわらず連絡は一つもない」
このようなことがデフォルトらしい。
小・中学校からの幼なじみで昔の縁ではあるものの、あまりに基本的なことがなっていないから注意したところなかなか分かってもらえなくて。
といった悩みだった。
同じようなことが今までも何度かあったようだが、今回で彼はそのことについては触れないことに決めたと言っていた。
この時、私の頭に浮かんだことが「余計な失点」についてだった。
はっきり言って、約束を守れないとか、連絡をしないというのは「余計な失点」で、自分が努力すれば絶対に防げないはずがないにもかかわらず、努力を怠りそういう失点を積み重ね、信頼を失うなんて本当に愚かでしかない。
仕事でもそうだ。
何度もメールで相手の名前を間違える、いつも誤字脱字が多い、敬語の使い方がおかしいなど、これらは「余計な失点」に該当する。
そして、対人関係がうまくいかない人や、仕事で成果がでない人にかぎってこういう「余計な失点」がとても多い。
このような経験則が私にもあったからこそ、飯田氏の考えに共感できたのだろう。
社会心理学者の山岸俊男氏は、著書「安心社会から信頼社会へ」の中で、
相手の行動によっては「自分の身」が危険にさらされてしまう状態のことを「社会的不確実性が存在している状態」だと述べ、
その上で「信頼」を以下のように定義している。
・社会的不確実性が存在しているにもかかわらず、相手の(自分に対する感情までも含めた意味での)人間性のゆえに、相手が自分に対してひどい行動はとらないだろうと考えること
思うに、人間関係において、社会的不確実性を完全には取り除くことはできず、信頼という行為には常にリスクが孕む。
しかし、「余計な失点」を阻止することで社会的不確実性を減じることは可能だ。
山岸氏の信頼の定義においても、「余計な失点」を防ぐことが「相手からの信頼を得るためには不可欠」であることが分かるのではないだろうか。
「余計な失点」が無くなってはじめて上手くいくようになる
また「加点は余計な失点がなくなってから」という考えにも同感だ。
これまで仕事をしてきて私自身が感じてきたのもそうなのだが、例えばこれは「サッカー」というスポーツにおいても大事な考え方になってくる。
基本的なマークの受け渡しができておらず連携ミスで失点をしてしまった、戦術理解度が低くポジショニングが悪くて失点をしてしまった、などはまさしく「余計な失点」に該当する。
そして漏れなく、こういうチームは敗北をし続ける。
ところが。
「余計な失点」がなくなった時から守備が安定し、急激に勝ち星を積み上げはじめるという現象は今までに幾度となく見てきた。
「Jリーグ」や「高校サッカー」を観るのが私は好きで、よく観戦をしているのだが、好調なチームはどこもかしこも一貫して「守備」がいい。
昨年リーグ最速優勝を果たし、新年度の開幕を告げるゼロックススーパーカップでも幸先良く勝利した「川崎フロンターレ」は、今年「1試合3得点」という目標掲げ、その「最強の矛」が注目されている。
しかし思うに、最強の矛が最強の矛であれるのは、守備が安定していて「余計な失点がない」からだ。
これは人間関係においてもまったく同一で、良好な人間関係というのは「余計な失点」を無くしてはじめて作られていく。
ただ、サッカーで「余計な失点」がなくなっても「失点」をしてしまう場合があるように、余計な失点がなくなっても上手くいかないことはある。
つまり、余計な失点を無くすことは「上手くいくための最低条件」になって来るのだろう。
「取り返せる失点」には恐れずどんどん挑戦して加点にしていく
「余計な失点はするな」というと、「失点」に対して身を縮ませてしまう人もいるかもしれないが、ちょっと考え直してみて欲しい。
我々人間は「間違いを起こさない完璧な存在」ではなく、「間違いを起こす不完全な存在」だという厳選たる事実がある。
したがって「余計な失点」は死ぬ気でやれば阻止することができたとしても、新しいことに挑戦している時などに、間違いや失敗というような「失点」をしてしまう場合は誰にだってある。
しかし、個人的に思うにこの類の失点は「後々取り返すことができる」もので、周囲からも大目に見てもらえる場合が多い。
要するに「取り返せる失点」なわけだ。
にもかかわらず、日和って失点しないように萎縮しているとどうなってしまうのか。
「やったことのあること」
「知っていること」
「簡単にできること」
「いつも同じこと」
の中で、行動は留まることになり、新しい経験のバリエーションはまったく積まれていかない。
したがって、人間関係や仕事などで「より多くの経験値を積みたい」と考える場合、
「余計な失点は死ぬ気で防ぐ」
「取り返せる失点は恐れずどんどん挑戦して加点にしていく」
と考えるのが良いと個人的には思っている。
「0から3ヶ月で高級店の寿司職人:29歳、IT系会社員からの「転職論」」について、「実は今、kindleで本を書いているんです」という話を本人から聞いたのは、出来上がりの連絡をもらう3週間ほど前だった。
それからこんなにも早く出来上がるとは思ってもいなく、メッセンジャーで連絡をもらった時は正直かなり驚いた。
簡単には真似できない部分はあれど、「寿司職人」や「料理人」に興味がある方はもちろん「仕事や人生にモヤモヤを感じている同年代の社会人」には是非読んでみて欲しい作品である。
kindleアンリミテッドなら「0円」、そうでなくても「250円」で、アラサー一般男性の心血が注がれた「転職論」を知ることができ、きっと何かの参考になるはずだ。
あと読み終わると、きっと筆者に「出張寿司」を頼みたくなると思う。
Photo by Thomas Marban on Unsplash
【著者プロフィール】
田中 新吾
「SHSHI+」頼んでみたい。知人がきっと目の前で握ってくれるんだろうな。
プロジェクトデザイナー/企業、自治体のプロジェクトサクセスを支援しています/ブログメディア(http://ranger.blog)の運営者/過去の知識、経験、価値観などが蓄積された考え方や、ある状況に対して考え方を使って辿りついた自分なりの答えを発信/個人のプロジェクトもNEWD(http://ranger.blog/newd/)で支援
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