田中 新吾

これからの時代に、真に関係性をつくるのは「オンラインセンス」という話。

タナカ シンゴ

「ウィズコロナ社会」の生活に頭と身体が適応してきた。

これほど強く「人間は環境適応動物である」こと実感している感覚は久しい。

商談やミーティングはオンライン、日常的なコミュニケーション、セミナーやイベントの開催や、参加に関してもほぼオンラインだ。

社会文化や企業文化がこれからはオンラインで形成されていく兆候も毎日のように目耳にはいってくる。

社会人がもう一度大学に入り直したり、大学院に進学したりして働きながら学びを深めることがやりやすくなるのも間違いないだろう。

緊急事態宣言が開けてしばらく経ったが、今になってようやく「社会は変わってしまった」という実感も湧いてきた。

この変化は不可逆で「もうもとには戻らない」という実感もある。

人と人、人と企業、人と商品との「出会い」の中心が「オンライン」になれば、それらの「関係性」がつくられる場所もそこになる。

これに乗じて、「オンラインマナー」を語る専門家がぞろぞろと現れたが、同意ではなく「非同意で山ほど拡散されている」のを見ると、マナーが真に関係性をつくるものとは思いにくい。

たしかに最低限の「オンラインマナー」は必要だ。

しかし思うに、真に関係性をつくるのは「オンラインマナー」ではない。

それは、オンライン上の「選択」に発露する「オンラインセンス」がつくる。

そしてこのセンスは、オンライン化が進めば進むほど「より問われる」ことになるだろう。

センスは「知識」によってつくられ、あらゆる「選択」に発露する

クリエイティブディレクターの水野学さんの意見のとおり、センスは「知識」によってつくられている

たとえば、パッと見ただけでセンスのいい家具を選べる人は、おそらくインテリア雑誌の100冊や200冊には軽く目を通しているという具合だ。

だから、センスは研鑽によって誰でも手にできる能力であって、決して生まれつきの才能ではない。

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そして、センスは「選択」に発露する。

たとえば、「福澤諭吉」について三人の人が肯定的な評価をした場合。

「福澤諭吉ってスゴいよね」と言う、Aさん。

「福澤諭吉って慶應義塾大学をつくった人で、スゴいよね」と言う、Bさん。

「福澤諭吉は「日本を変えてやる」と中岡慎太郎たちが騒いでいた頃、「次の時代には学問というものが必要になるだろう」と考えて慶應義塾大学をつくったところがスゴいよね」と言う、Cさん。

三人の「意見」は同一だ。

しかし、表現の「選択」が違う。

そして、この「選択」こそがそれぞれの「センス」を現している

他にも、

ファッションセンスは服の「選択」。

サッカーやバスケットボールにおけるパスセンスはパスの「選択」。

自分の意見を伝える場合、他の誰かの発言を「引用」する場合があるが、引用とはまさに「選択」である。

つまり、引用には「センス」が発露しているのだ。

このように、センスはあらゆる「選択」に発露する。

そしてそれは「知識」に基づいて、つくられている。

ここに「生まれもった」という話は関係がなく、何かを選択した時点でその人のセンスは発露していて、基本的に隠しようはない

「センスがいい」は、自分にはできない「選択」で、自分を感動させてくれる人に対しての感情

では「センスがいい」と感じるあれはなんなのか。

試しに、私が個人的に「センスがいい」と感じるものをいくつか挙げてみる。

私は「Books&Apps」というメディアが好きなのだが、その理由は「センスのいい」ライターさんが多いからだ。

例えば、管理人で執筆者の「安達裕哉さん」。

安達さんの書かれる文章は、テーマ設定、論旨、語彙のチョイス、引用など、どれをとっても「センスがいい」。

もしかしたら「貴族」というと、既得権にあぐらをかいている、高慢な人物イメージを持つ人も多いかもしれない。

参照:私が出会った「貴族的な人々」について。

この部分の補足に「銀河英雄伝説」の一コマを引用していたが、こういう「選択」が私にとってはたまらなく刺さる。

(出典:銀河英雄伝説 5巻)

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また、「しんざきさん」も「センスがいい」。

武具作成の必須要素なんてなーーーんもない。

ガンスルーしても本当に何の不都合もないんです。

わざわざ、強力な武具を作った人の為に「ヘルモード」とか「ノーフューチャーモード」とかの高難易度モードが用意されているくらいです。このゲームバランス作った人本当に頭おかしい(褒め言葉)。

けど。けどですね、

武具作成、めっっっっっっっっっっっっちゃくちゃ楽しかったんですよ。

本当に数十時間つぎ込んじゃったんです、当時。

参照:物凄いリソースを振られていて恐ろしく深いのにクリアする上では本当に一切手出し不要という、聖剣伝説LOMの武具作成システムについて全人類に語り継ぎたい

2020年にもなって、「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」に出会うとは思ってもいなかった。

「LEGEND OF MANA」が発売したのは1999年だ。当時欲しくてもお金がなくて買えなかったタイトルだからよく覚えている。

それを今これだけいみじくも鮮明に、記憶をかけるしんざきさんはガチですごい。感動した。

LOMはやっぱりやってみたい。そう思わせてくれた記事だ。

医者である高須賀さんの記事も毎度刺さる。やはり卓越したセンスの持ち主だ。

今回の新型コロナウイルス問題もそうである。

この問題を解決するのは、わかりやすいヒーローや勇者のような英雄的存在ではない。

全国の医療スタッフは当然として、わたしたちひとりひとりの草の根の民の努力が、こいつには1番効くのである。

ひょっとしたら気がついてないかもしれないけど、私達はみな1人のコロナウイルススレイヤーである。

しばらくは根拠のない不安に襲われるかもしれないが、世界はいままでも、そしてずっとこれからも今より良くなり続けている。

がんばっていきましょう。

参照:医者の僕でも、コロナウイルスをナメていたが、間違っていた。

新型コロナの感染者数が右肩上がりに増えはじめた3月初旬に、新型コロナウィルスと、蝸牛くも先生が書かれた漫画「ゴブリンスレイヤー」のあいだに「類似性という選択」を見出し、これからの暮らしに勇気を与えてくれた。

この記事は大きなバズを起こし、多くの人に読まれている。

直近だと、こちらも「センスがいい」。

自分の好きな二つのブランドが夢のようなコラボレーションをした。

2019年3月に考案された企画らしいが、時間をかけて生み出した「選択」がゆえセンスが爆発している。

そして、この爆発に巻き込まれている人はやはり多い。

それから、最近石見銀山大森町の松場忠さんから一冊の本をオススメしてもらった。

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暮らしと風土が生んだ建築家なしの庶民の遺産を「世間遺産」と称し、写真とキャプションによって紹介されている写真集なのだが、この本をオススメとして選択する松場さんは、最高に「センスがいい」と感じた。

いずれにしても、今の自分には取ることができない「選択」だ。

そして私は、その「選択」によって発露した「センス」に心を動かされた。

思うに、「センスがいい」とは、自分にはできない「選択」で、自分を「感動させてくれる人や物事」に対して抱く感情のことなのだ。

オンラインセンスが「関係性」をつくる

そして、「センスがいい」と感じる人や物事に対して、「関係性をつくりたい」という「欲求」は生まれる。

不思議と関わっていたくなるから面白い。

実際、私は「Books&Apps」には毎日のように訪問をしており、IKEUCHIORGANICのTwitterやオウンドメディア、松場忠さんのTwitterも頻繁にチェックしている。

つまり、「センス」によって「関係性」が生まれているのだ。

ウィズコロナでも、オンライン上にセンスを発露させ新しい関係性や深い関係性をつくり出している人や物事は結構多い。

例えば、

私は自分でも「Podcast」をやるくらいPodcastが好きなのだが、最近ウルトラ刺さっている番組がある。

「新型オトナウィルス」だ。

2020年の3月にスタートした比較的新しいPodcastなのだが、この番組に対して「センスがいい」と感じているのは私だけではない。

2020年7月末時点で、Anchorでの再生回数は10,000回を突破し、Podcastのレビューも増殖している。

二人のパーソナリティーの「選択」によって発露する様々なセンスが、リピーターをつくり、新規感染者(リスナー)を順調に増やしているのだ。

「クマレル」も、その「センス」が多くの関係性をつくり出している。

サービスはまだアルファ版だが、2020年8月頭時点で、クマさんと呼ばれる聞き手は「800名」以上が登録されており、話し手としての利用者も急増しているそうだ。

話し手によっては5回も6回も使っていると聞いた。

クマレルはコンセプトの「センス」がとにかくいい。

そして、「1対1」のオンラインコミュニケーションでも、「センス」が関係性をつくる。

自分の一挙手一投足のあらゆる選択に「センス」は発露し、相手はそれを見てセンスの良し悪しを確かめているのだ。

時間の使い方、言葉の使い方、話の聴き方、話の仕方、あらゆるところにセンスは漏れ出ている。些細なチャットでのコミュニケーションも例外ない。

参照:リモートワークで、「コミュニケーションの生産性」を上げるための「5つの方法論」。

厳しい話かもしれないが、それが「なんか微妙だな」と思われてしまったら、「また話をしたい」「また会いたい」とはなりにくい。

つまり、これからの時代に真に関係性をつくるために考えなければいけないことは、人も企業も商品もほかならない「オンラインにおけるあらゆるセンス」なのだ。

最近私はそれを「オンラインセンス」と呼んでいる。

繰り返しになるが、オンライン上で真に関係性をつくるのは「オンラインマナー」ではない。

それは一挙手一投足の「選択」に発露する、「オンラインセンス」がつくる。

所詮、「マナー」とは発露した「センス」の一部にすぎない。

そして、「センスがいい」と感じてもらうための方法はいたってシンプルだ。

知識」を備えてそれに基づき、そのときそのとき自らが最適だと考える「選択」をしていくのみである。

Photo by Chris Montgomery on Unsplash

【著者プロフィール】

田中 新吾

プロジェクトデザイナー/企業、自治体のプロジェクトサクセスを支援しています/ブログメディア(http://ranger.blog)の運営者/過去の知識、経験、価値観などが蓄積された考え方や、ある状況に対して考え方を使って辿りついた自分なりの答えを発信/個人のプロジェクトもNEWD(http://ranger.blog/newd/)で支援

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