田中 新吾

私たちにとって切っても切り離せない「疲れ」にどう対処するか?

タナカ シンゴ

最近、Twitterを見ていたらタイムラインにこんなツイートが流れてきた。

この記事を書いている時点で2,500件以上の回答がついており、その多くが「寝る!」ということを見て私はハッとした。

そして同時に、田口ランディさんの「人は分かり合えないという一点のみで分かり合える」という言葉が頭の中を過ぎった。

人は分かり合えないという一点のみで分かり合える

この考え方について「たしかにそうだ」と私は今まで思ってきたところがあった。

岡本太郎も、人と人との間にあるのは「誤解」だけであって、たまたま意見の一致を見たとしても、それは狂った時計同士でも同じ時を指す瞬間があるのと同じこと、と述べている。

「分かり合う」とは私たちが思い描いている以上に相当に困難な状態なのだ。

しかし、冒頭のツイートにぶら下がる多くの人の「寝る!」という回答を見て、「疲れを取るには寝るに尽きる」という点においてならば、分かり合える人は割と多いのではないだろうか?

こんなことを思うに至った。

何を隠そう私も「疲れを取るには寝るが一番」という考えで長らく生きてきたからだ。

思うに、これほど実効性のある手段は他にない。

それもあって有象無象の見ず知らずの人たちとでも、この点に関しては直感的に結構分かり合えるような気がしたのだが実際にはどうなんだろうか?

多くの人が疲れを感じている

今年の3月。

全国10万人への健康調査から「日本の疲労状況」を分析した結果がリリースされた。

全国10万人調査から「日本の疲労状況」を発表

これまで疲労に関する調査は、世界的にも1万人を少し超える規模に対する調査が最も多くの人数に対しての調査であったという。

これに対して、本調査は「10万人規模」「男女ほぼ同数」「県民性を取り上げたテレビ番組にも匹敵する日本全体での5年間にわたる調査結果」などの点で価値が高いとコメントがあった。

この調査によれば、全体で「約8割の人」が疲れていて、「元気な人」はなんと2割を切る(2021年)。

2019年以降で「慢性的に疲れている人」の増加が目立ち、2021年では若干の回復傾向が見られる。

しかし、2017年から比べれば明らかにポイントを増やしており、この主因としては「コロナ禍」の影響が予測されている。

年代別に見れば「20代・30代の若い女性」は元気な人がなんとわずか1割という結果。

慢性的に疲れている人は5割を鮮やかに超えている状況だ。

思うに、これは深刻な状態と言っても言い過ぎではないだろう。

私自身今まで、直感的に「現代人は疲れている人がかなり多いのでは?」とは思ってきたところがあったが本調査結果はこの考えの裏付けとするには十分なものとなった。

やはり多くの人が疲れを感じているのだ。

私たちにとって「不安」が切っても切り離せないものであるように「疲れ」も同じく切って切り離せない。

そして、不安と同じく「お悩み事」であるから、その解消のためにお金が動く。

なぜ疲れるか?疲れを感じるメカニズムについて

ここであらためて一体なぜ私たちは疲れるのか?

どういう仕組みで疲れるのか?について、現時点での私の理解を示す。

「疲れ」は「身体」と「精神」の二つに現れる。

ちなみに「脳」自体は疲れることはなくずっと動き続けるそうだ(*1)。

前者の「身体の疲れ」の原因は諸説あるとされているが、その説の一つとして「筋肉内に乳酸が溜まる」と以前から言われてきている。

恐らく、この説は多くの人が見聞したことのあるものだろう。

乳酸とは文字通り「酸」である。

「酸」が蓄積すればPHは低下し、体内は酸性の状態になり、そのせいで筋肉運動や代謝に障害が生まれ「疲れる」といった仕組みになっているという。

調べると「乳酸」ではなく「リン酸」を原因とする説も見かけた。(*2)

いずれにしても、身体の中の「酸」が過剰になることで疲労が生まれるという仕組みについては同一だと私はざっくり解釈している。

そして「精神の疲れ」についても「酸」の蓄積に原因があるとして割と最近、議論がされているのを見かけた。

2022年8月11日付けで「Current Biology」に掲載された論文(*3)によれば、

・長時間にわたる激しい認知活動が行われると、脳内にはグルタミン酸と呼ばれる「アミノ酸の一種」のような潜在的に毒性のある副産物が蓄積される。

・この副産物は、人間の意思決定を調整し、根を詰めて考えることをやめさせ、よりリラックスしたストレスの少ない活動に導くと考えられている。

・これは、燃え尽き症候群から身を守るための、人体に備わる防御手段なのかもしれない。

ということだった。

論文の筆者である仏ピティエサルペトリエール大学のMathias Pessiglione氏は論文の投稿にあたり下記のようなコメントを寄せている。

「疲労は、人間に作業を中断させ、より快適な活動に向かわせるために脳が作り出す幻想だとする理論が有力だ。

だが、われわれの研究結果は、認知作業が実際の機能的変化(有害物質の蓄積)をもたらすことを示している。

したがって、疲労は確かに人間に仕事を中断させる合図ではあるが、脳機能の完全性を維持するためという、別の目的もあると考えられる」

(太線は筆者)

身体が酸の蓄積によって疲れるのと同じく、精神も酸の蓄積によって疲れる。

こう考えると個人的にはとても納得がいく。

以上をシンプルにすれば、身体にしても精神にしても、

活動する→酸が蓄積する→PHのバランスが崩れる→疲れる

というメカニズムになるのではないだろうか。

「アーシング(身体と大地が直接繋がる事)」をすると良いのは、プラスに帯電した身体に、地球から電子(マイナス)を受け取り、プラスとマイナスのバランスを調整するから、というのと原理は極めて似ている。

しかしながら、今回の論文に掲載された実験結果は相関関係を見出したものに過ぎず、妥当なものとして捉えるにはさらに実験を重ねる必要性はまだまだあるそうだ。

「疲れ」にどう対処するか?私がしている対策について

最後に、切っても切り離せない「疲れ」にどう対処をするのか?について、私が実際にしている対策をご紹介して締めとしたい。

「疲れ」への私の対策は大きく二つだ。

①疲れたら休む

②「疲れない習慣」を身につける

それぞれ詳しく見ていこう。

①疲れたら休む

何はともあれ「疲れたら休む」。

疲れを感じたまま行動をしてもパフォーマンスはよくなく生産性も上がらないからだ。

だから、とにかく「疲れたら休む」。

休む方法としては、冒頭のとおり「寝る」が一番実効性があると感じている。

夜しっかり寝るのはもちろん、20分〜30分の「昼寝」も効果は抜群だ。

寝れなくても目を閉じて横になるだけでも結構な休息になる。

これは目から入ってくる情報をシャットアウトすることで頭に負荷がかからなくなるから。(*4)

それもあって私は「アイマスク」を付けて昼寝の体勢を取る。

前述のPessiglione氏は「疲労には古き良き方法、休息と睡眠が効果的。睡眠中にグルタミン酸が脳内のシナプスから除去されるという証拠がある」と述べており、科学的にも睡眠による実効性は証明されてきているようだ。

寝ると体内に蓄積された「酸」が除去されるということである。

②「疲れない習慣」を身につける

次に「疲れない習慣」を身につけるについて。

実はこの二つ目の対策が個人的には結構重要だと考えている。

なぜならどんな習慣も「塵も積もれば山となる」からだ。

「疲れない習慣を身に付けよう!」と考えるようになったキッカケは前職での失敗経験からだった。

昔営業をしていた時、私は

・訪問場所を間違える

・資料の数が足りない

・同行者が約束の場所に現れない

・交通トラブルで遅刻する

・名刺が切れる

など様々な失敗を経験した。

一つ一つの失敗は些細なことだったが、どれも「精神的な疲れ」を生じさせ、大切な商談に悪影響を及ぼした。

だからこそ対策は必須で、これこそが「疲れない習慣」を身に着けることの重要性が自分に身に刻まれた体験となっている。

例えば、同じような作業はできる限り「標準化する」なども疲れない習慣だ。

なぜなら、標準化しておけば「考えなくてもできる」ようになり、余計な認知作業をせずに済むため疲れないからである。

それから「同じ姿勢を長時間取らない」というのもある。

同じ姿勢とずっと取り続けることの何がよくないか?と言えば「血流が悪くなる」ところだ。

過ぎれば、旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)にまで到る。(*5)

血流は疲労物質を流してくれる役割があると言われており、それが滞れば疲れを感じるのは必然のことだろう。

さらに、疲れない歩き方、疲れない座り方、疲れない本の読み方、疲れないペンの持ち方、腰が疲れない立ち上がり方、なども下の本を参考に習慣化している。

この本を読むと、私たちが日常生活の中で無意識的に「疲れる習慣」をとってしまっていることがよく分かる。

100のTIPSがあるためすべてを実践するのははっきり言って不可能だが、取り入れることができる部分を取り入れることで「疲れ」対策には間違いなくなるはずだ。

少なくとも私にはその実感がある。

ざっくりではあるが、以上が私が現在している「疲れ」への対策だ。

オーストラリアの漫画家で詩人のマイケル・ルーニグは、「疲れ」は我々人間が感じることのできる最も自然で、力強く、高貴な感覚、だと述べた。

「疲れ」を感じるからこそ人間。

言われてみれば、疲れを感じなければそれは人間ではなく「ロボット」だ。

変な感覚かもしれないが、「疲れ」を感じ取れることに感謝しつつ、とは言え、あらゆる活動に大きく影響してくる疲れには今後もしっかり対策していきたい。

そんな思いでいる。

*1:「脳は疲れない」という知見を知って、「時間の使い方」を見直した。

*2:筋疲労は乳酸が原因?正しく知っておきたい乳酸と疲労の関係性

*3:なぜ頭を使うと疲れるのか–精神疲労のメカニズム、脳内の変化を解説

*4:眠れないとき目を閉じて横になるだけでも休まるというのはどういう根拠があるんでしょうか?

*5:旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)を防ぐには?

UnsplashMiikka Luotioが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

著者:田中 新吾

プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスクと時間を同時に管理するメソッド)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|座右の銘は積極的歯車。|ProjectSAU(@projectsau)オーナー。

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

ハグルマニの週報

全然知りませんでしたが、冒頭のツイート主は五人組のグループYoutuberらしいです。

せっかくなんでチャンネルも見てみましたが「not for me」でした(笑)

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