「相手によって態度を変える人が嫌い」の真意を学んだ話。
以前から私は「人は誰もが相手によって態度を変える」と思っている。
赤ちゃんを目の前にして大人に接するように接するはずもないし、好きな人の前でカッコつけてしまうのは本能として当然と考えるからだ。
「知性は他者への応対にこそ現れる」と孔子も遺しており、「相手によって態度は変わらない」と考えるのは不自然だ。
そして、この考え方がより確かなものとなったのは、平野啓一郎氏の提唱する「分人主義」という概念を知ってからである。
人間の身体は、なるほど、分けられない individual。
しかし、人間そのものは、複数の分人に分けられる dividual。
あなたはその集合体で、相手によって、様々な分人を生きている。
アイデンティティやコミュニケーションで思い悩んでいる人は、一度そうして、状況を整理してみよう。
例えば。
会社の同僚用の自分・・・・分人A
大学の友人用の自分・・・・分人B
奥さん用の自分・・・・分人C
子ども用の自分・・・・分人D
といったように、「分人主義」は、これらすべてが「自分」で、自分の中のどの「分人」で接するかによって相手によって態度が変わる、というものである。
この本を読んだ時の納得感は半端じゃなく、これを知るとかなりの数の人が救われるのではないかと感じた。
ところが、実際には。
「相手によって態度を変える人が嫌い」といった主張は昔も今もよく見られ、
言い換えるるとこれは「分人主義が嫌い」となるのではないだろうか。
最近もツイッターを見ていたらしたのような投稿を見かけた。
経験上、このように言う人が世の中には一定数いるわけだが、なぜここまでして「相手によって態度を変える人」を嫌うのだろうか?
この理由については思うに、
「嫌いだ!」と叫ぶ人が、応対した「相手によって態度を変える人」に「親切心」を感じることがなかった。
からなのではないかと。
私は幸運にも、社会人になったばかりにこれを学ぶ機会に恵まれた。
「相手によって態度を変える人」が以前は嫌いだった
会社に入ってまず驚いたのは、相手によって態度をあからさまに変える人がそれなりの数存在していたことだった。
その人たちは、役員や上司に対してはおべっかを使ってヘコヘコしているのに、
プロジェクトメンバーや部下に対しては、
「もっと早く言ってくれよ!」
「なんでそんなこと俺がやらなきゃならないんだ!」
「あーもう面倒くさい!」
といった具合に、あからまさに雑な態度をとっていたのだ。
まだ入社したばかりだった私は、直接的に関わることがなかったため「無害」ではあったのだが、見ていて気持ちがいいとは思えなかった。
要は、そういう類の人たちが嫌だったし、出来ることなら関わりたくなかったのだ。
つまり、私も「相手によって態度を変える人」が嫌いだった。
「仕事だから」で片付けられるほど、鋼の精神を持っていたわけでもなく、
この先「あーいう人たちとも仕事をしないといけないのかあ」と思うと、憂鬱な気分になった。
ところが私は、とある人の助言によって救われた。
そのとある人とは、
同僚でもなく、大学の先輩でもなく、友人でもなく、
新宿のとあるワインバーで偶然知り合った「コンサルティング会社」の方だった。
相手が感動したり喜ぶことをしてあげることに尽きる
その人を「Bさん」と呼ぶとしよう。
Bさんは、赤の他人の私の話をとても丁寧に聴いてくれた。
お酒を飲んで気分を良くしたからではなく「もともとそういう人」のように私は感じた。
私はその場を借りて、Bさんに思い切って悩みを打ち明けてみた。
「相手によって態度があからさまに変わる人が社内にいるんですけど、そういう人とはどうやって関わっていくのがいいんでしょうか」と。
するとBさんは、
「あーなるほど、俺の会社にもいるけど、そういう人は損得感情で動いているタイプだね。要は、とても計算高い」
と述べた。
「もう少し詳しく教えていただけますか?」
そう私が言うとBさんは、
「つまりそういう人って、役に立つと思う人には丁寧に接するし、役に立たないと思う人は雑に扱うんだよ」
「だから、そういう人たちとうまくやるためには、「自分にやさしく接しておくと得ですよ」ってことをアピールするのが最も効果的。というかそれ以外にないと思うな」
と教えてくれた。
そして、すぐにでも若手の私がができることとして、
・その人の仕事に役立ちそうな情報を提供する
・その人から頼まれた「つまらない」「スキルのつかない」下積み仕事をまじめにやる
・合コンなどをセッティングしてその人を誘う
などを具体例として挙げてくれた。
つまり、Bさんが教えてくれたことは、
シンプルに言うと「相手が感動したり、喜ぶことをしてあげることに尽きる」ということだったのだ。
「これが世渡り術というものか」
と感じたのを私は今でも鮮明に覚えている。
「親切心のない、相手によって態度を変える人」は、嫌われる
そして、Bさんは、
「そういう人は、役に立つ人間だと思えば賢いから打算を働かせて、雑な態度を取ることはないからね」
「でも逆に、こいつは役に立たない、無能だ、と認識するとそういう人に対しては徹底的にひどい扱いをしてくるから気を付けた方がいい」
と続けた。
まさに私が社内で感じていたことそのもので、非常に納得感があった。
「ちなみに言うと、そういう人はめちゃくちゃ嫌われるので、絶対に目指してはいけないよ」とBさんは補足して教えてくれた。
つい最近になって知ったのだが、
「相手によって態度を変える人は嫌われる」というのは、「スライム効果」と呼ばれ、科学的な実験によって証明されている。
オランダにあるライデン大学のルース・フォンクは、人によって態度を変える人ほど嫌われることを「スライム効果」とよんでいる。
こういうタイプは、「だれに対しても冷たい」人よりも嫌われる傾向があるという。
フォンクは、「ポール」という架空のミドル・マネジャーの記述をつくって、それを56名の大学生に読ませてみた。
ポールの記述には、「だれに対しても親切」「だれに対しても冷たい」「上司にはよい顔を見せ(コーヒーを持っていったり)、部下には冷たい態度をとる(困っていても無視したりする)」といったものがあった。
ポールの好意度を7点満点でつけてもらったところ、つぎの結果になった。
だれに対しても親切 6.00
だれに対しても冷たい 2.23
相手によって態度を変える 2.08
このデータからわかるとおり、いちばん嫌われるのは相手によって態度を変える場合なのだ。
私がこの本を読んで驚いたのは、「だれに対しても冷たい人」よりも「相手によって態度を変える人」の方が嫌われるという点だった。
再び、Bさんとの話に戻そう。
私はBさんに率直に尋ねた。
「でも、ぶっちゃけ、人は誰でも相手によって態度を変えると思うんですけど、嫌われる人と嫌われない人の違いって結局何なんでしょうか?」
するとBさんは、
「なるほど。きっとそれは相手に対する親切心があるかないかじゃないかな?」
と教えてくれた。
「親切心ですか?」
と私が言うとBさんは、
「そう親切心。つまり、相手に思いやりを持つってことだよ」
「例えば、もし厳しいことを言われても、その人から大切にしてもらえていると感じることができれば、自分のことを思って言ってくれているんだ、となると思わない?」
「でも逆に、大切には思ってもらえていないと感じると、同じ内容であったとしても、この人自分の時だけ全然態度が違うじゃないかと嫌な気分になるでしょ?」
Bさんの話を聴いて、私は「なるほど、そういうことか」と膝を打った。
この時Bさんに教えてもらったことは、「相手によって態度は変えても、誰に対しても親切であろうと努める」という行動規則に組み込まれ、今もなお生き続けている。
というか、親切心がある人ならば、相手によって態度を変えることはあっても、あからさまに態度を変えるようなことはするはずがない、というのが今の私の結論だ。
このようにして私は、
「相手によって態度を変える人」が嫌いという人が、本当に嫌っているのは
「親切心のない、相手によって態度を変える人」だったことを学んだ。
Photo by Ehimetalor Akhere Unuabona on Unsplash
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術・時間管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション。
推しの漫画は、ジャンププラスで連載中の「ダンダダン」で、「ターボババア」という現代妖怪に心とアソコを奪われそうです。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
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