田中 新吾

「やる気」について、把握していることをざっくりまとめておいた。

タナカ シンゴ

少し前に、私が運営しているポッドキャスト番組の一つである「不老長寿ラジオ」の中で「長寿を作るのは自分自身」といった話をした。(*1)

長寿を自ら作るために効果が確認されている手段を参考文献をたよりにご紹介しているのだが、その中に「普段眠っている長寿遺伝子を目覚めさせる」というものがあった。

これまでの研究で人間は長寿遺伝子を複数持っていることが分かっており、中でも注目を浴びているのが皮膚のシワや腰の曲がり、見た目の老化と関係の深いもの。

簡単に考えれば、この遺伝子が活発に動けば若さを維持できるということになる。

ところが、皮肉なことにこの遺伝子、普段は眠ってしまっているというのだ。

つまり、こちらから働きかけて目覚めさせなければ動かない遺伝子ということである。

目覚めさせるための手段は幾つかあった。

ざっくり言うと、じんわり汗をかく程度の習慣的な運動、カロリー制限、レスベラトロールという抗酸化物質を摂取する、といったものだ。

目覚めさせると聞くと「どんなに大変なことをしなければならないのだろうか?」と想像してしまうかもしれないが、こうやって並べてみると意外と一つ一つは大したことはない。

しかし、だからといって実際に取り組む人の数は限られるだろう。

「知っている」と「やる」の間にある隔たりはとてつもなく大きなものだからだ。

そんな話をしていた時、この長寿遺伝子のように私たちが働きかけなければ目覚めてこないものがこの他にもあったことを思い出した。

「やる気」だ。

やりはじめる前に「やる気」は出ない

「やりはじめないとやる気は出ない」

これは脳研究における大発見だと私は思う。

ベストセラー本となった「海馬」で知られる脳研究者の池谷氏は、脳の中にはやる気を生み出す「側坐核(そくざかく)」と呼ばれる場所があり、この部位が活動すればするほどやる気が出る仕組みになっている、と述べている。

「やる気を生み出す脳の場所があるんですよ。側坐核(側坐核)と言いまして、脳のほぼ真ん中に左右一つづつある。脳をリンゴだとすると、ちょうどリンゴの種みたいなちっちゃな脳部位です。

ここの神経細胞が活動すればやる気が出るのです。」

「じゃあその部位に活動してもらえばいいじゃん!」と考えるわけだが、ここで知っておくべき重要な話がある。

側坐核には「刺激を与えられないと活動しない」という厄介な面があるのだ。

要するに、前述の長寿遺伝子同様、普段は眠ってしまっているということである。

だからこそ側坐核に活動してもらうためには、私たちから刺激を与えて、眠りから目覚めさせてあげる必要があるのだ。

そして、その刺激になるのが「やりはじめる」というもの。

「やりはじめる」を刺激として受けた側坐核は、やっているうちに自己興奮をしてきて、集中力や気分が高まり、その作業に見合ったモードへと変わっていく。

これが「やる気が出る」の仕組みなのだ。

この知見は「掃除をやりはじめるまでは面倒くさいのに、一度掃除に取りかかればハマってしまい気付いたら部屋がきれいになっていた」というような、誰もがもっているであろう経験と重ねれば多くの人が納得のいくのものではないだろうか?

そして以上のようなことから、

「やる気を出すにはどうしたらいいですか?」

という質問に対して、脳研究の見地からのアドバイスをするとすれば、突き詰めると「実際にやりはじめてみなさい」といったものになるそうだ。

「なんかやる気が出ないんだよなあ」という悩みもこの知見を持っていれば解決されてしまうはず。

やりはじめる前にやる気が出ないのは当然のことだからだ。

モチベーションとやる気

「やる気」の話をする際に混同されやすいのが「モチベーション」だ。

先日お話しした方もそのようであったし、その手のweb記事もときどき見かける。

しかし、私の経験則ではこの二つの違いは明確だ。

結論から言ってしまえば、

・「モチベーション」は行動する前の動機付け

・「やる気」は行動を継続していく力

である。

モチベーションという言葉は辞書を引くと「動機付け」とあり、言い方を変えると「その行動をとりたい!」と思う気持ち、となるだろう。

そして「その行動を取りたい!」と思う場合は大きく二つある。

モチベーションの出どころが外発的か内発的かという分かれ方だ。

例えば、仕事で大きな受注した時、上司を含め周囲からたくさんの称賛を浴びることだろう。

称賛を浴びた自分は「また次も仕事を取りたい!」という気持ちが生まれる。

Youtubeで、植松努さんの「思うは招く」や、武井壮さんの「大人の育て方」を観ると「自分も頑張らなきゃ!」という気持ちが内からムクムクと湧き上がってくる。

こういうものが「外発的モチベーション」。

これに対して「自分はこうなりたい!」という欲求や目標、「これは面白そうだ!」といった好奇心など、自分の内から生まれるモチベーションもあり、これらは「内発的モチベーション」として分類される。

いずれにしても、モチベーションはあくまでも行動を起こすための動機付けであって、動き出した自分の行動を継続させるためのものではないという点で同一だ。

「やる気」との関係性をあらためて示すとすれば、やりはじめるためにはモチベーションが必要で、モチベーションによってやりはじめることができるからやる気が出て行動が継続できる、となる。

ただしモチベーションがなくとも、とりあえず手を動かしたりしていればやる気はでてくるため、行動の継続にモチベーションは絶対に必要というわけでもない。

それに思うに、モチベーションは本質的にはとても不安定なものだ。

例えば、お腹が痛い、頭が痛い、夫婦喧嘩をした、友人関係がうまくいっていないといった日常から影響を受け、わりと簡単に失せてしまうことから、やりはじめる部分をモチベーション頼みにしておくのは結構危うい。

そういう意味でも「やりはじめればやる気は出る」は、非常に役立つ知見と言えるのではないだろうか?

「やめ時」を決めておくのも「やる気を出す」上ではとても重要

私がこの知見を知ったのはだいぶ遅く、昨年のことだった。

しかし「やりはじめるから集中できて、そうなるといくらでもやれる」という経験を、小学生の頃から今になるまで何度も何度も経験していたため、知った時の納得感は極めて大きなものだった。

実践と理屈が一致した瞬間だった。

やる気が出る仕組みが腹に落ちてからは人生をコントロールしている感覚も向上した。

それと同時に「やる気が出る」ことの負の側面も明確に分かった。

やる気を生み出す脳の側坐核は、やりはじめて一度自己興奮をすると止まらなくなってしまうという点である。

やっているとやめ時が分からなくなってしまうのだ。

アイザック・ニュートンが発見した運動の三法則の一つによれば、動いている物体は動き続け、止まっている物体は止まったままでいる。

これは「慣性の法則」として知られるものだ。

ニュートンのいう「物体」とは惑星や振り子といった物理的なものであるが、脳にも同じくこの法則が当てはまると言えるのではないだろうか?

やめ時がわからなくなった脳はいくらでもやれてしまう。

脳は疲れないわけだからそれでもいいかもしれない。(*2)

しかし、私たちの身体はやればやるほど疲れていく。

やり過ぎればどこかにガタがくるのは明白だ。

だからこそ、やり出す前に「やめ時」を決めておくのは「やる気を出す」上ではとても重要。

例えば、何かのタスクを処理しようと思った時は時間を決めて通知がくるようにセットしておくなどは実効性がある。

そうでもしなければ自己興奮した脳に、大事な身体を知らず知らずのうちに蝕まれてしまうことも。

スイッチオンになったやる気のエネルギーは本当に凄いものだから。

やめ時は決めておくが吉。

以上のようなことが、今私が「やる気」について把握していることで日々に活かしている内容である。

*1:#09 長寿後天説② 〜長寿を作るのは自分自身〜

*2:「脳は疲れない」という知見を知って、「時間の使い方」を見直した。

UnsplashUsman Yousafが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

著者:田中 新吾

プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスクと時間を同時に管理するメソッド)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|座右の銘は積極的歯車。|ProjectSAU(@projectsau)オーナー。

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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