タナカシンゴ

「自分にとってのナチュラル」を追求して、それをシンプルに繰り返していくことは、すごくいいことなのではないか。

最近、一部上場企業に勤める知人に教えてもらった下の記事が非常に良かった。

自然な状態に近づく 悪路の苦闘越えた先に

掻い摘んで言うと、

今年の春から「トレイルランニング」をはじめて、二戦目に挑戦した筆者(鹿島アントラーズ地域連携チームマネージャー)が、降りしきる雨の中、希求していたものを見出した、という内容になっている。

この記事で、私が非常に良いと感じたのは、ランの最中に自分と身の周りに起きた事柄一つ一つにフィーチャーし、感じたことやその時の状況を丁寧に言語化しているところである。

例えば、激坂を一列になって黙々と登っていく様を「無言の行軍」と表現しているがこのおかげで、その様子は鮮明に目に浮かび上がる。

一歩一歩、体のバランスを保つため、腹筋、背筋に負荷がかかる。

残念ながら体幹の弱さを露呈する。

すべり、転び、泥まみれになる。

しかし、そこで嫌気がさしたかというと、そうではない。

この箇所を読んだ私は、以前挑戦した信濃国ラウンドトレイル(2018年)のことを懐かしまないわけにはいかなかった。

しかし、これ以上に良いと感じたことがある。

5時間弱の苦悶の末に「私はナチュラルな状態に近づいた」という部分だ。

筆者は、人間にとって「疲れ」は「ナチュラルな状態」だとして、文化人類学者の辻信一さん、オーストラリアの漫画家で詩人のルーニグ氏の言葉でその主張を補足する。

「休むことを蔑む者は、疲れを蔑む。休むことの喜びを知っている人は、疲れを敬う」

「疲れとは何か、マイケル・ルーニグという人がこう言っている。それは我々人間が感じることのできる最も自然(ナチュラル)で、力強く、高貴な感覚だ、と」

「疲れ」が「最も自然で、力強く、高貴な感覚」という視点は私にとっては新しい発見だったのだが、一番に関心を寄せたのは、人間にとって「ナチュラルな状態」を筆者が希求していた、という点だ。

なぜかといえば、実は私も最近、

自分にとってのナチュラルを追求して、それをシンプルに繰り返すことはすごくいいことなのでは?

といった仮説を持つようになり、今まさに「ナチュラル」を希求していたからである。

そして偶然にも、私がこのような考えを持つようになったのも「トレイルランニング」だった。

ナチュラルを追求して、シンプルに繰り返していく

6月頭、実に約3年ぶりに私はトレイルランニングの大会に参加した。

長野県戸隠で行われた「モントレイル戸隠マウンテントレイル」である。

このレースへの参加は2回目で、今回もまた20kmのコースを選んだ。

スタート地点から2km進んだところから、瑪瑙山(めのうさん)の頂上を目指すトレイルランニングが始まり、1300mの地点から1700mまで一気に駆け上がる。

この山登りが5km地点まで続いた後は、スキー場の斜面を一気に下り、小さなアップダウンを繰り返しながら14kmの地点を目指して足を進める。

14km地点が「関門」となっていて、ここを3時間15分以内に通過しなければ足切りされてしまい完走にならず、記録にもならない。

だが、この関門さえ時間内に通過すれば、あとの残り6kmは歩いてゴールでもOK。

実を言えば、この大会に初参加した3年前は、参加者482人中453位という結果で、完走者の中では最も遅く私が戸隠トレイルランの最終ランナーだった。

これに対して今大会では、順位は582中395位、タイムは3時間54分59秒で、前回から40分以上も早く完走することができた。

この進歩を振り返るに、

・3年前と比べて体重が10kg以上落ち、お酒も飲まなくなり、前大会よりも身体が健康な状態になっていた

・中盤まで伴走してくれた友人の存在

は直ぐに要因として挙げられる。

そして更に「メンタリティーの変化」も相当影響している。

私はこの大会に出るにあたって、事前準備を出来るだけ入念に行った。

ロードでのトレーニング。

コースマップを使ったイメージトレーニング。

トレイルランニング関連の文献に当たるなどもした。

そして、当日走っている最中、私の心の拠り所となったのは「極限力」という本の中で、

外資系の大企業に勤務し、再生可能エネルギー事業の開発などに携わりながら、トレイルランナーとしても輝かしい成績を収めてきた「渡邊千春さん」が紡いだ言葉だった。

人間が生き残ってきた理由は、直立二足歩行というのが大きくて、それによって脳が大きくなり、手が自由になって、獲物を取りやすくなった。

もともと暑いところで長時間動いて獲物を獲るというのが生き残るための大きな要素だった。だから人間は本来長距離移動に向いているのだと思います。

トレイルランニングはこの行動にとても近い。

振り子運動をひっくり返したのが人間の腰の運動。


地球の環境、重力があるところでは、直立二足歩行が非常にナチュラルな動きなんです。

頑張って前傾すると、物理的に地面とケンカする。

本来のナチュラルな姿勢であれば、自然に次の一歩が出る。重力があるところでは、人間の身体ってそういうふうに動けるようにできているはずなんです。

結局、ゴールまで行きたいのなら、仕事でも走るのでも、シンプルなことが一番大事です。

(中略)

ただ、人によってナチュラルなものは違う。

例えばヤマケン(山本健一)はストックをうまく使う。ヤマケンにとってはこれが必然、シンプルな行動の一環。ヤマケンと僕の必然は違う。

たぶんヤマケンの祖先は普通の人がダメになったあとも、木の棒をついて獲物を獲物を獲っていた(笑)。

全員が同じだったなら、逆に人間はここまで繁栄しない。

だから自分にとっての必然、ナチュラルなものを追求して、それをシンプルに繰り返し続けるだけなんです。

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「胸を張って直立二足歩行をすること」

「この姿勢が崩れなければ、肉体的な限界は絶対にこない」

ランの最中、私の頭の中には常にこのような考え方があった。

そう考えると「直立二足歩行」の話は、自分にとってはかなりナチュラルだったのだろう。

そして大会を終えた後、渡邊千春さんの、

自分にとってナチュラルなものを追求して、それをシンプルに繰り返し続けるだけ

は頭に付いて離れなくなってしまった。

ぼーっとしている時の方が脳は効率的にエネルギーを使っている

話は変わるが、近年の脳科学で個人的にとても唆られる研究報告がある。

それが「脳は忙しくしているときよりも、何もせずぼーっとしているときのほうが、2倍のエネルギーを使っている」というもの。

なんと意識的に脳を使っているときよりも、「何も考えていないときのほうが脳は活発に動いている」ことが明らかになってきているのだ。

そして、これをもたらす機能には名称がついており、「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれている。

では一体なぜ、ぼーっとしている時の方が脳がよく動くのか?

私たちが何かを意識的にしている時というのは、その行動に関係のある脳の部位が活発になり、脳のエネルギーがそこに集中すると言われている。

これはエネルギーが「ある部分一点に集まっている」という状態だ。

しかし実は、この状態は「脳にとっては効率が悪い」。

脳が効率よく動くのは、むしろこの真逆の状態の時なのだ。

脳は特定の部位にエネルギーを注いでいる時よりも、エネルギーが全体に分散されている時の方が本領を発揮する。

脳はぼーっとしている最中、エネルギーをたくさんの場所に届けることによって「有機的なネットワークを構築する」というのだ。

これは直感的にも納得がいく。

人間は「夢」の中で、現実的にありえない人やモノやシチュエーションを結びつけて物語を創造してしまうが、これもDMNの働きによるものなのだろう。

私はよくぼーっとしながら散歩をしたり、ランニングをしたりするのだが、「良いアイデア」が生まれるのは決まってそういう時だったりする。

一般的には、集中している時の方が脳は効率的に動いているように思いがちだ。私も長らくそう考えてきた。

だが、この認識は間違っていたのだ。

私たちの脳は、ぼーっとしている時のように「無意識」のときほど、実は水面下で一生懸命働いてくれており、効率よく素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれる。

<参考文献>

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呼吸や移動などの無意識的な活動も、脳はハイパフォーマンスしている

大分前の話になるが、マルセイユルーレットという超絶技巧で知られる、元プロサッカー選手で、現サッカー監督の「ジネディーヌ・ジダン」が「試合の記憶は断片的だ」と言っていた。

これに対して、

元サッカー日本代表の中田英寿さんは「試合の記憶が断片的なのは、意識と無意識のそれぞれの時間でプレーが構成されているから」と解説をしていたのを記憶している。

この話は決してプロサッカー選手だけに限る話ではなく、私たち一般人すべてに言えることだろう。

要は、私たちの「生活」も、意識と無意識のそれぞれの時間で構成されているということだ。

だから生活の記憶というのはいつも断片的。

意識している時間の方が「長い」と思うかもしれないが、実際には大半が無意識的な時間、と言っていいだろう。

前述の「ぼーっとしている時」は無意識が優位になっている活動の代表格だ。

他にも、

「呼吸」や「睡眠」

「着席」や「歩く、走るといった移動」

なども思うに「無意識」が優位になっている。

そして、前述の脳科学の研究報告と重ねて考えれば、これらの活動中も脳は水面下で一生懸命動いていて、素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれているということになる。

「睡眠」については「夢」を例に挙げたが、

「呼吸」も「着席」も「歩く、走るといった移動」にしても、脳は効率的に動き、ハイパフォーマンスしていることを再認識し、その価値を見つめ直すのは非常に面白そうだ。

それに、こういった無意識に積み上げている活動は、占有する時間が長いからこそ、たった少しの変化で「生活の質」を大きく変えてくれそうでもある。

「他者からすれば本当にどうでもいいことだが、自分はどうしても無視することができないもの」も無意識的な活動

私は仕事で、プロダクト、グラフィック、Web、インテリアなど色々なデザイナーの方と協働することが多い。

そんな彼ら彼女らから、時々私にはほとんど分からないような「超微細な修正提案」を受ける。

「え、どこが変わったんですか?」とつい吐露してしまうくらい、本当に微細なものだったりするから驚くばかりだ。

しかし、私はそういうことを聞かされる度に「他者からすれば本当にどうでもいいことだが、自分はどうしても無視することができないもの」の存在と、その存在価値を確認するに至る。

思うに、こういうものは誰にとってもひとつやふたつは必ずある。

クセや職業病と概念的には近しいだろう。

そして、これも「無意識的な活動」の一つで、きっと水面下では脳がよく動いている。

更に「自分はどうしたって無視できないもの」の特徴はその「無二性」だ。

だからこそ、それに気付き、定義することができれば、その人独自の「才能」として昇華できる可能性がある。

卑近な例になるが、私の知人に「整理整頓アドバイザー」をしている人がいる。

これはまさしく「自分はどうしたって無視できないもの」を「才能」として昇華したものと言っていいだろう。

だが、クセが自分では気づかないように、無意識だからそれに一人の力で気づくのは当然困難を極める。

「才能」というのはやはり、自分一人の力で開花させるものではなく「他者の介在」があってはじめて開花するものなのだろう。

無意識の動きを意識化し、意識的な動きを無意識化する

以上のような無意識的な活動は、言い方を変えれば「自分にとってのナチュラルなもの」となる。

自分にとって無意識的な活動ほど、ナチュラルなものはない。

そして「自分にとってのナチュラルなもの」の方が脳がよく動くのだとするならば、

ナチュラルなものを追求し、掴み、それをシンプルに繰り返していくことは、私たちにとって凄くいいことなんじゃないか。

というような冒頭に提示した仮説に私は至った。

実は、ジネディーヌ・ジダンの「試合の記憶は断片的」という話には続きがある。

「試合の記憶が断片的なのは、意識と無意識のそれぞれの時間でプレーが構成されているから」と説明した中田英寿さんは、

トレーニングとは、無意識の動きを意識化することと、意識的な動きを無意識化することの両方だ

と続けていたのだ。

当時「これは本質的だ」と思ったことだから未だに覚えていた。

久々にこの話を思い出した私は今、下のような新しい関係性を見出している。

無意識の動きを意識化する → 自分にとってのナチュラルなものを把握し、その質を上げること

意識的な動きを無意識化する → 意識的なものを自分にとってのナチュラルなものにすること

したがって「自分にとってのナチュラルを追求する」は、意識と無意識の間を行ったりきたりする「トレーニング」と同一、と捉えると個人的には凄くしっくり来る。

何が人間にとってのナチュラルで、何が自分にとってのナチュラルなものなのか。

ナチュラルをシンプルに繰り返していくことは私たちにとってどのように良いのか。

なかなか探究しがいのあるテーマが見つかった。

Photo by Some Tale on Unsplash

【著者プロフィール】

タナカ シンゴ

昔、営業を経験しておいて良かったと思うことは 「人は他人の言ってることは聞かない」 「でも、仲間の言っていることはよく聞いてくれる」 これをリアルに知れたことです。

理工学部卒業後、マーケティングファームに7年間勤務。国内大手企業や外資系企業をクライアントに、営業、リサーチ、コンサルティング、商品開発、集客、マネジメント、リーダーシップの現場経験を積みジョブチェンジ。

現在は一人会社とNPOも兼業で、商品開発と集客のプロジェクト運営をしたり、記事を書いたり、Podcastを配信したりしています。

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◯noteマガジンで「事業の役に立つネームコレクション」を運営中

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