助詞、助動詞の使い方に注意を向けると、文章は上手くなる。
昨年末に幾つかの本を読んだのだが、その中に大変満足度が高かった一冊がある。
本の読み方 ースローリーディング
著者は芥川賞作家として知られる平野啓一郎さんだ。
「マチネの終わり」の人、あるいは「私とは何か」の中で説かれている「分人主義」の人といえばピンとくる人も増えるのではないだろうか。
本書は2019年と今から思うと少し前に出版されていたものなのだが、今このタイミングで読んだ私には激しく刺さった。
「芥川賞作家の方は一体どんな本の読み方をするのだろうか?」
こういう興味で読み始めたところ、本当に刺さるところのオンパレードとなった。
電子書籍のハイライト部分が渋滞しててしまい、後で整理をしておかなければといった具合である。
以前「スローメディア」について言及した記事を書いたことがあったが、これも間違いなく影響しているだろう。
参照:「スローメディア」を支持する時間の経過と共に「自分のスローメディア化」が着々と進んでいる話。
そんな本書の中から、ここでは「助詞、助動詞の使い方に注意を向けると、文章は上手くなる。」という考え方について触れていきたい。
本はゆっくり読みましょう
本書における平野さんの主張をシンプルにまとめると「本はゆっくり読みましょう」である。
「速読は、読書を読み終わった時点で終わらせてしまう読み方である。」
「単に情報処理の速度を上げることが目的なら、読書は無意味だろう。」
「人間のワーキングメモリは少しづつしか情報処理ができないから、本を読むときに、速読で大量に情報をインプットしようとしても、そもそも無理がある。」
このように、速読に対しては当然ながらアンチの姿勢を幾つも示している。
そうして、本をゆっくり読むための心構えやテクニックを懇切丁寧に私に教えてくれた。
本書は途中から「実践編」に変わり、実際の小説を題材にスローリーディングの実践ができるようになっている。
例えば、以下のような小説が題材だ。
夏目漱石「こころ」
森鴎外「高瀬舟」
カフカ「橋」
三島由紀夫「金閣寺」
川端康成「伊豆の踊り子」
この実践編が私にとってはなかなかに困難を極めており、スローリーディングの思想や技術は頭では分かったものの、実際にやるとなると大きく違うことを強く実感している。
自分の鍛錬のためにも現在進行中で粘り強く取り組んでいる状況だ。
意味の上で重要なのは助詞、助動詞
話を「助詞、助動詞の使い方に注意を向けると、文章は上手くなる。」について戻そう。
この考え方は本書 第二部 スローリーディングのテクニック編の中に登場する。
該当の箇所を以下で少しだけ引用してみたい。
文章のうまい人とヘタな人との違いは、ボキャブラリーの多さというより、助詞、助動詞の使い方にかかっている。
やたらとたくさんの単語が使われていても、ちっとも胸に響かない文章もあれば、「ボキャ貧」であっても、妙に説得力のある文章もある。
動詞や名詞を生かすも殺すも、助詞、助動詞次第である。
助詞や助動詞が不正確な文章は、留め金がゆるんだ建物のようなもので、いくら建材(ボキャブラリー)が贅沢でも、見た目にも、また安定性という観点からも、大いに難アリである。
読まれてみていかが思うだろうか?
今日までなんとなーく頭の中にあったことが見事に言語化されており、私にはこの部分が本当に大きく刺さった。
例えば、
「私はリンゴが好きである。」
という文章と
「私はリンゴが好きではある。」
という文章にはニュアンスに違いがある。
前者ははっきりとした断定であるのに対して、後者はそれに比べて若干の留保が感じられる言い回しだ。
誰が読んでもお分かりの通り、この文章において意味の上で重要なのは「は」「が」「である」そして「は」「が」「ではある」となる。
前者の人にはリンゴをプレゼントすれば素直に喜んでもらえるだろう。
しかし、後者の人にはリンゴ以外の果物をプレゼントした方が喜んでもらえる可能性は高い。
平野さん曰く「速読」はこの「意味の上で重要な助詞、助動詞」を見落としてしまうがゆえに、やめた方がいいということだった。
私はこの考え方に大きく膝を打った。
文章が上手くなりたいと思う人に向けたメッセージ
そして、平野さんは以下の言葉でこの考え方を締めくくる。
文章が上手くなりたいと思う人にとってこれほど効果的な取り組みはないのではないだろうか??
少なくとも私はそう感じた。
ちなみに、文章がうまくなりたいと思う人は、スロー・リーディングしながら、特に好きな作家の助詞や助動詞の使い方に注意することをおすすめする。
それでリズムがガラリと変わるし、説得力も何倍にもなる。
また、メールのような短い文章を書くときにも、助詞や助動詞への配慮は、相手への印象をまったく違ったものにするだろう。
最近たまたま見かけた以下のXの投稿もこれに関連する内容になるのだろう。
私はここ1週間くらい、今後、自分の文章を上手くしていくために、いくつかの文章に目をあらためて通すなどして、どの方の助詞や助動詞に使い方に注意していこうかを深く考えていた。
この結論としては、平野啓一郎さんの文章が自分にとってのお手本になると感じたため、当面の間は平野さんの文章を参考にしながら磨いていきたい考えでいる。
本書にはこの他にもご紹介したいと思える考え方やテクニックが多数あったため、折に触れて記事にしていきたい。
UnsplashのSibel Yıldırımが撮影した写真
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車
アラフォーになってようやく、はっきりと助詞、助動詞を意識するようになりました。
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
会員登録していただいた方に、毎週金曜日にメールマガジン(無料)をお届けしております。
「今週のコラム」など「メールマガジン限定のコンテンツ」もありますのでぜひご登録ください。
▶︎過去のコラム例
・週に1回の長距離走ではなく、毎日短い距離を走ることにある利点
・昔の時間の使い方を再利用できる場合、時間の質を大きく変えることができる
・医師・中村哲先生の命日に思い返した「座右の銘」について
メールマガジンの登録はコチラから。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
これからもRANGERをどうぞご贔屓に。