田中 新吾

「部下を詰める」という指導方法は、上司の仕事ではない、という話。

タナカ シンゴ

先日「Zoomで上司に詰められた」という話を耳にした。

「なるほど、今はZoomで部下を詰めてしまうのか」

そう思った私は、他にも同じような事例があるのかどうかTwitterで検索をかけてみた。

すると。結構いて驚いた。

確かに「Zoomで上司に詰められた」と声をあげている人達がいる。

「Zoomの画面上で上司から詰められる」など想像しただけでもツライ、キツイ、そしてカナシイ。

外出制限で、ただでさえ「シャバのうまい空気がたくさん吸いてえ」となっているのに、「誰かと話すのはZoomで詰められる時だけ」ときたら、生きた心地がするわけない。

私に関して言えば、

そのような関係性が生じる環境から離れて久しく、今はもう耐性ゼロのため喰らったらおそらく一発ノックアウトだろう。

即座に転職を考えそうである。

誰もが、怒られたくないし、怒りたくもないはずだ。

それなのになぜ「詰める」ことをしてしまうのか。

今まで詰めて指導した部下の育成が「上手くいった」という成功体験がある。

昔、自分が詰められて指導されたため、それ以外の指導方法を持っていない。

詰めることが会社文化として恒常化している。

など「部下を詰める」の背景にはきっと色々な理由があるのだろう。

でも私の経験則でいけば、

「部下を詰める」という指導方法は、上司の仕事ではない。

もしそれが仕事だと思っているとしたら、管理職としては残念ながら未熟だ。

ツメル、ダメ、ゼッタイ。

では、上司の仕事といえる指導方法とはいったいどんなものなのか?

結論から言ってしまおう。

それは思うに、

自分の経験を理屈に変えて、部下に教える

そして、

経験と理屈を往復させながら、部下のレベルアップに努めること

である。

どんなに経験豊富でスキルがあって仕事ができる人だとしても、このような指導ができないのであれば管理職としては無能だと言わざるを得ない。

この考え方は以下の記事に詳しく、部下を持つものは皆読むべき内容だと私は思う。

以前読んだ時私は「そうそう!」と思わず膝を叩いた。

参考:「背中を見ろ」ではなく、「経験を理屈に変換して部下に教える」までが、上司の役割。

管理職がやらなければならないのは、

1.自分の経験を理屈にして部下に教える

2.部下はその理屈を基に仕事の経験を積む

3.更に、部下はそれを自分の中で再度理屈にする

4.部下が構築した理屈を、上司にフィードバックする

5.上司は部下から受けたフィードバックを基に、理屈を改良する

というプロセスを会社の中で作らなければならない。

見ての通り、「部下を詰めること」などどこにも書かれていない。

上司の指導方法がある時から様変わりした

私の中の教訓となっている思い出話を少ししたい。

もう10年くらいも前のことだ。

私が以前勤めていた会社にも、「部下を詰める上司(や先輩)」は存在していた。

そして、かくいう私自身も詰められた経験はある。

でも、私のそれなんぞは本当に可愛いものだった。

なぜなら、遥かにキツく詰められる「激詰」も散見されたからだ。

報告や成果物に対して執拗に「なんで?」と問い詰められたり、「何でできないの?」「なんでやってないの?」「普通○○するよね?」といった具合に他の社員がいる前で責め続けられる、などである。

あるとき。

上司からの激詰めに耐えかねたある部下が、「詰められるのこれ以上無理なんで会社辞めます」と言い出した。

過去の成功体験があり、おそらくその上司もまさか「退職」というカードを切ってくるなんて思っていなかったのだろう。

後に聞いた話、喫驚したそうだ。

その上司は「部下を詰める」ことを止めた。

そして、部下が「何に困っているのか」を木目細に聞くようになり、上司の指導方法はすっかり様変わりした。

そこから二人の間で行われていったことはまさに、経験と理屈の往復。

上司がこれまでしてきた経験を、部下の困りごとに合わせて理屈に変え、それを部下が実践し、やってみてどうだったのか逐一報告をする。

報告を受けた上司はさらに改良された案を部下に教え、それにしたがって部下は仕事を進める。

これを淡々と行っていた。

それから約1年後。

その部下は社内インセンティブを総取りするほどの成果を残すまでに急成長し、信頼されるチームの中核的ポジションにまでなった。

当時の私は入社2〜3年目、それがあまりにセンセーショナルでこの出来事は強く脳裏に焼きついた。

そして、後に自分が管理職になり部下を持つようになったとき、ようやく実感とともに分かってきた。

「部下を詰める」という指導方法は、上司の仕事ではない。

上司の仕事といえる指導方法は、

自分の経験を理屈に変えて、部下に教える

そして、

経験と理屈を往復させながら、部下のレベルアップを努めること」だと。

「人を動かすスキル」が身についていないから、「詰める」という指導しかできない

先に挙げたように「部下を詰める」にはいくつかの理由が考えられる。

・今まで詰めて指導した部下の育成が「上手くいった」という成功体験がある。

・昔、自分が詰められて指導されたため、それ以外の指導方法を持っていない。

・詰めることが会社文化として恒常化している。

いずれも理由としてはまあ分かる。

だが、個人的に思うに、そもそも上司の方に「人を動かすスキル」が身についていない可能性も非常に大きい。

つまり、

「人を動かすスキル」が身についていないから、「詰める」という指導しかできない、ということである。

例えば。

スタンフォード大学経営学部教授で、組織行動学者であるチップ・ハースは、著書「スイッチ!」の中で、動かない人を動かすために「3つの解決策」を提示している。

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1.抵抗しているように見えても、実は戸惑っている場合が多い。したがって、とびきり明確な指示を与えよう。

2.怠けているように見えても、実は疲れきっている場合が多い。

3.人間の問題に見えても、実は環境の問題であることが多い。

どの解決策にしても、私にとっては人に動いてもらうための大事な知見となっている。

昔、知り合いの経営者の方から偶然勧められたものだが、その時すぐに買って読んでおいて本当によかった。

品質管理のためには、とびきり明確な指示がなければいけない

トヨタ自動車の

品質は上流工程である設計によって作り込む

検査では品質は向上しない

という品質管理のコンセプトは有名な話だが、これも人に動いてもらう上で大変重要な知見だと私はとらえている。

つまり、

「これやっといて」

「あれやっといて」

「よろしく」


みたいな雑な仕事の依頼では、相手に動いてもらえず、自分が望む品質のものは一向に出てこないということだ。

チップハース教授が示しているとおり、品質管理のためには、とびきり明確な指示がなければいけない

出てきた成果物に後から「あーだこーだ」とガミガミ言いつける人を私は今まで何十人も見てきたが、そういう人は発注者として今一度「品質管理とは何か」を学び直す必要があるだろう。

思うに、「部下を詰める」という指導をしてしまうのは、その上司の「指示そのものがダメ」なことだって往々にしてある。

ここで仕事内容やコミュケーションの仕方など、働き方が大きく変わった会社も多いことだろう。

しかし、おそらく「相手は人」という原則は変わっていない。

そして、「上司の仕事」といえる指導方法も、昔も今もそう大きくは変わらないはずだ。

ツメル、ダメ、ゼッタイ。

少なくとも私はそう思う。

Photo by Dmitry Vechorko on Unsplash

【著者プロフィール】

田中 新吾

今推しの漫画は、ジャンププラスで連載中の「ダンダダン」。

「ターボババア」という現代妖怪に心とアソコを奪われそうです。

プロジェクトデザイナー/企業、自治体のプロジェクトサクセスを支援しています/ブログメディア(http://ranger.blog)の運営者/過去の知識、経験、価値観などが蓄積された考え方や、ある状況に対して考え方を使って辿りついた自分なりの答えを発信/個人のプロジェクトもNEWD(http://ranger.blog/newd/)で支援

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