田中 新吾

プロジェクトデザイナーとしての「MVV」を策定した、という話。

タナカ シンゴ

思考と行動を循環させるのはいつだって「言葉」ですから、その言葉が雑だったり中途半端な状態だと思考も行動もいい感じに循環していきません。

しかしながら、そんな言葉がシャキッとしてくると不思議と思考と行動が循環してきます。

かくいう私も、自らのことを「プロジェクトデザイナー」として周囲にハッキリとお伝えするようになり、1年以上が経ちましたが、そんな自分自身の思考と行動の循環にもようやく手応えが出てきました。

そこでこれを機に、循環してきた手応えを確かめながら「MVV」を定めてみました。

ご存知のとおり、MVVとは、ミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)の略称です。

あらためて言うまでもないことかもしれませんが、MVVは経営学者ピーター・F・ドラッカーが著書「ネクスト・ソサエティ」において提唱したものです。

早速ですが今回策定したMVVは以下の通りになります。

ーーーー

■ミッション(存在意義、果たす役割)

・誰もがプロジェクトに挑戦しやすい環境をつくり、プロジェクトの成功を支援する

お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。(現在はこちらをミッションとしています。)

■ビジョン(理想的な姿)

・プロジェクトの力で、日本中あらゆる場の喜びを増やす

■バリュー(大切にしている価値観、行動指針)

・耳を澄ませること

・整理整頓をして流れを良くすること

・具体と抽象を行き来すること

・複雑な状況を歓迎すること

・感動することへ投資すること

・誠実でいること

・健康でいること

ーーーー

このMVVは、プロジェクトデザイナーとして行動していく中で感じ取ってきたことを濃縮して納得のいく形まで昇華させたものですが、養老孟司さんもおっしゃっている通り人間は変わりゆくもの、諸行無常ですから、今回定めたものがどこかのタイミングで変わることも想定されます。

ですが、当面の間はこれを拠り所に自分自身を動かしていきたいと思っている所存です。

ついては本稿で、今回定めたMVVの策定背景を、できる限り丁寧に説明してみたいという思いです。

会社、地域、ご自身のMVV策定の参考に、あるいは私(プロジェクトデザイナー)に対しての解像度を少しでも高めていただけたらこれ以上の喜びはありません。

ということでよろしくお願いいたします。

ミッション(存在意義、果たす役割)について

以前の記事でも示したとおりですが、この約1年の間、プロジェクトデザイナーとは「プロジェクトを設計し、プロジェクトを進行しながら、場合によってはプロジェクトを途中で再設計したりもしながら、プロジェクトを完成させる人のこと」として自分を再定義して動いてきました。

参照:やりたいと思ったことをやる時に採用している「プロジェクトデザイン思考」についての話。

グラフィック、プロダクト、Webといったような何か一つの具体的なアウトプットに縛られることなく、プロジェクト(=やる前から何をしたらどんな結果が得られるかわからない挑戦的な活動のこと、プロジェクトの対比はルーティン)にスコープを合わせることで、具体的な事柄も、抽象的な事柄も行ったり来たりしながら形にしていくことに取り組んでいきたいという考え方です。

そのため、実際の仕事は「Webサイトの構築」のような具体的なアウトプットをゴールとしたプロジェクトもあれば、「経営状況の改善」という抽象度の高いプロジェクトもあったりという状況です。

このような形で仕事に関わっていく中で、私がお役に立てている部分(お客さんから感謝されていること)をあらためて抽象化、言語化していきますと「プロジェクトに関わる人が、プロジェクトに挑戦しやすい環境を作り、成功を支援する」という整理ができました。

まず「プロジェクトに関わる人」というのは、プロジェクトの「オーナー」はもちろんプロジェクトに関わる「メンバー」も含まれます。

そして、プロジェクトデザイナーである私は、オーナーも、メンバーも「プロジェクトに挑戦しやすい環境をつくる」ことにひたすら奔走している、といった具合です。

「環境」というのは「ルール」や「ツール」といったものから、「ネーミング」「コンセプト」「ビジョン」「目的の明確化」といった言葉、「日々のタスク管理」「ファシリテーション」「技術者のアサインメント」「相談したいことを気軽に相談できる」といったようなものまで、オーナーやメンバーのモチベーションを高め、動きを円滑にするのために周囲に用意できる全ての事物が対象になります。

例えば、株式会社山屋さんには「月2回の定例mtgによる課題と打ち手の整理整頓」と「日常的に相談したいことを気軽に相談できる」という「環境」をご用意することで経営改善のためのプロジェクトを支援しています。

参照:山岳業務実行ベンチャー/経営改善プロジェクトの伴走支援

また、私は時折一緒に仕事をした人から「田中さんは良いパスを出してくれる」という評価をしていただくことがあるのですが、ここでいう良いパスとは、切り口やコンセプトや考え方のことで、それによって思考や作業が捗ったりするようなのです。

ここでの「パス」も私が相手のために用意した「環境」と言っていいのかなと思います。

アメリカの認知心理学者ジェームズ・ギブソンの「人間は環境に動かされており、環境が物の見方を左右する」という偉大な発見は、プロジェクトにおいても適応されるという認識でして、関わる人の周囲の環境の有無やその質によって、プロジェクトはよく進んだり、全然進まなかったりします。

これはプロジェクトデザインの仕事の根底に据え置いている考えでもあります。

以上のようなことから、プロジェクトにおいて求められ、誰もが挑戦しやすい「環境」をつくり、プロジェクトの成功を導くことこそが私が考える「プロジェクトデザイナー」の存在意義。

すなわち「ミッション」であると定義しました。

ビジョン(理想的な姿)について

そして、次にビジョン(理想的な姿)です。

思うに、挑戦的活動である「プロジェクト」には、登山者が険しい山の頂を目指す際の苦しさや不安のようなものが必ず生じます。

それは思うに「こうすればこうなる」というようにはじめから結果が分かっているものではないからでしょう。

プロジェクトに楽で簡単なものは決してありません。

しかし、こうした性質をもったプロジェクトだからこそ、それが成功した暁には、山の頂で眼前に広がる雄大な景色を見た時に生じるような大きな「喜び」を得ることができます。

また、そんな「喜び」という感情は、自然と他者と分かち合うこともできるため、持続する良好な人間関係構築にも寄与するものです。

私も実際、これまでに様々なプロジェクトに関わっていく中で大きな「喜び」を感じ、そしてその喜びを他者と分かち合い、良好な人間関係形成を進めてきました。

そうすることが「幸せ」である、とも思ってきました。

ポジティブ感情研究の第一人者バーバラ・L・フレデリクソン博士によれば、ポジティブ感情は「喜び」「感謝」「安らぎ」「興味」「誇り」「愉快」「鼓舞」「畏敬」「愛」「希望」の10個あるそうです。

そんな博士はこれらのポジティブ感情を持つことで「幸せ」になるといいます。

私が実感してきたプロジェクトの成功において得られる「喜び」は、まさにポジティブ感情の筆頭感情であり、それを増やすことで皆が幸せでいられる世界に近づいていくことなのではないか、という仮説があるのです。

もちろん答え合わせはまだ先なことなのですが。

このような考え方から、ビジョン(理想的な姿)を

プロジェクトの力で、日本中あらゆる場の喜びを増やす

としました。

「日本中あらゆる場」としたのは、会社も地域も小さなチームもコミュニティも、対象としているからです。

私一人では大した力は生まれませんが、プロジェクトには喜びを生む本当に大きな力があると信じています。

バリュー(大切にしている価値観、行動指針)について

そして最後にバリュー(大切にしている価値観、行動指針)です。

個人的な「行動指針」については以前もこのブログで紹介したことがありました。

なんだかんだあるといいと思うところがあって策定してきたところがあります。

それを元にして今回改善を行いました。

<ビフォー(2020年時点)>

・素直でいること

・耳を澄ませること

・血流をよくすること

・相思相愛であること

・視点を増やすこと

・一隅を照らすこと

・自分だけの実験をすること

<アフター(今回)>

・耳を澄ませること

・整理整頓をして流れを良くすること

・具体と抽象を行き来すること

・複雑な状況を歓迎すること

・感動することへ投資すること

誠実でいること

・健康でいること

バリューを策定するにあたり、あらためて大切にしている価値観を確認するために自分を掘り下げていったわけですが、3年以上も経つと「何を大事にするか」はやはり変わっているものですね。

自分自身を点検するいい機会にもなりました。

現在の自分が大切にしている価値観をあらためて掘り起こし、それをバリューとして策定。

これらはミッション、ビジョンを実現するために必要なものという関係性です。

並べている順番に意味はなく並列で、7つなのは7という数字が好きだから。

以下は各バリューに関連する過去に書いた関連記事です。

よければ合わせてご覧ください。

参照:「整理整頓が自分の仕事の能力を全体的に高めてくれる」という信念が、整理整頓に向かわせる。

参照:「流れに注目すること」は、人生のあらゆる場面において大切で、間違いなく有用な考え方。

参照:昔、上司から教えてもらってよかった「人の話の聴き方」。

誰もがプロジェクトに挑戦しやすい環境をつくり、プロジェクトの成功を支援する人

お察しの通り、今回MVVを整理し策定したことで、私にとってのプロジェクトデザイナーの定義にもアップデートがかかりました。

<ビフォー>

プロジェクトデザイナー =

プロジェクトを設計し、プロジェクトを進行しながら、場合によってはプロジェクトを途中で再設計したりもしながら、プロジェクトを完成させる人

<アフター>

プロジェクトデザイナー = 

誰もがプロジェクトに挑戦しやすい環境をつくり、プロジェクトの成功を支援する人

一番の主役であるプロジェクトをやりたいと思った「オーナー」、そして、プロジェクトに協力をすることになった「メンバー」の誰もが、挑戦しやすい環境を全力でつくり、プロジェクトの成功を支援するのがプロジェクトデザイナーの仕事、という再定義です。

プロジェクトの「設計」も「進行」も、突き詰めると物の見方を左右する「環境」であるため、より抽象化したと言ってもいいかもしれません。

そして、プロジェクトに挑戦しやすい環境をつくり、プロジェクトの成功を支援する際には、以下の私のスキルを発動させながら、プロジェクトによっては「外部技術者」もアサインメントの上、進めていきます。

  • プロジェクトマネジメント
  • MVV/パーパスの開発
  • ブランドコミュニケーション戦略
  • サービスデザイン
  • コンセプトメイキング
  • ネーミング
  • プランニング
  • クリエイティブディレクション
  • コピーライティング
  • 編集
  • インタビュー調査
  • ライティング
  • チームビルディング
  • コミュニティマネジメント
  • ファシリテーション etc.

何かお手伝いできそうなプロジェクト、助けになれそうなお困りごとなどがありましたら、お気軽にご相談いただけると嬉しいです。

まずは対話するところからできればと思っています。

最後に。

時々、ビジョンじゃないミッションだ。

ミッションじゃないパーパスだ。

というような議論を見かけますが独立研究家の山口周さんも言っているとおり私も不毛な議論だなと思います。

「のようなものが大事」という整理でよく、私にはMVVがフィットしたのでそうしている感じです。

サッと定めて仕事に取り掛かり、価値を生み出す方がよほど大事。

以上、プロジェクトデザイナーとしての「MVV」を策定した、という話でした。

何かの参考になれば嬉しいです。

UnsplashKyloが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

著者:田中 新吾

プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車

「のようなものが大事」という整理、スタンスは本当に大事だなあと思います。

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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