「人は今の自分を助けてくれるものに、お金と時間を払う」という原理についての話。
新卒入社した会社がマーケティング会社だったことが影響してだとは思うが、私には「どういうものに人はお金と時間を払うのだろうか?」について考える癖がある。
なぜならば、それを知ることが必要とされる商品やサービスの開発、ひいては事業を生み出すことにつながるからだ。
ビジネスパーソンからすれば当然のことすぎる話をしているのは重々承知の上で書いている。
マーケティング会社にいた頃は、それを知るためにインタビュー調査を行ったり、インターネットによる定量調査を行いよく分析をしたりした。
並行して、自分が買った商品や時間を使ったサービスについて「なぜお金を払ったのか?」「なぜ時間を使ったのか?」ということもよく考えた。
このような行動や思考の中から見えてくるものは多々あり、それが実際に企業の商品やサービス開発の役に立ったり、人生のQOLを高めることに繋がった経験は多い。
しかし、マーケティング会社にいた頃の私はそれらを「抽象化」して分かりやすく言い表したり、誰かに上手く説明することはなかなかできないでいた。
共通しているものは間違いなくある。
でも、それが自分の力不足でなかなか抽象化できないでいたのだ。
ところが、2017年にマーケティング会社を卒業した後、私にとって遥かに大きな出会いが訪れた。
それは文筆家の松浦弥太郎さんの著書「もし僕がいま25歳なら、こんな50のやりたいことがある。」に目を通していた時だった。
人は今の自分を助けてくれる人にお金と時間を払う
早速、大きな出会いとなった該当の箇所を引用してご紹介したい。
たとえば、なんとなくコンビニエンスストアへ行くとします。
欲しいものがなくても、なにかを買おうとしている行為は、今の自分の気分です。
疲れていたり、のどが渇いていたりするような気持ちを少しでも満たしてくれるもの、すなわち助けてくれるものを探しているのです。
今日の夕飯をなににしましょう、とスーパーマーケットへ行き、野菜売り場や肉売り場でなにかを選ぶことも同じ行為で、今日の自分を助けてくれるものはなにかと思って探すわけです。
結局、人はなににお金と時間をつかうかというと、自分を助けてくれるものを探して、それにお金と時間をつかいます。
現実逃避や自己投資もそうですし、人は自分を助けてくれるものにしかお金と時間をつかいません。
人間関係にしても、自分を助けてくれる人としか、つき合いたくないのです。
自分の話を聞いてくれる人や、相づちを打ってくれる人を探しています。
だから、自分を助けてくれることやものに、人はお金をかけ時間をつかい、努力していることを知っておいてほしいと、僕は思います。
この原理を知っていれば、その時代に売れているものが、なぜ売れているのかもすぐわかります。
要点をまとめれば、
「人は今の自分を助けてくれる人にお金と時間を払う。」
ということである。
これは私にとって遥かに大きな出会いとなった。
この言語化は思うに、真に慧眼である。
私がマーケティング会社に在籍している間に、あーでもないこーでもないと試行錯誤を行いながらしてきた経験が見事に抽象化され、他者の言葉による経験だが、明確に考えが編み上げられた瞬間だった。
松浦さんが述べているように、確かにこの原理を知っていれば、なぜその商品は売れているのか、なぜ自分はそのサービスにお金を払っているのかがよくわかってくる。
一方、ビジネスの基本は「困っている人」の課題を解決することでお金になる、という人もいる。
これも確かにその通りで、同じ原理の言い換えと言えるだろう。
しかし、微妙なニュアンスだが、個人的には「人は今の自分を助けてくれる人にお金と時間を払う。」という松浦さんの表現の方が、しっくりくるところがある。
実際に原理を使って売れている商品を見てみる
試しに、昨年2022年にヒットした商品を幾つか見てみたい。
【1位】Yakult1000/Y1000
睡眠改善をうたう新乳酸菌飲料が社会現象にまでなった商品だ。
「悪夢を見る」との噂拡散で争奪戦まで勃発するほど。
腸内環境を改善し、ストレスを緩和し、睡眠状況まで改善してくれる。
ここまで「今の自分を助けてくれる」に合致した商品はなかなかない。
だからこそ爆発的に売れたのだ。
【3位】PCM冷却ネックリング
24~28度で凍る新冷感グッズ。
「行動制限なし」の夏のお守りとして一気にブレイク。
昨年夏より「災害級の暑さ」「酷暑」などが頻繁に使われるようになり、これもまさに「今の自分を助けてくれる」商品である。
最近では、国連事務局総長が、地球温暖化の時代は終わり、これからは地球沸騰化の時代に入ったと発表した。
今後も夏場の冷感グッズは「今の自分を助けてくれる」モノとして売れ続けていくのだろう。
【5位】完全メシ
ジャンクな装いの「バランス栄養食品」が計400万食も売れたという。
ターゲットは「意識高くない」30~40代男性。
「仕事も忙しいし栄養バランスを考えるのは面倒くさい。でも身体のために栄養バランスにいい食生活をしたい。誰か今の自分を助けて欲しい。」
こんなニーズを見事に喰った商品だから売れに売れたのだ。
参照:2022年ヒット商品ランキング 日経トレンディが選んだベスト30
このように、誰のどんな部分を助けているのか?は商品やサービス毎に当然異なるが、抽象化していくと、いずれも「人は今の自分を助けてくれる人にお金と時間を払う。」という原理に則っていることが分かってくる。
そして、直近の自分自身の購買行動にこの原理を当てはめてみても、その威力を強く感じるのだ。
例えば、「モンベルの日傘」も「アルトラの普段履きシューズ」も「定期的に通うお好み焼き屋」も。
いずれも「今の自分を助けてくれそう→だから買った」と説明ができてしまう。
生きていると「突然視界が開けること」が時々あるのだが、この言葉との出会いはまさしくその一つだと断言していい。
誰かの今の助けにならないものに、お金と時間が払われることはない
以上のように「人は今の自分を助けてくれる人にお金と時間を払う」という原理は、世の中や自らの購買行動の理由を突き止めていくのに大変有効な考え方だ。
私一人ではこの抽象化の境地に辿り着くことはなかったため、松浦さんには本当に感謝しかない。
そして、この原理は同時にもう一つ重要なことを私たちに教えてくれる。
「誰かの今の助けにならないものに、お金と時間が払われることはない」というものだ。
これも当然ちゃ当然のことなのだが、私の観測範囲では「売れない商品やサービス」というのはこの視点がどうも抜け落ちている。
ただの「石ころ」のままでは、誰の今の助けにもならない。
これが売れない商品。
しかし、そんな石ころも「漬物石」にもなればどうだろうか?
「筋力トレ道具」として見ればどうだろうか?
「庭石」になる場合もあるし、「オブジェ」あるいは「インテリア」にだって場合もある。
「石ころ」も見方を変えれば、誰かの今を助けるものになるかもしれない。
思うに、こうやって誰に対して、どんな価値を見出してもらえるのかを粘り強く考えていったものが、その結果として売れる商品になっていく。
であるから、もしも今「売れない商品やサービス」があった時、それを「売れない」と見切りをつけるのはまだ早いのかもしれない。
「その商品やサービスは、どんな人の、どういう部分を助けているのですか?」
この問いは、商品やサービスを開発したり事業運営をする身としては、常に頭に留めておきたい。
強く自戒を込めて。
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスクと時間を同時に管理するメソッド)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|座右の銘は積極的歯車。|ProjectSAU(@projectsau)オーナー。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
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