「ネットで調べたらわかるんだから、覚える必要はない」という話はあんまり共感できない、に強く共感した。

少し前にこんな投稿を見かけまして、この言及に強く共感したので思うところを書き残しておきます。
「ネットで調べたらわかるんだから、覚える必要はない」という話はあんまり共感できない。何かアイデアを閃いたり、たとえを思いついたりするときに素材となるのは脳内にあるものなわけで、それが貧弱だと限界があるように感じてしまう。
— 倉下 忠憲 (@rashita2) March 1, 2025
この内容を受けて、皆さんにおかれましてどんなことを考えるでしょうか?
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最初にお伝えしますと、現在の自分は前述のXの投稿に強く共感するという立場をとるわけですが、実を言えば、20代の頃は「ネットで調べたらわかるんだから、覚える必要はない」という方の立場を取っていました。
記憶の容量だって限度はあるわけだし、省エネでいたいし、といった具合です。
しかし、「ネットで調べたらわかるんだから、覚える必要はない」と考えることについて、どうやらこれが一般的であることを後になって知ります。
2020年に読んだ以下の本がきっかけとなりました。
コロンビア大学の心理学者、ベッツィー・スパロウ氏によれば、「人間の脳は、友人や家族、同僚などに尋ねれば答えが分かることについては記憶しようとしない」そうです。
このような「他者の記憶に頼る方法」を心理学では、「交換記憶(Transactive Memory)」と呼ぶと書かれていました。
そして、21世紀において最も頼りにされている他者が「インターネット」です。
インターネットの発達により、現代社会では「記憶する責任を免除される機会」が増え、人間の代わりに記憶してくれる外部装置やプログラムは増える一方となりました。
今ではここにAIが加わりより免除される方向に、社会全体が大きく向かっていると言っていいでしょう。
また、本書の中で他に面白かった箇所は、人には自分自身の記憶力向上よりはむしろ「他人の記憶に残るための努力を惜しまない傾向がある」という話です。
実のところ私たちは、他人に印象を残すための努力をごく自然に行っている。
たとえば、会社員は職場に行って「よし、今日は記憶力を向上させるために30分使うぞ」とは考えない。「顧客Xを確保するためにはどうすればよいか、今日は30分使って答えを出そう」と考えるはずだ。
この場合、他人の記憶に影響をおよぼす方法について無意識に頭をひねっている。そして、過去の経験に基づいて、相手に印象を与える行動が選ばれるだろう。
この部分には頭をガツンと殴られた感じがしました。
思うに、これは「記憶したいと思う人」よりも「記憶させたいと思う人」の方が社会の中に多いということを示しているのではないでしょうか。
ここまでの話をふまえて私が一つ出した結論は、元来人は、自分自身の記憶力向上をしようとしない性質がある上に、社会自体が記憶する機会を免除する方向に進んでいるため、「記憶する価値」に気付きにくくなってしまっている、ということです。
そのため、
「記憶する努力は大学受験まで」
「覚えていなくてもGoogleで調べればいいや」
となってしまうのだろうなと。
このようにして自分が20代の頃、「ネットで調べたらわかるんだから、覚える必要はない」という立場を取っていたことに非常に納得がいきました。
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しかし今は冒頭で触れた通り、「ネットで調べたらわかるんだから、覚える必要はない」という話にはあんまり共感できない、に強く共感するわけです。
真逆の立場に変わったのは一体なぜなのか?
これには明確に影響しているものがあります。
先ほどご紹介した本よりも少し前、2019年12月に読んだ、スタジオジブリの石井朋彦さんが「思い出の修理工場」というファンタジー小説です。
石井朋彦さんは、代表取締役でプロデューサーである鈴木敏夫さんのお弟子さんにあたる方で、本ブログメディアでも何度も取り上げてきました。
上手くいかない時やスランプな時は「真似する人を探すといい」という考え方について。
ファンタジー小説を私が読むのは「ハリーポッター」ぶりだったのですが、スタジオジブリ発というので手にとってみたら、めちゃくちゃ引き込まれてしまいまして、あっという間に読んでしまいました。
ジブリ作品が好きならばきっと楽しめる内容です。
出来るかぎり多くの人に読んでほしいと心から思いました。
「思い出の修理工場」の舞台は、人々の傷ついた思い出を修理し、美しい思い出に変える工場(アシトカ工作所)です。
鈴木敏夫さんがモデルとなっている「ズッキ」というキャラクターが、主人公の少女「ピピ」に、壊れたオルゴールの部品を数え、分類して、整理する練習をさせる中で仕事のやり方を教えていくというストーリー。
革の手帳を通した、ズッキとピピのやりとりは私にとってとりわけハイライトシーンとなりました。
ようこそ、われらが工場へ。
これから毎日、その日にあったこと、おぼえたこと、考えたことを書くこと。
あとでやろうと考えてはいけない。
昼間伝えたように、人は、すぐに二割、夜には五割、翌朝には八割忘れている。忘れる前に、書いて、おぼえる。
仕事をするにあたって一番大事なことは、全てをメモにとり、頭にたたきこむこと。
大事なのは、記憶力だよ。
よろしく。
ズッキより
仕事の八割は、整理せいとんだよ。
人間は、色んなことを考える。考えることは悪いことではない。そういう風にできている。だが、大事なのはそれをどう整理するかなんだ。
よい方法を教えよう。
まず、目の前にある問題や課題を、ひとつひとつ、書きだしてみる。そのあいだは、考える必要はない。よけいな事を考えずに、ただ書く。
一度、目の前の課題を、すべて紙の上に書きだしてしまう。
次にそれらをながめて、整理する。コツは、同じようなもの同士をまとめること。
たとえば、百の課題があるとしよう。目の前に百の課題があると思うと、人は混乱する。考えが止まってしまう。
でも、注意深く見てゆくと、その中に同じような問題がふくまれているということがわかってくる。
それらを分類する。多くの場合、百の問題は、十くらいの問題になっている。多ければさらに整理してもいい。これが、整理せいとんだ。
ズッキより
本書のリリース記念イベントに参加した際に石井さんの口から直接聞いたのですが、ピピがズッキから修理工場で学んだ「記憶力」と「整理整頓」は、石井さんが鈴木さんにジブリで教えていただいたことそのものだそうです。
鈴木:『千と千尋の神隠し』の、絵コンテを全部暗記してって言ったの。台詞だけでなく、カット割りや台詞と台詞の間のト書きもすべて。
石井はそれをちゃんとやってくれたんだよね。
僕としては便利だし、助かりますよね。あの台詞なんだっけなって思ったとき、石井がそばにいて、歩く辞書のように教えてくれる。
宣伝やコピーを考えるときに、それはとても重要なんです。
「あの台詞の前後に、大事な言葉が書いてなかった?」って聞くと、覚えているわけですよ。だから、僕にとってはすごく役に立ったんです。
自分の意見ばっかりの人間よりも、物事を正確に記憶して、整理整頓できる人間のほうが、いい仕事ができるんじゃないかなぁ。
仕事で一番大事なことは、眼の前のことを「正確に記憶」して、それを「整理整頓」すること。
これを無くして先のことをやっても何にもならない。
これがスタジオジブリの鈴木敏夫流 仕事術ということです。
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「記憶」を頼りにしているのは鈴木敏夫さんだけではありません。
コロナ禍の緊急事態宣言中、UberEatsで月収100万円を成し遂げた配達員の「大村達郎さん」もそうです。
5月、緊急事態宣言中、UberEatsで月収100万円。
— TABI LABO (@tabilabo_news) July 11, 2020
そんな男にインタビュー! https://t.co/P3YHDoICxr
Ubereatsの配達員といえば「Google マップ」をじっと見て、ルートを確認しているのをコロナ禍はよくみかけたのではないでしょうか。
ところが大村さんは「Google マップ」をほとんど使いません。
バイクメッセンジャー時代の師匠にGooglemapを使うことを禁止されていたため、紙の地図を頭の中に叩き込むしかなかったというのです。
そのおかげで、東京都内の地名を言ってもらえれば、最短ルートが頭に思い浮かぶようになったのだとか。
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クックパッド コーポレートブランディング・編集担当本部長の小竹 貴子さんは、料理が得意になるコツとして一番のオススメは「好きな料理を丸暗記すること」だとい言います。
小竹さんは自分が料理をし始めたとき、栗原はるみさんの「ごちそうさまが、ききたくて。」を先頭から最後まで何回か繰り返し作り、丸暗記をしたそうです。
丸暗記をすることで、レシピを見ないで作れるようになり、早く作れ、アレンジもしやすくなる。
こうなれば、それはまごうことなく「得意なことは料理」と言える、といった理屈。
参照:クックパッド本部長が教える「今すぐ料理をうまくする」ために真っ先に買うべきモノ
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私にも思い出があります。
マーケティング会社にいた頃、お世話になっていた「顧問」は私が社内で知るかぎりもっとも「記憶に頼る人」だったと思います。
社内でミーティングするときはスマホもパソコンも持たず、クライアント先の打ち合わせでもそのスタイルは変わりませんでした。
しかし、いざミーティングとなれば、鋭いアイデアや方向性を示し、人心をよく掌握していたのです。
顧問はまさしく「記憶で仕事をする人」でした。
そして、よく本を読み、昔のこともよく覚えていたのが強く印象に残っています。
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このように「成果を出せる仕事のできる人」を並べていった時に、その方々が頼りにしているのは「自分自身の記憶である」という結論に至りました。
決して「Google」にも「メモ帳」にも頼らない。
そして、その記憶は「誤りがなく実に正確」であるということ。
しかし、一体なぜできるかぎり自分自身の頭に、眼の前にある物事を記憶をさせようとしているのか?それも、正確に。
それは今思うに、アイデアや発想が生まれるのが自分自身の「記憶」からであることをよく知っているからなのかなと。
これは再びの引用になりますが、スタジオジブリの鈴木さんと石井さんの対談にも記されていました。
石井:鈴木さんも宮崎さんも自分の記憶力を信じているから、パソコンやスマホで調べると怒るし、大事なのは記憶力だってずーっと言い続けていますよね。
鈴木:例えば映画の監督の名前が思い出せないときあるでしょ? そういうとき、みんな検索したり、Wikipediaを見るでしょ。僕は絶対にしない。時間をかけてでも思い出す。思い出すまでにどのくらい時間がかかるか、訓練している。便利になった時代だからこそ、自分の記憶をどれだけ引っ張り出せるか。それを身につけた人って強いんですよ。
石井:覚えている人は、仕事もできるし、頭の中で整理整頓できているから結論も早い。鈴木さんや宮崎さんが、僕らには予想もしないようなことを発想するのは、その場で思いついているわけじゃなくて、覚えたことをいつも整理しているから、すぐに答えにたどり着くことができるからなのだと思います。
シャワーを浴びている時、トイレで用をたそうとしている時、サウナに入っている時、何かが閃いたりアイデアが浮かんできた経験があるという人は多いのではないでしょうか。
ちなみに、私は「ランニングをしている時」にそれがよく起こります。
シャワーを浴びている時も、トイレで用をたそうとしている時も、サウナに入っている時も、スマホやPCといった「調べる」ための外部装置が手元にありません。
だから、調べる先は自分の頭の中しかない。
つまり自分の脳の中にある「記憶」を調べるわけです。
そうして調べられた記憶が、また別の調べられた記憶と結びつき、新しいアイデアとなって生まれてくる。
私たちの代わりに記憶してくれる装置があれば役に立つのも紛れもなく事実であり、テクノロジーに頼った方がいい部分も大いにあると思います。
実際、私も現在はObsidianを用いて第二の脳(セカンドブレイン)の構築に励んでいたりしますし。
でもObsidianを軸にして知的生産活動に励んでいるのも、自分の脳(ファーストブレイン)への「記憶」を増やすために取り組んでいる感覚の方が強いです。
これはここまで書いてきたような考えがあるから。
長々と書いてきてしまいましたが、以上のような考えから「ネットで調べたらわかるんだから、覚える必要はない」という話はあんまり共感できない、に強く共感した感じです。
AI時代だからこそ記憶することにこだわっていきたい、そんな思いでいます。
【著者プロフィール】
著者:田中 新吾
今回書いた内容は少し前に書いた「読書の仕方」にも関連するものです。
本が、自分を飛行機よりも遠くに運んでくれるのは「読書サマリー」を作ったときだけ。
ハグルマニ代表。お客様のビジネスやプロジェクトを推進する良き「歯車」になる。がミッション。命名創研、タスクシュート認定トレーナー、栢の木まつり実行委員会(https://kayanokimatsuri.com) 、RANGER管理人(https://ranger.blog)としても活動中。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
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