田中 新吾

「完璧主義」はかえってパフォーマンスを悪化させる。

タナカ シンゴ

「オルソソムニア」この言葉をご存知の方はこの記事を書いている時点でどのくらいいるのでしょうか?

私がこの言葉を知ったのは今年の5月になります。

比較的新しい言葉であるから初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか?

この言葉を提唱した科学論文の筆頭著者である臨床心理学者のケリー・グレイザー・バロン博士によれば、オルソソムニアとは、

単純明快な数値データを見ることで「完璧な」睡眠をとらなければならないというプレッシャーを自分に課してしまい「十分な」睡眠すらとれなくなってしまう状況のこと。

要するならば、テクノロジーがもたらした現代病と言えるでしょう。

「人々は睡眠データに夢中になったり、睡眠に完璧さを求めるあまり、それが原因で眠れなくなってしまっています」

睡眠トラッキング機能を備えた人気のスマートリング、Oura RingのメーカーであるOura(オーラ)の上級副社長兼サイエンス責任者シャマル・パテル博士はこのように述べています。

特に「不安症」や「完璧主義」に陥りやすい人ほど顕著なのだとか。

参照:“完璧な睡眠”へのこだわりが不眠を悪化させる?「オルソソムニア」とは何か

私はこの言葉を知った時「なるほど!」と納得したのと同時に、「そういえば!」と、SNSで知り合って以前Zoomでお話しした人の話を思い出しました。

その人はまさに、睡眠トラッキングアプリを毎晩使用し、毎朝そのデータを細かくチェックしていました。

彼はいつも、最適な睡眠を追求し、心拍数や深い眠りの時間、起床時のスコアなど、すべての数値に一喜一憂していたのです。

ところが、次第に彼の睡眠の質は逆に悪化。

「昨晩は深い眠りが少なかった」「睡眠スコアが低い」といったデータに囚われ、ベッドに入る前から「今日こそは完璧な眠りを、いい眠りを」と考えるあまり、かえって眠れなくなることが増えていったという話でした。

今思えば、その人はまさに「オルソソムニア」だったのです。

いくつかの研究によればこのような状況は決して珍しいものではありません。

多くの人々が睡眠データを重視しすぎるあまり、そのデータに縛られ、プレッシャーを感じることでかえって不眠症状を悪化させてしまっているようなのです。

「良い睡眠を得るためには、データを気にしすぎず、自分の身体の自然なリズムを尊重することが大切です」

と研究者たちは言います。

確かにデータは有益なのかもしれません。

しかしそれが生活の中心になると逆効果になりかねないということですね。

では、どうすればよいのでしょうか?

ここからは私見も踏まえてにはなりますが、まずはデータは補助的なツールとして捉え、完璧を追求するのではなく「十分な睡眠」を目指すことが大切なのではないでしょうか。

そして、寝る前のリラックスした時間を大切にし、過度なプレッシャーをかけずに自然な眠りに身を任せること。

私自身、スマートウォッチで睡眠時間を計測し続けている一人なのですが、そこに蓄積されたデータで一喜一憂することはまずありません。

どうして一喜一憂しないのか?

自分のことはよくは分からないのですが、あくまでも記録されたデータは参考程度として、完璧な睡眠は求めておらず、十分な睡眠を求めているからなのでは?と考えたりしています。

そのため、その人には、まずはデバイスを一時的に手放すなどして、自分自身の自然なリズムに戻ることから着手したらどうだろうかと勧めました。

データに一喜一憂することなく、自分の体調や感覚に耳を傾けることが、真の意味での良質な睡眠につながるという確信があるからです。

たしかに現代のテクノロジーは私たちに多くの利便性をもたらしてくれています。

しかし、それに振り回されることなく、バランスを保ちながら利用することが大切だと改めて感じることができた経験でした。

これは最近行われた「タスクシュートジャーニー6th」というオンラインのイベントで聞いた話なのですが、人間の脳は、

「できていること」よりも「できていないこと」

「足りていること」よりも「不足していること」

「達成できたこと」よりも「達成できなかったこと」に自然と目が向くようにできているそうです。

心理学では「ツァイガルニク効果」という名がついていることも知り、以前、以下のような記事を書いたことがあったのですが、これも「ツァイガルニク効果」で説明がつくとイベントの最中に確信を得ました。

参照:人間には「枠があったら埋めたくなる」という変な習性が備わっている。

「完璧主義」というのは極端にこの「ツァイガルニク効果」が働いている状態と言い換えることができそうです。

睡眠のエピソードの通り、完璧主義はむしろパフォーマンスを下げてしまいます。

そして、よくよく考えれば、完璧主義によるこの現象は何も睡眠だけに限らないはず。

思うに、あらゆる場面において「完璧でなければいけない」という思い込みはプレッシャーになり、それによってパフォーマンスを下げてしまうということ。

脳がそうなっているのだから、つい完璧を追い求めてしまいがちですが、主観的な満足や十分、自分の感覚に目を向ける態度が今まさに重要なのではと思います。

UnsplashDan Goldが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

著者:田中 新吾

プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|プロジェクトデザイナー|タスクシュート認定トレーナー|WebメディアRANGER(https://ranger.blog)管理人|ネーミングの仕事も大好物|白湯の魅力や面白さをお伝えする活動もしています(@projectsau

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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