田中 新吾

「あいまいな指示」には、人を動けなくしてしまう力がある。

新型感染症で世の中がてんやわんやとしはじめる今から3年くらい前のこと。

とあるメーカー勤務の方から相談を受けることがあった。

相談の内容は多岐にわたったが、特に困っているのは「プロジェクトのメンバーがなかなか思うように動いてくれない」というものだったと思う。

聞けば、その方(以下、Bさんと呼ぶ)は、とあるプロジェクトのリーダーを任されて数人をまとめながらプロジェクトを推進をしていくことを求められていた。

若干うろ覚えだがたしかこんなやり取りをした。

Bさん「何度かは経験があるんですが、プロジェクトを進めるのって大変ですよね・・・」

私「そうですね・・・でもうまくいけば一人じゃできないことができるからやりがいがあって僕は面白いとは思います」

私「差し支えなければ教えて欲しいのですが、何に大変さを感じているのでしょうか?」

Bさん「そうですね。いくつかありますが一番は思ったとおりにメンバーに動いてもらえないことが多い、ですかね・・・」

私「それ私も経験あります。なんで?ってなるやつですよね・・・。これプロジェクトリーダーのあるあるの一つなんじゃないかと思ってます」

Bさん「わかりますか?そうなんです・・・メンバーから信頼されていないのか、私の何がいけないのか結構悩ましくてですね」

Bさん「田中さんはそんな時どうされたんでしょうか」

私「Bさんとは仕事の内容が異なるので参考になるかは分からないのですが、私がとくに注意を払っていたことは『やって欲しいことがあるなら指示は明確にして出す』ですかね・・・」

Bさん「指示は明確にして出す。なるほど。」

私「昔、誰かにやって欲しいことがあるなら指示は明確に出すこと、という教えを先輩から受けまして。これを実行していくうちにこれって社内にしても社外にしても等しく重要であることに気付いたんです・・・」

私「それから、なんのために、このタスクを、いつまでに、どのレベル感で、予算はいくらで、参考となる資料はこれです、というように、あらゆる依頼に対して必要なことを明確にしていくようにしたんですよね。そうしたら、なんかプロジェクトがいい感じに動いていくようになりまして。」

Bさん「そうなんですか。言われてみれば、私の指示はちょっとあいまいというか、ざっくりというか、少しはあなたも察して考えて、というようなものになっていたかもしれないです・・・」

私「多分、あいまいな指示には、人を動けなくしてしまう力があるのだと思います。こちらは相手に動いてもらいたくて出したわけですが逆にそれが動けなくしてしまうというか。どうしたらいいか分からない時が一番人間辛いっていうか。どう動いたらいいかが明確に分かることってすごく重要なことなのかなと。」

私「だから、昔私に教えてくれた先輩もあいまいさは無くせ、と言っていたんだと思います。」

Bさん「いいヒントをもらえた気がします。ありがとうございます。」

私「いえ、少しでも参考になればと思って話したことなので・・・!」

「意思決定の麻痺」は「あいまいさ」によっても引き起こされる

曖昧な指示には、人を動けなくしてしまう力がある」については、実はスタンフォード大学ビジネススクール教授で、組織行動論を専門とするチップ・ハース氏によっても明らかにされている。

ハース氏は、選択肢が増えると、それがどんなによい選択肢でも、人は凍りつき、動けなくなってしまうことを「意思決定の麻痺」と呼ぶ。

そして、意思決定の麻痺は、選択肢が増える以外に「あいまいさ」によっても引き起こされる、というのだ。

ここで起きたのは、「意思決定の麻痺」だ。

選択肢が増えると、それがどんなによい選択肢でも、私たちは凍りつき、最初の計画に戻ってしまう。

(中略)

意思決定の麻痺は、医療、買い物、投資、交際の判断の妨げになるということだ。

さらに言えば、仕事や人生の意思決定にまで悪影響を及ぼす可能性もあるのだ。

あなたの組織では意思決定の麻痺が起こっていないだろうか。

どの企業も、魅力的な選択肢のなかから選択を下さなければならない。

短期的な収益を増加させるのか、収益性を最大化するのか。

完璧な製品をつくるのか、製品の市場投入を早めるのか。

イノベーションや創造性を重視するのか、効率を最適化するのか。

こういったさまざまなジレンマを抱えれば、麻痺が起こるのはまちがいない。

医師の脳を混乱させるのに、たった二種類の薬剤で十分だったのだ。

あなたの組織には、どれくらいの選択肢があるだろうか?

(中略)

多くのリーダーが、おおまかな方向性を定めて満足している

「私はビジョンは定めるが、詳細には立ち入らない」。

確かに、次の章でも説明するように、魅力的なビジョンは重要だ。

しかし、それだけでは十分とはいえない。

おおまかで放任的なリーダーシップは、変化の場面ではうまくいかない。

変化のもっともむずかしい部分、つまり麻痺を引き起こす部分は、まさに詳細のなかにあるからだ。

(中略)

あいまいさはその敵だ。

変化を成功させるには、あいまいな目標を具体的な行動に置きかえることが必要だ。

(太線は筆者)

チップ・ハース氏は、こんな事例を紹介している。

ウェストバージニア州の研究者たちは、住民に「健康的な食生活をおくる」という目標を達成してもらうために何が必要なのかについて頭を悩ませていた。

過去の研究から、人々が行動を変える可能性が高いのは、求められている行動がとびきり明確な場合であることがわかっていたが、残念ながら「健康的な食生活をおくる」についてはまったく明確ではなかったからである。

そこで検討を繰り返した結果、研究者たちはメッセージを絞り込み、住民たちに向けて「スーパーの乳製品コーナーに立ち寄ったら、ホールミルクではなく低脂肪乳に手を伸ばしなさい」という趣旨のキャンペーンを打った。

これは、アメリカ農務省の推奨する飽和脂肪の摂取基準を「日常生活の普通の牛乳から置き換えるだけ」で満たすことができたからである。

メッセージ性の高いキャンペーンは見事に当たり、ウェストバージニア州の住民の多くに「健康的な食生活」を提供することができた。

キャンペーン以前、低脂肪乳の市場シェアは一八パーセントだったのに対して、キャンペーン後、シェアは四一パーセントにまで伸びた。そして半年後も三五パーセントを維持していたという。

指示から「あいまいさ」を消したことで、人の意思決定の麻痺を回避できた参考になる事例だ。

仕様に書いてないが普通のエンジニアならできるでしょ

実は最近、冒頭のBさんと久々に会話をする機会があった。

開口一番、Bさんは私にこう言った。

Bさん「以前、プロジェクトを推進する時、やって欲しいことは指示としてできるかぎり明確に出している、と言っていたと思うんですが、私も指示内容からあいまいさをなくすことを強く意識しだしたら、以前よりもメンバーの動きがかなりよくなりました。その節はありがとうございました。」

私「あ、そうなんですか!少しでもお力になれたようで、とても嬉しいです。」

Bさん「はい、まだまだ課題はあるとは思うのですが、それでも以前よりはだいぶコツを掴んできた気がしています」

私「あれから僕も色々とプロジェクトに関わっていますが、やはりいつ何時もそこに手を抜いてはダメだなと思うばかりでした。その上で、分からないことや不明な点があればすぐに相談してください、とするとより動きやすくなるのかな、と思っています。」

Bさん「なるほど・・・。またいいヒントをもらえた気がします。」

私「こちらこそです。結構前のことなのに覚えていただいていて、それにフィードバックまでしてきただきとてもありがたかったです!」

Bさんとの会話を終えた数日後、私はTogetterで下のようなまとめを偶然目にした。

仕事で作業クオリティが低いと言われ話を聞くと不思議な世界になっていった「仕様に書いてないが普通のエンジニアならできるでしょ」

あまりにタイムリーだったので驚いたのだが、これを要すると『曖昧な指示で動けなくなっているところに、それでも「動け」という無茶区茶な指示を出してきた相手に呆れて依頼を断った』という話である。

私が同じ状況下にいたとすれば、ツイート主(@MHTcode_Alexさん)とほとんど同じような反応をしたと思う。

曖昧な指示で動けなくなっているとは思わず、動かないからいいから動けと迫る。

こういう指示の出し方をしている人は、人に動いてもらうための考え方や姿勢を根本的に学び直した方がいいと私は心の底から思ってしまう。

相手にやって欲しいことがあるなら指示はできるかぎり明確に

何か依頼する側の基本的な姿勢として、引き続き取り組んでいきたい所存でいる。

Photo by Peggy Anke on Unsplash

【著者プロフィール】

田中 新吾

ラファウ「そ、そんな人生・・・怖くはないのですか?」

フベルト「怖い。だが、怖くない人生などその本質を欠く。」

チ。1巻に出てくるこのやりとりはやっぱり好きです。

中小企業、中小自治体、個人のプロジェクトサクセスを支援しています。人生のミッションは「プロジェクトという挑戦」を応援すること。座右の銘はLife is Projects。自称ネーミングマニア。

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