人生に飽きないのは「他人のやり方でやる」ことで味わえる「愉悦」を知っているから。
先日、はてな匿名ダイアリーに投稿されていた「30歳だが人生に飽きた」という記事を読んだ。
仕事→飽きた
セックス→飽きた
酒→やめた、飽きた
人と交際するまでの過程→飽きた
人と交際するという行為→飽きた
不倫→1回やってみたけど何がおもろいのか分からなかった
人付き合い→本を読み漁って努力した時期もあったけど自分は雑談や人にさほど興味がないと気付く
結婚→(上の過程で自分は明確に他人に興味ないということが分かってしまったので)どうでもいい
出産→退屈凌ぎでやるレベルのことではない(コスパ的にも道徳的にも肉体的にも)
ファッション→中国通販を知ってからユニクロすら高級に思うようになった
メイク/コスメ→ 美人のプチプラ>>(越えられない壁)>>ブスの諭吉と理解してからこだることをやめた美容全般→50万のエステより5万のプチ整形と理解してから馬鹿らしくなった
趣味だった映画鑑賞→劇場の没入体験は魅力だがサブスク見放題(月額1000円ちょっと)を知ると一回1900円の娯楽は自分には分不相応だと思った。以来足が遠のく
趣味だった観劇→最前列から見切れ同然の席まで同額とかありえんだろと思った時点から純粋に楽しめなくなった(というかコロナ禍で行かなくても平気だったと気付く)
趣味だったひとり旅→観光客向けのぼったくり店があまりに多くて萎えた、飽きた。(国内のどこも然程景色は変わらないと知ってしまったことも理由)
アウトドア・スポーツ→目的が人付き合いではないのでどれも何回か経験したら単純に飽きた
ペット→独り身である限り飼う気なし
勉強→地頭の限界を知ることになった
食→健康志向にこだわるのも飽きた。ただ現代人は食い過ぎだという話はごもっともだと思う
SNS→人の食った飯などどうでもいい
YouTube→上に同じ、教養系は見るが同じ内容が多くて飽きつつある
健康管理→できる範囲の努力はするがそれでも人の致死率は100%だと思うと虚無を感じるこいつ生きててつまらなそうだなと思われそうだけど実際つまらない。
ハマると猿のように夢中になってここまで生きてきたのでこれまではある程度楽しかったのだけど、なんかもう全てに飽きてしまった。
人生は暇つぶしというけれど、これから何で暇をつぶせばいいんだろう。
主張の強さもあってか、多くのブコメが付いていた。
この記事は要するに「人に興味のない30歳の独身女性が、人生に飽きたと悲痛の声をあげている」ものである。
私は今30代半ばで、増田さん(はてな匿名ダイアリーの書き手の愛称)の年齢はすでに経験済みの人間なのだが、同じく30歳の時に「人生に飽きた」ということは思いもしなかった。
そして、それは今も変わらないでいる。
だからこそこの記事を読んだときに「え、もう飽きたの?」と強い違和感を覚えた。
そもそも私は人生は幾つになっても飽きないものだと考えている。
理由は、
この世界には「自分のやり方でやる」のではなく、「他人のやり方でやる」という「愉悦(たのしみよろこぶこと)」が存在するからだ。
記事を書いている30歳の女性は、多岐にわたって実際にやってみている。
しかし思うに、すべて「自分のやり方でやる」の中に留まっている。
「他人のやり方でやる」という「愉悦」。
これが存在する以上、私には「人生に飽きた」なんて口が裂けても言えない。
「他人のやり方でやる」という「愉悦」をはじめて味わったのは大学受験
昔話をする。
「他人のやり方でやる」という「愉悦」をはじめて味わったのは、大学受験のために勉強をしていた時だった。
このブログメディアでも何度か登場している「塾長(*1)」からそれは教わった。
私が師事した塾長はとにかく「やり方」にこだわる人で、毎日のように「やり方を変えるのだ」と耳にタコができるほど言っていた。
「やり方が変わればでき方が変わる」というのがその理由だった。
例えば、塾長から教えてもらった「やり方」の中に、
「50台の2乗を”1秒”で求める」というものがある。
「50台の2乗」は、
51×51
52×52
53×53
54×54
55×55
56×56
57×57
58×58
59×59
の9つある。
掛け算の仕方を知っていれば、誰にでもこの答えを求めることはできるだろう。
しかし「1秒で求める」ことができる人は中にどれくらいいるだろうか。
思うに、ほぼいない。
では、一体どうすれば1秒で求めることができるのか?
ポイントは二つある。
①「一の位の数」に「25」を足して
②「一の位の数」を「2乗」する
最後に①と②を合体させて完成。
これさえ分かっていれば誰でも1秒で求めることが可能だと言っていい。
例えば、51×51の場合。
一の位は「1」。
そうすると、
①25+1=26
②1×1=1
だから答えは「2601」
57×57の場合。
一の位は「7」
そうすると、
①25+7=32
②7×7=49
だから答えは「3249」
こんな感じで「25足して、2乗する」というリズムを脳が覚えると本当に1秒で求めることが可能だ。
受験数学の問題の中には、2乗する場面が意外と多く、こういうことを知っているだけで思考はかなりショートカットできる。
このやり方を塾長から教えてもらった当時、それまで「いわゆる掛け算」のやり方しか知らなかった私は、大袈裟かもしれないが雷に打たれたような衝撃を受けた。
この「50台の二乗を1秒で求める」は「やり方」のほんの一部で、
「計算を楽にする」
「覚えにくいものを覚えやすくする」
をコンセプトに、塾長はこの他にも「様々なやり方(*2)」を発明していた。
「コース固定で3対1のチーム戦を行う」というマリカーの遊び方
ちなみに、勉強以外でも衝撃を受けた塾長の「やり方」がある。
それは「マリオカート64の遊び方」だ。
何かというと「各コースで走って順位を競う」という通常ではない遊び方を私は教えてもらった。
それは「コース固定で3対1のチーム戦を行う」というものである。
どういうものか詳しく説明していこう。
①参加者を4人集める。
②コースは「ルイージサーキット」に固定する。
(コース固定はどこでもいいがベーシックなところを推奨)
③1人(以降、A)と、3人チーム(以降、B)とに分かれる。
④AはBよりも早く3週すれば勝ち。BはBのうちの1人(以降、B1)がAよりも早く3週すれば勝ちとなる。
「こんなのB1が有利に決まっているじゃん」「ゲームにならない」と思うかもしれないが、ここから先がポイントとなっている。
⑤ゲームバランスのために、AはB1よりも早くスタートし、B1はAがルイージサーキットの「最初のトンネル」に入るまでスタートしてはいけないという決まりがある。
⑥こうなると「A」の方が有利になるので、B2とB3は、逆走するなどして「スター」「トゲゾーこうら」「3つのこうら」などの強アイテムを保持し、Aの走りをこれでもかと邪魔していく。
※ちなみに「3つのこうら」は「シュートする」のではなく、それを纏った状態で「Aに激突する」などのために使用する。
⑦B2とB3による上のような邪魔がうまくハマると、AとB1の距離がどんどん縮まり、B1がAを抜き去り勝つ場合が出てくる。
しかし、B2とB3の邪魔がうまくいかない、あるいはAの走行テクニックが高い場合、B1の走りがイマイチな場合などは、Aが勝つ場合がある。
といった内容の遊び方になっており、これを人を入れ替えながら行うのだ。
この「やり方」がめちゃくちゃエキサイトで面白い。
大人になった今やってもきっと大盛り上がりするだろう。
ちなみに、後になって知った「ローラーゲーム(*3)」という競技があるのだが、これはイメージと少し近い。
こんな具合に私は、「他人のやり方でやる」という「愉悦」が存在することを塾長から教えてもらった。
「他人のやり方でやる」ことで、「自分のやり方やる」ことでは見えて来なかった「新世界」が目の前に突然現れるのだ。
そして、この瞬間というのがとてもたのしくよろこばしい。
スタジオジブリ鈴木敏夫さんのお弟子さんである「石井朋彦さん」も、自著「自分を捨てる仕事術」の中で、「他人のやり方を真似する」ことを推奨している。
とにかく1回、何も考えずに、自分がいいなと思った人、コンプレックスを抱いた人、負けた、と思った人の「型」を真似してみる。
自分を空っぽにして、身体のなかに取り入れてみる。
そのあとで、自分にとって有益なことは自然に残っていくし、違和感があったり、なじまなかったことは捨てればいい。
いちばんよくないのは、「あの人は自分とは違う」と決めつけ、いつまでも心のなかに、劣等感やマイナスな感情を抱き続け、その場にいとどまってしまうことです。
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思うに、石井さんは「他人のやり方でやる」ことによって得ることのできる愉悦を私なんか以上によく分かっている。
でなければ、
「自分を捨てる仕事術」という内容の本はきっと書けていないだろうし、書いてもいないはずだ。
「この人のやり方をやりたい」と思える相手に出会えるかどうかは重要
では「他人のやり方でやる」という「愉悦」を味わいたい、と思った時の「他人」というのは誰でもいいのだろうか?
これは答えを言ってしまうと、きっぱり「ノー」だ。
「この人のやり方をやりたい」と、
「心から思える人のやり方」でなければ、例えやることが出来たとしてもそこから多くを味わうことはできない。
これは「南デンマーク大学」の最新の調査によっても明瞭に出ている。
この調査によれば、「好感を持っている人のマネをした時にパフォーマンスが最大になる」という。
また、優秀な人ほど「自分の好みに似た人を素早く見つけ、その意見を参考にしてさっと判断する」といった報告もある。
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最近私は「白湯FM(*4)」というポッドキャスト番組をスタートさせた。
「パートナー回」や「ゲスト回」などの構想もあるが、基本的には私一人で語る「ソロスタイル」のポッドキャストとなっている。
これをはじめるにあたって、一人でやられているいくつかのポッドキャスト番組の調査分析を私は行った。
調査分析のポイントは、
・継続しているポッドキャストである
・どのような番組構成をしているか
・1配信が10分〜20分程度であること
などがあり、この切り口で複数のポッドキャストをディグっては聴き込んで、その「やり方」を分析した。
私がポッドキャストの配信については、かれこれ3年程続けてきているので慣れてはいるものの、ソロスタイルははじめてのことで「他人のやり方でやる」必要性を感じていたのが理由である。
そして、この調査分析の結果、一番好感を持つことができ「この人のやり方をやりたい」と思えたものが、「佐々木亮の宇宙ばなし(*5)」というポッドキャストだった。
白湯FMの「番組構成」についてはこのポッドキャストを真似ている。
「宇宙」に対して「白湯」という感じでカテゴリーも対象のスケールも全く違う。
話者の声色も、BGMも違うために仕上がりは別のものとして感じるだろう。
しかし「番組構成」についてはほぼ同じだ。
まだはじめて間もないが、この「やり方」のおかげもあって大変楽しみながら番組の企画や運営をすることができている。
思うに、「この人のやり方をやりたい」と思える相手に出会えるかどうかは、「他人のやり方をやる」ことで味わえる「愉悦」のための「KSF(key success factors)」と言っても過言ではない。
「他人のやり方でやる」なら徹底的に真似る
「他人のやり方をやる」上で、もう一つ重要なことがある。
それは、
「他人のやり方でやる」なら徹底的に真似る。
ということである。
スタジオジブリの石井朋彦さんも「自分を捨てる仕事術」の中でしたのように述べている。
自分のままで相手に対するよりも、自分を捨てていったん相手になりきってみて、はじめて理解できることのほうが真実だったのです。
中途半端に真似ては、相手のやり方を理解することはできないのだ。
やるのであれば自分を捨てていったん相手になりきるという姿勢でいい。
というかそうでなければならない。
このことは「完コピ」という表現で、「ビリギャル」の著者である「坪田信貴さん」も本の中で述べている。
少し長くなるが引用にて紹介する。
僕がいつも言うのは、「頭のいい人の行動を完コピしろ」ということです。
いい成績を取りたいと思ったら、頭のいい人(できる人)に「どうやって勉強したら、できるようになるんですか」と聞きたくなりますよね。
でも、実は、そんなノウハウを聞いても意味がない。
それよりも、あなたがすべきことは——「普段どんなふうに勉強しているのか、今ここでやってみてください」とお願いすることです。
何時間勉強しているのか、休憩時間は何分くらい取るのか、どのくらいのペースで問題集を解くのか、ノートはどんなふうに取るのか、参考書は何を使っているのか……全部“完コピ”するんです。
社会人の方も同じです。
たとえば営業成績がめちゃめちゃいい人に
「営業のやり方を教えてください」
「どうやったら営業成績が上がりますか?」と相談して、アドバイスを受けても、あなた自身の営業成績を上げるための効果は少ないでしょう。
それよりも、一緒に営業先へ同行して、その人がそんなふうに挨拶しているか、どんな表情で相手に話しかけているのか、どんな言葉遣いで話しているのか、どんな順番で話をしているのか……
をしっかり観察して、それと同じ行動を“完コピ”する方が、成績上昇に直結します。
(中略)
ところで、「できる人の行動を完コピをしなさい」と言うと、恥ずかしいと思う人もいるし、そもそも誰かの真似をすることに対して、否定的な人も結構います。
「自分はその人より能力が低いのだから、できる人の真似なんかしても意味がない」と思う人が、わりと多いようです。
また「真似をするよりも、オリジナリティを出さなくちゃ」「自分の個性で勝負しないと戦えない」といった考え方をする人もいます。
しかし、それは間違っています。
そもそも、人間は一人ひとり違いますよね。
身長も違えば声も違う、骨格も関節も違うし今までに受けてきた教育も人間性も違う。
なので、どんなに“完コピ”しようとしても、必ずズレが出てくるのです。
つまり、どんなに誰かの真似をしても、“あなたらしさ”は出てしまうものなのです。
[itemlink post_id=”7286″]
要するに、
・どんなアドバイスを受けるよりも「完コピ」することが一番効果を出せる
・「完コピ」によって個性が失われることはない
ということである。
私はこれを読んだ時「やるなら徹底的に真似る」と心に誓った。
人に興味がないことが全ての原因なのかもしれない
冒頭の記事に話を戻そう。
長くはなったが以上のような考えゆえに私は、「幾つになっても人生は飽きない」と考えている。
課題があるとするならば「人生に飽きる」ことではなく、
「この人のやり方をやりたいと思える人」に出会うことが出来なかったり、「他人のやり方をやりきれない」ことの方にある。
ブコメを見ると、記事を書いている30歳の女性が実践してきていないものを見つけては「まだこんなのもあるんじゃないの?」という提案もたくさん見れる。
しかし思うに、それを実践したとしても「自分のやり方でやる」ことから離れない限りは何をやっても結果は同じなのではないだろうか。
すぐにサチってしまうだろう。
が、記事の続きを読むと「最大の原因」に気づいている兆候は見られる。
「人に興味がないことが全ての原因なのかもしれない」
まったくその通りではないか、と私は思う。
「他人のやり方でやる」というのは、自分が自分でなくなってしまうような「恐怖感」や「劣等感」のようなものを感じるのかもしれない。
この感覚は私にも分かる。
もちろんないわけではない。
しかし、実際には「この人のやり方をやりたい」と思える「他人のやり方でやる」ということの先には、今の「自分のやり方でやる」ことでは一生辿り着くことができなかったすばらしい「愉悦」が待っている。
これを分からないままに人生を終えるなんて勿体なさすぎる。
私に関しては、今のところまだまだ人生に飽きることはなさそうで「この人のやり方をやりたい」と思える人をこの先も探し追い求めていくのだろう。
そして「他人のやり方でやる」という「愉悦」を存分に味わっていきたい。
*1 「目的意識を持ちなさい」と言わずに、人に「目的意識を持ちたい」と思わせるためにはどうすればいいのか。
*4 白湯FM
*5 佐々木亮の宇宙ばなし
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【著者プロフィール】
田中 新吾
今推しの漫画は、ジャンププラスで連載中の「ダンダダン」。「ターボババア」という現代妖怪に心とアソコを奪われそうです。
プロジェクトデザイナー/企業、自治体のプロジェクトサクセスを支援しています/ブログメディア(http://ranger.blog)の運営者/過去の知識、経験、価値観などが蓄積された考え方や、ある状況に対して考え方を使って辿りついた自分なりの答えを発信/個人のプロジェクトもNEWD(http://ranger.blog/newd/)で支援
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