もっともレバレッジが効く投資は「自分が感動すること」への投資。
少し前に読んで「とても感動した本」の一部分をご紹介したい。
ロシアでヒグマに襲われて若くして命を落としてしまった写真家「星野道夫さん」の著書「旅をする木」の中に出てくるものである。
ある夜、友人とこんな話をしたことがある。
私たちはアラスカの氷河の上で野営をしていて、空は降るような星空だった。
オーロラを待っていたのだが、その気配はなく、雪の上に座って満天の星を眺めていた。
月も消え、暗黒の世界に信じられぬ数の星がきらめいていた。
時おり、その中を流れ星が長い線を引きながら落ちていった。
「これだけの星が毎晩東京で見られたらすごいだろうなあ……夜遅く、仕事に疲れた会社帰り、ふと見上げると、手が届きそうなところに宇宙がある。一日の終わりに、どんな奴だって、何かを考えるだろうな」
「いつか、ある人にこんなことを聞かれたことがあるんだ。たとえば、こんな星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとするだろ。もし愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんなふうに伝えるかって?」
「写真を撮るか、もし絵がうまかったらキャンバスに描いて見せるか、いややっぱり言葉で伝えたらいいのかな」
「その人はこう言ったんだ。自分が変わってゆくことだって……その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思うって」
写真でもなく、絵でもなく、言葉でもなく。
「自分が変わってゆくこと」で、愛する人に感動したことを伝える。
美味しい料理に出会った時、私たちはえてしてその感動を写真という形でインスタントに他社に伝えがちである。
自分がその料理に出会ったことで、その料理を食べたことによってどう変わったのか?はさておいて。
何かの絶景を見た時もそうだろう。
この社会の中に「自分が変わってゆくこと」で伝えようとしている人はどれほどいるのだろうか?
感動とは、心が動き、そして自分がそれに触れる前の自分から変わってゆくこと。
「感動を伝えること」に対しての本質的な捉え方を知り、私は本当に強く感動してしまった。
感動することに投資する
少し話は変わるが、私は「バリュー(大切にしている価値観、行動指針)」を策定したことをつい最近、公にした。
プロジェクトデザイナーとしての「MVV」を策定した、という話。
幾つかあるバリューの中に「感動することに投資する」というものがある。
そんな「感動することに投資する」について、前出の本を読んだことがトリガーになり私が考えていることを少し書いてみたくなった。
「感動することに投資する」とは一体どういうことか?という話である。
実はこれ、私の内から湧き上がってきた考え方ではなく、文筆家の「松浦弥太郎さん」が自著の中で推奨されていたもの。
そしてそれは、2020年3月に目を通した以下の本の中に書かれていた。
この本の中で松浦さんは「もっともレバレッジが効く投資は、自分が感動することへの投資」と述べているのだ。
本を読んで主人公に共感する。
悲しい映画を観て泣く。
好きなアーティストのライブに行って興奮する。
一流レストランで美味しい料理と一流のサービスを体験する。
旅に出て知らなかった文化に触れる。
こうして得た感動は、人に会って話をしたり、文章を書いたり、その感動を絵にしたり音楽にしたりして、誰かに伝えたくなる。
感動はこのように意欲に繋がり、何かをはじめる勇気を与えてくれる。
だからレバレッジが効くということだった。
そして、この本に触れる以前からあった私の持論「誰かにたすけられた人は、誰かをたすける人になる」と同じように、「誰かに感動させてもらったことがある人は、誰かを感動させる人になる」というようなことも書かれていた。
持論も影響したのか「感動することへ投資する」は私にとって本当にストンと腹落ちした。
それ以降この考え方を意識して、試しに動いてきたといった具合である。
例えば、本を読んだり、映画を観たり、旅をしたり、トレイルランニングをしたり、一流のサービスを受けたりというように、自分の心が動きそうな行動にお金と時間をできるかぎり使ってきている。
感動のSTAR分析
「感動することへ投資する」際には以下の本も参考にした。
ヒューマンロボットインタラクション、ハプティックインタフェース、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで幅広い研究で知られる「前野隆司さん(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授)」の著書である。
本書で「感動のSTAR分析」という分析手法が紹介されているのだ。
ざっくりと言ってしまうと「感動することには、こういう要素が含まれていますよね」というもの。
分析の切り口は4つに分類され、頭文字を並べると「STAR」になることから「STAR分析」という名が付いている。
以下がそのフレームワークである。
1. Sense(美、味、匂い、触、心地よさなど、五感を感じた感動)
2. Think(頭で考えて「知見の拡大」に感動)
3. Act(動きや変化による「体験の拡大」への感動)
4. Relate(人や物へのつながりに基づく「関係性の拡大」への感動)
そしてここ数年の間、これに基づき自分自身が感動した体験を観ていくと、確かに納得のいくところが非常に多かった。
例えば、以前私は知人の出産祝いに「イケウチオーガニック」というタオルブランドで「ベビーブランケット」を購入したことがあった。
購入後、1週間が経ったあたりにお店の人から自宅に直筆の手紙が送られてきた。
この手紙を受け取り、強く感動してしまったことを今でも私はよく覚えている。
この感動体験をSTAR分析してみると以下のようになった。
1. Sense(美、味、匂い、触、心地よさなど、五感を感じた感動)
→スタッフさんの直筆、質感のいい手紙
2. Think(頭で考えて「知見の拡大」に感動)
→直筆の手紙をいただけるなんて全く想定外だったため、お店での接客にも感動したが、想定外のところに感動させるポイントがあるのかという発見
3. Act(動きや変化による「体験の拡大」への感動)
→それまで受けたこともなかった丁寧なアフターフォロー
4. Relate(人や物へのつながりに基づく「関係性の拡大」への感動)
→お店の人との繋がり、ブランドとの繋がりによる新しい関係性の拡大の実感
SATR分析を使うとこういう整理を行うことができるのだ。
もちろん体験によってはここに収束しない要素もあるかもしれないが、私の経験則ではほとんどこれによって納得のいく分析ができている。
そして、STARは分析どころか「感動することに投資するための指針にもなる」というのが私が優れていると思う点だ。
つまり、
1.Sense→美、味、匂い、触、心地よさなど、五感を感じることに投資する
2.Think→知見が拡大するものに投資する
3.Act→体験が拡大するものに投資する
4.Relate→人や物事の関係性が拡大するものに投資する
五感を感じる、知見が拡大する、体験が拡大する、関係性が拡大する、そういうものに対してお金と時間を投資していくという考え方。
これがあるから、それ以外にはお金と時間を使わないという判断も可能になる。
2020年に出会った「感動することに投資する」という松浦さんの考え方、そして、実際に投資をしていくための指針とした「感動のSTAR分析」。
以上を意識して、ここ3年くらいの間過ごしてきており、その中で十分な手応えを感じたことからバリューの一つとしたというのが策定の背景である。
感動したことは自分が変わってゆくことで周囲に表現する
話は冒頭の星野さんの「旅をする木」ついてだ。
「本を読む」は、日常的に取れる行為であり、感動のSTAR分析の「2.Think」に該当するため、感動を得ることができる可能性の高いものと認識している。
思うに、千円前後、高いものでも2千円程度と考えれば、これほど投資対効果が高いものはそうはない。
だからこそ私は「日常的に本を読む」を習慣にしているところがある。
そうは言っても、実際のところは感動するものとそうでないものとがあり、いわゆる「アタリハズレ」はあるためその点はまさに投資的と言えるのではないだろうか。
ただ、今回の「旅する木」がそうであったように、時々「これはすごい!」という具合にとてつもない感動を与えてくれるものに出会えるから本への投資を止められない。
あらためて、私が「自分が感動すること」へ投資するのはなぜか?
それは、折角生かされているのであれば少しでも「誰かに感動を与えられる人になりたい」と思うから。
今後強く意識していきたいことは、自分が感動したことを誰かに伝えていく際には「旅する木」にあった「自分が変わってゆくこと」を軸にして周囲に対して表現するということ。
思い返せば、今までもそうしてきたところはあるが、今回星野さんの本を読み、自分の中に確かな「言語化」がなされた。
旅をする木が出版されたのは30年近く前の1995年。
その価値を知るまでに私は随分長い時間を要してしまったが、素晴らしい本に出会えて良かったと今心から思う。
UnsplashのMantas Hesthavenが撮影した写真
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車
感動を求めてはいるのですが、ユニクロの「感動パンツ」のように「ここに感動があります!」という物事に手を出すのはどうも苦手ではあります。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
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