田中 新吾

「一日を短く感じてしまう」といった悩みを知人から聞いた時の話。

タナカ シンゴ

少し前に「一日を短く感じてしまう」といった悩みを知人から聞いた。

これ、大人であれば誰もが少なくとも一度は抱いたことのある感覚ではないだろうか。

私の経験について言えば、この感覚を抱いた回数は両手がいくつあっても足りない。

時間という希少資源を無駄遣いしているような感覚が訪れ、虚しい気持ちになった経験は結構ある。

そしてだからこそ強く共感することができる悩みでもあった。

この悩み相談に対しての私の意見は大きく三つ。

・心的時間は「出来事の数」によって変わる

・短く感じるのは「同じ」にする力によって出来事の細かい部分を追わなくなるから

・「違う」が働くように感覚を養い、ディティールに注目し出来事を増やす

現時点においてはこの三つの考え方があるおかげで、昔ほど虚しい気持ちになることはなくなった(それでももちろんゼロにはならない)。

知人をきっかけにあらためて考える良い機会となったのでここに備忘も兼ねて示しておこうと思う。

人間の心的時間は「出来事の数」によって変わる

ではまず最初にこちらの映像をみていただきたい。

二つの映像があったと思うがどちらの映像の方を「長く感じた」だろうか?

おそらく長く感じたのは二番目の「ドリブルを沢山している方」ではなかっただろうか。

でも実はこれ、どちらも映像の時間は同じく4秒間。

なのに何故か二番目の方が長く感じるという不思議な現象に包まれるのだ。

そんな本現象について「時間学」の研究者である一川誠(いちかわまこと)先生は以下のように述べている。

人間の心的時間は「出来事の数」によって変わる。

参照記事:土日の体感時間を“1週間”に延ばせる!? 目からウロコの「時間の長さコントロール法」

例えば、先ほどの映像でいけば、

一つ目の映像はドリブル1回だから「出来事」は1回。

二つ目の映像はドリブルが何回もあるから「出来事」は複数回。

そして、知覚できる出来事が多いから二つ目の映像の方を長く感じるということである。

いかがだろうか?

この知見を知ったのは2018年に遡るが当時の感覚は今でも鮮明に覚えている。

私にとっては極めて納得の行くものだったからである。

それまでの人生でなんとなく疑問に思っていたことが見事に氷解した瞬間となった。

昨年盛り上がったサッカーカタールW杯でも、日本代表戦のたった数分のロスタイムがとんでもなく長く感じたのもその短い時間に様々な出来事が起こっていたからなのだ。

短く感じるのは「同じ」にする力によって出来事の細かい部分を追わなくなるから

そして「ではなぜ一日を短く感じてしまうのか?」という話に移りたい。

一川先生によると「大人になると複数の出来事をまとまった一つの時間として捉えるようになるから」ということ。

これは一体どういうことなのか?

例えば「食事をする」という時間があったとする。

小さい子供の頃というのは、食事一つするにしても、スパゲティを結んでみたり、牛乳をこぼしたり、嫌いなピーマンを見つけては取り除いたり、といった一つの食事の中に出来事が色々とある。

そして子供はそれをしっかりと知覚していく。

これに対して、大人になっていくにつれ、そのような細かい出来事を追わなくなり「食事をした」であるとか「毎日している同じ食事をした」というように一つの出来事にまとめられていくというのだ。

毎日がルーティン化し、出来事の細かい部分を追わなくなり、昨日の食事も今日の食事も「同じ食事」と認識してしまう。

これは養老孟司さんが仰っている「感覚」と「意識」の話にもリンクする。

曰く、人間の脳には「感覚」と「意識」という二つの能力が備わっている。

感覚は「違い」を捉え、意識には「同じ」にしていく力があり、意識があるのは動物の中では恐らく人間だけだという。

例えば、二つのりんごがあった時それをどちらも同じ「りんご」だと人間は捉えられる。

「意識」は人間が人間社会を生きていくために発達させたものでそれによって、交換を生み、お金を生み、相手の立場を考えられるようになった。

そんな「意識」の特徴は、とにかく「同じ」を求め、「同じ」を作りたがるというもの。

そのため、現代の世界、特に都市というのは人間の「意識」によって作られた「同じ」に溢れ、そこに居れば「同じ」がどんどん入力されてくる。

こういう世界に入り浸っている時間が長くなると、逆に「感覚」の方が衰え「違い」が捉えられなくなっていく、という話である。

思うに「大人になると複数の出来事をまとまった一つの時間として捉えるようになる」はまさにこの「意識」による「同じ」にしていく力がバッチリ働いてしまっている状況。

つまり、人間の脳はその持っている能力上、工夫をしなければほぼ勝手に「一日を短く感じるようにしてしまう」と言っていいのではないだろうか。

少なくとも今の私にはそう思えてならない。

「違う」が働くように感覚を養い、ディティールに注目し出来事を増やす

以上のことをふまえ、ではどうすれば心的時間を長くすることができるのか?

どうすれば一日を短く感じずにいられるのか?という話である。

時間学の一川先生は以下のような具体的なHOWを提示されていた。

・朝早く起きて活動する

→心的時間は代謝の高い・低いとも関係があり、早起きした方が代謝の上がっている時間を長めにキープできる

・ダラダラとネットサーフィンをするのをやめる

→ネットサーフィンは何かを探していることが多く、画面に集中して同じ作業をずっとしていることになるので時間を短くする傾向がある

・動画などを倍速で視聴する

→倍速にすることで同じ時間でもたくさんの出来事が詰め込まれる

・狭い空間や暗い空間にできる限り身を置かない

→カラオケのような狭くて暗い空間は時間が早く過ぎると考えられている、子供の体感時間の進みが緩やかなのは子供の身体が小さいので空間を広いと認識するため

いずれのHOWも私には経験とも照合して納得がいった。

しかし、もっとも本質的で有効性を感じたHOWは「細かいところに気づき感じることができる出来事を増やす」というもの。

「出来事を増やす」と聞くと、サッカーをやって、バスケをやって、Netflixを観て、夕食を作って、といったようにとにかく様々なことをやるイメージを持つ人は多いかもしれない。

確かにこれでも出来事は増えていくのだろう。

ところが、食事や移動などそういった出来事の「ディティールに注目する」ことでも「体験する出来事」は増えると一川先生は述べている。

そして、一つの出来事の中のディティールに注目するためには、注目するための準備が必要ということを強調している。

例えば、テニスをして時間を過ごすならば、あらかじめプレイするイメージをしておいて、プレイ中に自分はどういうところが上手くなっているのか、相手はどういう風に工夫してきているのか、相手のコンディションはどうなのか、など。

こういう準備をしておくことで、いざテニスをやり始めた時にディティールに注目ができ、体験する出来事を増やせるというのだ。

言い換えれば「視点を増やしておく」となるであろうし、思うに頭でイメージする以外にも本を読んだり、誰かから視点を教えをもらうことでもこういう準備はできる。

ここでも養老先生の話も交えて考えると、おそらく「違い」を捉える「感覚」というセンサーが鈍感であるとディティールに注目すること自体がきっと億劫になってしまう。

したがって、より根本的には「感覚」を養うということが日常的な訓練として必要なのだろう。

具体的には「自然」や「子供(自然)」と触れ合い、折り合いをつけていくといった「意識(同じ)」ではなく「感覚(違い)」を養うムーブだ。

先日、久々に20人規模の飲み会に参加することがあった。

元々大人数で飲むのをあんまり好むタイプではないのと、コロナ禍も挟まってそれはもう4年ぶりくらいのことだった。

3時間以上、様々な人と飲み食い話し、といった時間が続いたわけだが、とにもかくにも心的時間が長かった。

「え、まだこんな時間なの?」という具合に。

ここでもあらためて人間の心的時間には「出来事の数」が重要なことを改めて感じた次第である。

「時間は希少資源」はどこまで行ってもおそらく普遍。

そんな時間を長く感じるための考え方および具体的な方策として何かの参考になれば嬉しい。

UnsplashMalvestidaが撮影した写真

【著者プロフィール】

田中 新吾

一川先生の話を知った時の大きな気づきは、時間は「どう使うか」だけじゃなく「どう感じるか」という視点もあった方がQOLは上がるんだろうなあというものでした。

プロジェクト推進支援のハグルマニ代表。プロジェクトデザイナー。タスクシュート認定トレーナー。X・note ではプロジェクトの推進に役立つコンテンツを発信。Webメディア(http://ranger.blog)管理人・ライター。一般社団法人の代表もしています。

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