「考える」ことをしたいなら「デジタルメモではなく手書きメモの方が良い理由」を知り、完全に腹落ちした話。
これまでの記事の中でも時折触れてきたように、私には「メモをする」習慣がある。
以前TOKYO FMが実施した「社会人意識調査」の結果にあるとおり、「メモをする」は多くの人が取り組む習慣の代表格と言えるだろう。(*1)
かく言う私に関しては、試行錯誤を重ねながらも、この習慣をここ1年くらいは下記のような方針で行ってきた。
・インプットを記録するための「2軍メモ」はiPhoneかMacのメモを使用
・2軍メモにメモする内容は、身の回りで起きた出来事、人から聞いた話、仕事や生活の気づきなど自分がメモをしておきたいと思ったことは何でも
・2軍メモの中から自分にとって「光るメモ(特にノウハウ系)」を記録するための「1軍メモ」はgoogleスプレッドシートを使用
・読書まとめ(=読んだ本の抜き書き、感想メモ)に関してはEvernoteに本を読みながらメモをしていく
・デジタルメモが中心なのは、手書きよりもフリックやタイピングの方が楽で早く疲れない、後々キーワードで検索ができるなどの利便性から
ところが。
つい最近手に取ったある本の影響でこの方針に大きく修正がかかった。
そのポイントは「デジタルメモ中心から手書きメモ中心へ」である。
ということで、なぜ修正するに至ったかについて、そのきっかけとなった本のことや、経緯、背景について備忘も兼ねて書いておきたい。
考える人のメモの技術
多くの産業が「DX」というスローガンによってあらゆるもののデジタル化が進んでいる昨今。
そして、すっかり私に馴染んでいたデジタルメモの習慣が、たった一冊の本によって修正されるというのは中々珍しいことなのかもしれない。
転換点となったのは「考える人のメモの技術」という本だった。
著者は、日本で一番ノートを売る会社「コクヨ株式会社」に30年勤められている下地寛也氏。
下地氏はグループ全体のブランド戦略や組織風土改革の推進に取り組んだり、新しい働き方を模索して複業も行っているということだった。(*2)
出版されたのはこの記事を書いている1週間ほど前のことで、まさに出来立てホヤホヤである。
本書との出会いはAmazonのレコメンドなのだが、「日本一ノートを売る会社コクヨの人が膨大なメモを収集して分かった手で考える方法」という帯文が今の私にぶっ刺さった。
「それは気になる!!」とシンプルに思ったのだ。
早速、結論を言ってしまうと「考える人のメモの技術」はいくつもの有益な情報を私に与えてくれた。
今まで私が習慣的にメモをしてきたからこそ感じたことなのかもしれないが、兎に角、今手にとってよかったと思えてならない。
そして、私が刮目したのは「手書きメモがいい4つの理由」という項目であった。
手書きメモがいい4つの理由
下地氏は、以下の4点で「デジタルメモよりも手書きメモが優れている」と述べている。
①自由度
②一覧性
③記憶定着
④創造性
それぞれの主張に私の解釈も幾ばくか交えて箇条書きにして整理してみた。
*
①自由度(書き方の自由度が高い)
・手書きメモの場合、大切なことは大きめに書いたり、後から下線を引いたり、ぐるぐるとキーワードを囲んだりメリハリを簡単につけることが可能
・デジタルでも色を変えたり、下線を引いたりすることはできるが、そのスピード感が手書きと違う(デジタルの方が遅い)
・手書きであれば後から吹き出しにして書き加えたり、キーワードとキーワードを線でつないで関連づけたり、ちょっとした図を書こうと思った場合もサッと描くことができる
結論:手書きは書き方の自由度が高い
②一覧性(多くの情報を一度に見ることができる)
・手書きでメモをする場合、情報をすべて一目で見ることができ「あ、これとあれが関係しているのか」といったヒラメキが起こりやすくなるため考えるという行為との相性がいい
・これに対して、パソコンやスマホの場合、画面の解像度の関係であまり細かい文字は見えない、スクロールしないと全体が見えない、情報が一部隠れる、など考えるという行為のストレスになる要素が多い
結論:手書きは一覧性に優れるため考える行為と相性がいい
③記憶定着(手で書くことで記憶に残る)
・よく言われるように、キーボードで打つよりも手書きの方が記憶の定着にいい
・2014年米国プリンストン大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究で、手書きでノートにメモをとる人と、パソコンのキーボード入力でメモをとる人を比較したところ、手書きの人の方が記憶が定着しやすく、良い成績を収めたというものがある
・実際に、手書きであれば文字の強弱をつけたり、アンダーラインをウネウネつけたり、できるため「確か、大きな文字で書いてウネウネしたアンダーラインを引いたページに書いておいたな!」という様にビジュアルで思い出すことができる
結論:手書きは記憶に残る
④創造性(脳が活性化し、発想しやすくなる)
・クリエイティブな行為とは、まだ言語化されていないモヤモヤした概念を言葉にしたり、キーワードの関係性をつないで自分の考えていることを図にしたりすること
・スティーブ・ジョブズが「コネクティング・ザ・ドット(点と点をつなぐ)」と言っているように、一見無関係に見える過去の経験や知識を書き出し、つなぐことこそクリエイティブであり、それをするならどう考えても手書きの方がスムーズ
・例えば「3つのキーワードを線でつなぐ」ということをパソコンでしようとするだけでかなりストレスに思う。しかも、この行為は思いついたスピードで表現しなければ意味がなく、これにはキーボードとマウスは不向き
・クリエイティブには感情的な表現や自分らしさを入れる必要もある。手書きだと文字の大きさや書く勢いで表現できるが、デジタルだとかなり難しい
結論:つないだり、感情を表現したり、自分らしさ入れたりして創造的になれる
*
いかがだっただろうか?
私に関して言えばこれは遥かに大きな発見となり、これを通して自分自身がメモを通して行いたいことが「考える」であったことをクリアーに自覚した。
そして、この自覚を持てたからこそ「デジタルメモ中心から手書きメモ中心へ」という方針変更に踏み切ることができた。
デジタルメモの欠点は「編集のしにくさ」
私は「考える」の定義について、以前の記事(*2)に「インプットをアウトプットに変えるプロセス」と書いたことがあった。
しかし、本書に示されていた定義も分かりやすく非常に納得感の高いものだった。
これも大きな収穫の一つだ。
本書にあった「考える」とは、
ある「状況」に対して、
自分の過去の知識や経験、価値観などが蓄積された「考え方」を使って、
手に入れた情報を組み合わせたり、並べ替えたりしながら再構成する、つまり「編集」をすることによって、自分なりの「答え」にたどり着くという行為。
というものである。
図でも示されていたのでご紹介したい。
そして、筆者のこの考え方を知った時、「考える」において「手書きメモがいい4つの理由」は完全に私の中で腹落ちした。
要するに、デジタルメモには「編集がしにくい」という欠点があるのだ。
iPhoneやMacのメモ上で、組み合わせたり、並べ替えたり、グルグル囲って強調するなど、考えるために不可欠な「編集」という行為がしにくく、考えるには向いていないということである。
編集工学で知られる松岡正剛氏は、編集とは「新しい関係性を発見すること」だという。
状況の中から集めた情報を、考え方を通して、組み合わせたり、並べ替えたり、削ったりして、再構成する。
こうしたプロセスの中で、自分との新しい関係性や、物事や出来事間の新しい関係性が見出す、という考え方だ。
先述の下地氏が示す「編集」も恐らくこれと類似するのだろう。
私はプロジェクトの企画を考えたり、ネーミングを考えたり、ブログを習慣的に書くことを通じて、「編集」を通さなければ「考える」にはならないことは分かっていたはずだ。
しかし、こと「メモ」に関しては、この本を読む以前までは間違いなく、インプットしたことを記録する止まりで、「考える」を行うものとして上手に使うことはできていなかった。
今後のメモ習慣の方針
筆者も言っている通りで、何も完全にデジタルが悪いというわけではない。
検索性や簡便性などメリットあるのだから上手く使い分ければいいだけだ。
何事にしてもそうだが「何のために」という「目的」によって取るべき手段は変わってくる。
例えば、サッカーの試合で「ゲーム時間内に勝つ」ということが目的だった場合と「引き分け狙いでPK戦で勝つ」という目的とでは手段が変わるのは明らかだ。
これと同じことが「メモ」でも言える。
身の回りの出来事やふと思ったことを直ぐに「記録する」という目的だけであればデジタルメモが優れているだろう。
だが「記録」したもの同士を結び付けたり、記録したものに補足したり、強調したり、丸で囲ったりという「編集」を行い「考える」ことをしたいのであれば「手書きメモ」の方がいいということである。
タブレット端末に対応するタッチペンならば、もしかしたらこういうことはできるのかもしれないが、生憎私はタブレットのユーザーではないため今のところこの選択肢はない。
ざっくばらんに書いてきたが以上が修正をするにいたった経緯、背景だ。
そして「考える」ことをしたい私は今後のメモ習慣の方針を以下の通りに再設定した。
・インプットを記録するための「2軍メモ」は基本的にコクヨの「測量野帳」を使う
※2軍メモにメモする内容は、身の回りで起きた出来事、人から聞いた話、仕事や生活の気づきなど自分がメモをしておきたいと思ったことは何でも
※「測量野帳」は著者推奨
・ついiPhoneかMacにメモしてしまった場合は、後で「測量野帳」に書き写しておく
・2軍メモを使って、手書きで「編集」をしながら「考える」を行い、それを通して得られた「光るメモ」を「1軍メモ(googleスプレッドシート)」にストックしていく
・読書まとめ(=読んだ本の抜き書き、感想メモ)についても「測量野帳」にしていく
やりながらの軽微変更はあるとは思うが原則はこれに従って行っていきたい。
今はメモを通して「考える」ことをしたい、という欲望がクリアーになったからだ。
今回「考える」ことにおいて「編集」が欠かせないこと、そして編集がデジタル上ではやりにくいこと、を改めて認識した。
ここから、考えたいならば「デジタルからはなるべく離れた方がいい」という考え方も浮上してくる。
例えば、
「ホワイトボードを使う」
「大きな紙に書き出す」
「デジタルデータはプリントアウトして手書きで校正する」
などである。
お分かりの通りいずれも古くから仕事の中で使われてきた手段だ。
世の中全体的なデジタル化の流れは間違いなく不可逆である。
しかし、「考える」こと、という視点においては「アナログ」にこそ勝ち筋があるように今の私は思えてならない。
修正後の方針に取り組んでいく中でまた何か実感することがあれば書きたいと思うが、早速取り組んでいる中での効果に対する期待値は高い。
私が本当にやりたかったメモ習慣はここからがスタートだ。
*3:「考える」ためのチャンネルを持ちながら、老いていくのが「いい老い方」なのかもしれない。
UnsplashのThisisEngineering RAEngが撮影した写真
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスクと時間を同時に管理するメソッド)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|座右の銘は積極的歯車。|ProjectSAU(@projectsau)オーナー。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
今回「目的意識」次第で打ち手も大きく変わることを改めて認識しました。
今後はメモという手段を「考える」ためにしっかり使っていきたいと思います。
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