出力する先としての「ユーモア」を大事にしたい、という話。
少し前に知人から「田中さんはネーミングをする際に何をポイントにしているか教えてくれませんか?」という質問をもらうことがありました。
隠すことほどのことでもなく、以下の3つを主なポイントとしてお伝えしています。
①言葉の組み合わせ
②音の響き
③意味・ユーモア
以下はそれぞれの補足になります。
①言葉の組み合わせについて
ネーミングをご提案する際に、単なる名前をオススメするのではなく「異なる2つの言葉の組み合わせ」による名前をオススメすることを意識しています。
というのも、いい具合に2つの言葉が組み合わさると今までになかった新しい音の響き、意味、程よい違和感が生じるからです。
程よい違和感は集客に貢献します。
目指すところは組み合わせによるイノベーション。
②音の響き
思うに、人は音の響きが良いとその名前を言いたがります。
耳心地がいいものは聞いたときにすんなり頭に入ってくるので覚えやすいです。
手相や顔相と同じように音にも相があると言われているので(音相)。
音の響きも大切な要素のひとつ。
耳に心地よい響きを持つ名前をオススメしていきます。
③意味・ユーモア
「夜と霧」で広く知られるV・E・フランクルは著書「意味への意思」の中で「人間は意味を求める存在である」と述べ、人間にとっての「意味」の重要性を明らかにしています。
イタリア、ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授によって提唱された「意味のイノベーション」は「意味でイノベーションは起こせる」というもの。
私が「意味」にこだわるのはこのような理由からです。
そして、ご相談の内容によっては「意味」に「ユーモア」を加えて出力したりもします。
今年の流行語大賞候補にもなっている「ひき肉です」が大流行りしているのも、①〜③を概ね満たしているからなのではないでしょうか?
以上のような説明を加えるとその知人から感謝の言葉とともに、
「ちなみに、なぜユーモアをポイントにしているのでしょうか?」
という質問を追加でもらいました。
これに対して私は
・ユーモアは人を惹きつけるから
・ユーモアは問題を解決の方向に進ませるから
といった回答をしています。
超ユーモラスなデヴィ夫人
話は変わりますが、私が「ユーモア」の重要性を感じ、「出力する先としてのユーモア」を大事にするようになった個人的なエピソードをご紹介させてください。
もう10年以上前のことです。
当時、シルシルミシルという番組がありまして、番組内で「上品なセレブの人達は、鼻くその事を何て言うんですか?」という視聴者からの実にしょーもない質問を調査する、という企画がありました。
その調査方法は、鼻くその絵をセレブ達に見せて「これは何ですか?」と聞くという迷惑極まりないもの。
調査の結果、多くのセレブ達が「鼻くそ」と答えたのに対して、唯一「デヴィ夫人」だけが「ニーゼルミューカス」と答えたのです。
本当に奇跡的な回答で、めちゃくちゃ笑ったのを今でもよく覚えています。
ニーゼルミューカス(nasal mucus)とは、医学用語で「鼻粘液」のことだそうです。
音の響きだけを聞くと、なんだか「花の名前」のようにも聞こえます。
「南の島あたりで咲く綺麗な花?」
ニーゼルミューカスには鼻くそにある下品さが全くなく、むしろ気品さえ感じさせる。
突然、誰かに「ニーゼルミューカス、欲しい?」と聞かれたら、間違えてとっさに「欲しい!!」と答えてしまいそうなくらいです。
この時の経験は私にとって遥かに大きく、今現在における「ユーモアで出力するの大事だよなあ」という考え方の頑健な土台になっています。
きっかけを与えてくれた「デヴィ夫人」には今も感謝が尽きません。
ユーモアで問題を解決していく
そしてつい最近もこの考え方を強化する経験をしました。
少し前に書いた記事にも関連するものなのですが、北海道浦河町にある「べてるの家」にいったことです。
「人は名前を付けることで、新しい概念について向き合い、ちゃんと考察できるようになる」という確信がさらに強まった。
べてるの家は、1984年に過疎化の進む浦河町で「精神障がいという苦労を抱えた人たち」が「町のためにできることはないか?」という考えから生まれた地域活動拠点として生まれました。
現在、100名以上の精神障がいを抱えた方々が、町のためにできること(浦河の特産品である日高昆布を使った商品製造と販売、べてるの活動の見学を希望する方々の受け入れとご案内など)に日々取り組んでいます。
そんなべてるの家にはユーモアに溢れる「べてるの用語」がたくさんあるのです。
例えば、
人の行動に否定的な影響を与える認知や思考のことは「お客さん」。
自分自身との関係や人間関係に行き詰まったりして、ストレスが溜まった時に人や物に感情をぶつけてしまうことは「爆発」。
調子が悪い状態のことは「バラバラ」または「パピプペポ」。
身体で感じる圧迫感のことは「誤作動くん」。
べてるのみんなは毎日生きているだけで病気も出るし苦労も尽きない。しかしそれをそこから逃れるのではなく、その苦労をむしろ予測して予定通りその悩みや苦労に出会った時「それで順調!」と言う、などです。
案内してくださった統合失調症をお持ちの男性は「べてるは問題解決にユーモアをふんだんに使っている」とおっしゃっており、「ユーモアで出力するの大事だよなー」と思ってきた私の考え方を、より強くする大変貴重な体験になりました。
人は教える人よりも楽しませてくれる人を好む
自分がユーモアについて大事だと思っているからだと思うのですが、「ユーモア」という言葉を使う人に出くわすと、すかさずメモをしておく癖があります。
例えば、元日本一有名なニートであるphaさん。
phaさんは著書「人生の土台となる読書」の中で、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』を引用して「ユーモアというのは、現実に立ち向かうための武器である」と言います。
以下は夜と霧からの引用です。
ユーモアも自分を見失わないための魂の武器だ。ユーモアとは、知られているように、ほんの数秒でも、周囲から距離をとり、状況に打ちひしがれないために、人間という存在にそなわっているなにかなのだ。
能楽師安田登さんは松尾芭蕉の生き方は「あらゆることを和とユーモアで読み直す(=徘徊的に生きる)」だったと言います。
そして、ここ最近で最もインパクトがあったのは人気漫画「チ。」の作者「魚豊先生」でした。
今年のはじめに東京ドームシティで開催されていた「チ。展」に行った時のことです。
企画の一つとして魚豊先生のインタビュー動画が流れていました。
「先生にとっての座右の銘はなんですか?」とインタビュアーの方が質問をすると、先生は「懐疑とユーモアです」と答えます。
「疑うだけならあんまり意味がなくて、それを出力する先としてのユーモアを大事にしたい」
そうおっしゃっていました。
この時遥かに大きな共感を覚えたことを、今でもよく覚えています。
「チ。展」に行くことができて本当によかった。
私の場合はとりわけ「ネーミング」をする際に意識していることではありますが、この意識をもっと広げて、他の場面でもユーモアを使えるようになってくるとまた人生が違った形で面白くなりそうだと思っています。
昔、私の知人が言っていた「人は教える人よりも楽しませてくれる人を好む」という考え方もそうだと思うので、この方向で努力をしていくことは割といいんじゃないかと。
今回書きたかったことは以上になります。
ご興味ありましたら以下もご覧ください。
言葉の組み合わせ、音の響き、意味・ユーモアにこだわって名前をオススメする「NAMAEYA」
UnsplashのГоар Авдалянが撮影した写真
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車
言語化と同じくユーモアも養殖ものだと思います。大事なのはトレーニングすることですよね。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
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