田中 新吾

仕事で、成果を出すためには「仲間を作ること」が重要だと学んだ話。

マーケティング会社にいた頃、成果を出すために必要なことを学んだ。

様々なものがあったが、その中でも群を抜いて重要だったものは「仲間を作ること」だった。

「仲間」というのは「成果を出すために力を貸してくれる人達」のことである。

もう随分前のことだが、私にとっては思い出深いエピソードとなっている話をしてみたい。

入社して2年目になった確か6月頃だったと思う。

それは一部上場IT企業のマーケティング支援のプロジェクトでのことだった。

このプロジェクトは、見込み顧客を集め、その見込み顧客を既存客にし、その既存客をリピート客にするという一連の流れをトータルで支援するものであった。

平たく言えば「客寄せ」の企画と運営である。

デジタルでもリアルでも複数の施策を同時並行で走らせた。

リアルでは特に「展示会」や「セミナー」といった施策から見込み顧客を集めることに励んだ。

いずれの場合にしても、企画、制作進行、当日運営までを私は何度か担当した。

そして、顧客の要望の中には「集めた名刺をすぐにリスト化されたデータにして欲しい」というものもあった。

見込みのある顧客に、素速く来場の御礼とお役立ち情報を送り、見込みの度合いを上げたい。

その要望の重要性は、私にもすぐに理解できた。

しかし、納品期日のオーダーは極めて厳しい条件だった。

東京ビッグサイトなどで行われる展示会の場合、多くのものが水曜日からはじまり「金曜日」に終了する。

私が担当したものもこれに該当した。

そして、顧客のオーダーは、

「会期終了後、翌週月曜日までにリスト化されたものが欲しい」

であった。

初めて迎える展示会の事前準備をしていた時。

外注すれば名刺をリスト化してくれる会社は複数社探すことができた。

だが、顧客のタイトな要望に応えられるところは私が探した限り一つもなかったのである。

検討の結果、「私が」やることに。

展示会の会期終了後、準備していた名刺をデータ化するためのスキャニングツールを用い、一枚づつ名刺を通してデータ化していった。

だが、ご想像の通り当時のスキャンの読み込み精度はそれほど高くなく、判読が難しい情報(例えば漢字)は頻繁に読み込みエラーが生じた。

そんなことがあった為、実際の名刺との照会を要した。

そもそも読み込みスピードも遅い。

当然、リスト化されたデータに間違いがないか、納品前に再度チェックをする必要もあった。

このような状況をふまえて。

「休日出勤1日」を使えば「1人」で月曜日に納品ができる、という作業見積もり私は予めをしていた。

ところがである。

展示会終了後、蓋を開けてみると想像以上の数の名刺が集まってしまったのだ。

それでも、作業見積もり1日だったところを「2日」に増やせば問題はないだろうと私は踏んだ。

しかし、この見積もりも誤算だった。

結局、すべての名刺の読み込みを終え、データ化を終えたのは日曜日の夕方。

それから誤りがないかのチェックを、膨大なリストにかけるには時間も私の気力も少なかった。

その時の「絶望感」は今でも忘れない。

「これは正直キツイな・・・」

そう思っていた時、ふと同じフロアを見渡すと私と同じく休日出勤をしている一人の男性(Eさん)の姿が目に入った。

Eさんとはそれまで直接話したこともなければ仕事をしたこともない。

だが噂では「データ処理」のような実務をかなり得意としているとは聞いていた。

一縷の望み託し、私は意を決してEさんに声をかけた。

「すいません、この2日間で名刺のリスト化をしていたんですが、できたデータのチェックと、見やすいように並べ替えたり少し編集する必要がありまして、、明日納品をしなければいけないのですが1人でやるには量が多すぎて、少しでも手伝っていただくことはできないでしょうか?」

するとEさんは、

「どんなデータか見せてもらえますか?」と言った。

私はすぐさまデータを提示した。

すると「なるほどこのチェックと編集ですね」とEさんは言い、続けて「今ちょうど手が空いていたので僕やっちゃいますよ。データ送ってもらえますか?」と私に返した。

この時Eさんに向けて私が発した「ありがとうございます!!」は、その時の状況も相待って今でもよく思い出す人生のハイライトの一つとなっている。

Eさんにデータを送ってから1時間後くらいだったと思う。

「チェック終わりました」というEさんからのメールを受信。

「え、もう出来たの?」と私は喫驚した。

パスワードを入れファイルを開けると、私の望みの通り、見やすくバッチリ編集されたリストが目の前に現れた。

「どうやってやったんですか??」と聞くと「これをこうやってあーやって」とEさんは説明してくれたが、当時の私には何を言っているのかがよく分からなかった。

とにかく色んなテクニックを駆使してくたのだろうと私は思った。

そして、私はその日のうちに完成した名刺のリストを先方に送付をし無事納品。

月曜日になり、顧客から連絡をもらったが内容も問題ナシということだった。

私はまさに九死に一生を得たのだった。

この件を通して私は、

仕事における「仲間を作ること」の重要性を身をもって学んだ。

思うに、ほとんどの仕事というのは、どんなに小さな成果も一人の力で出せるようにはできていない。

二人以上がそれぞれの能力を持ち寄ることでようやく成果に結びつく。

そして、大きな成果を出すためにはより多くの力を結集させる必要があるのだ。

そうした時に、重要になってくるのが成果を出すために力を貸してくれる「仲間」の存在。

成果を出すために必要なことは様々にあるが、そもそも「仲間」の存在がなければ話にもならない。

思うに、「自分一人でできる」「自分一人でやらなきゃ」と思っていた当時の私のような人は、いつまで経っても成果を出すこととは無縁の人生になってしまうのだろう。

話は変わるが、私には勝手に「メンター」にしている人が何人かいる。

個人的に思うに、メンターというのは実際に会ったことがある人だけに限る必要はない。

自分が「この人をメンターにする」と決めて自ら取りにいく、それだけだ。

スタジオジブリのプロデューサーである「鈴木敏夫さん」はそのうちの1人で、彼の書いた事、話した事をチェックすることは頻繁にやっている。

鈴木さんのミッションは「監督が作る作品の内容を伝える」こと。

要するに「宣伝」だ。

打ち立ててきた観客動員数を並べれば、彼が傑物であることは一目瞭然。

・もののけ姫(1997年)1420万人

・ハウルの動く城(2004年)1512万人

・千と千尋の神隠し(2001年)2640万人

この実績に対しては「魔法」や「手品」と、言う人も多いのだという。

しかし、彼は言う。

魔法でも手品でもなく「リアリズム」を突き詰めた結果であると。

例えば、こんな話がある。

2002年に「猫の恩返し」という映画が公開された。

結果は「64億円」という興行収入で、周囲からは「普通にやったら20億円の作品なのにこれはもう手品ですね」と言われたそうだ。

それに対して、鈴木さんはこのように語っている。

僕にいわせれば、それは手品でも何でもなく、やるべきことを具体的に一つひとつ積み重ねていった結果なんです。

たとえば、日本テレビと組むことで何が起きたか?テレビスポットなど直接の効果もありますが、むしろ僕が注目したのは、関わってくれた人間の数でした。

直接の窓口となる映画部のメンバー、さらに、バラエティやワイドショーなど、各番組のスタッフを合わせると、おそらく100人はいるでしょう。

さらに、日本テレビには系列局が全国に28局あります。

制作から営業まで含めて各社100人社員がいるとすると、合わせて2800人。

関連する制作プロダクション、広告代理店。さらに新聞、雑誌、ラジオなど、他のメディア関係者も含めると、軽く1万人ぐらいが1本の映画の宣伝に携わることになります。

また宣伝協力をしてくれるタイアップ企業の存在も抜きには語れません。

たとえば、ローソンは全国に約1万2000軒もの店鋪があります。

各店10人の従業員・アルバイトがいるとして12万人。

読売新聞の場合は販売店が約7000軒ありますから、仮に5人ずつとして3万5000人。

一時期はタイアップしていた郵便局であれば、全国に24万人もの局員がいました。

それらを合計すると、40万人もの人々がジブリの映画を応援してくれることになります。

彼らが家族や友達といっしょに、たとえば3人で映画館に来てくれるとしたらどうなるか?

120万人の観客動員が見込めるのです。

(中略)

僕はそういった具体的な数字をもとに、観客動員というものを考えてきたのです。

(太線は筆者)

(出典:ジブリ大博覧会 〜ナウシカからマーニーまで〜 会場販売パンフレット)

宣伝とは、メディアに広告を出す仕事。

一般的な認識こうかもしれない。

しかし、鈴木さんの考えはそれとは異なる。

彼に言わせれば、宣伝という仕事は「映画を応援してくれる仲間を一人ひとり、地道に増やしていく作業」が本質というのだ。

もののけも、ハウルも、千と千尋もすべてこれをやってきただけ。

そこに抽象的なことは何もない。

地道に仲間を増やし、数字を積み上げていったリアリズムの極致ということなのだ。

私はこの話を知って、

宣伝の神様のような人も、仕事において「仲間を作ること」を最重要視しているのか。

そう思い「仲間の重要性」に確信を得る形となった。

話は冒頭のEさんに戻る。

あの一件依頼、私は名刺のリスト化をする必要がある場合は、あらかじめEさんに相談し協力をお願いするようになった。

それによって最初の時と比べ業務効率は飛躍的に上がり、同時に変な負担も減った。

後になって知ったことだが、Eさんは開○高校出身。

あのスピードとあのクオリティ、目から鼻に抜けるような感じ。

「どおりで。」と思ったのは今でも鮮明に覚えている。

人という社会的な動物は常に仲間を得ようと必死だ。

例えば、誰かをやり玉にあげた「悪口」や「噂話」、「おべっかを使う」などもそれによって仲間を得ようとしている行為と言えるだろう。

しかし、仕事で成果を出すために力を貸してくれる仲間というのはこういう手口ではできるはずもない。

私にはあなたの力が必要です。だから力を貸してくれませんか?

このように実直にお願いする。

そして、わざわざ力を貸してくれた人にはきっちり「感謝」して「御礼」を伝える。

本当に力を貸してくれる仲間というのは、こうする事以外には作れないのだと私は思う。

いい仕事をして、いい成果を残す。

そのための「いい仲間」に出会えるように、これからも鋭意励んでいきたい。

Photo by Markus Spiske on Unsplash

【著者プロフィール】

田中 新吾

ジブリ大博覧会は盛岡で観たのですが、王蟲の造形のクオリティが高くて今でも目に浮かびます。

幅を愉しむWebメディアRANGER(http://ranger.blog)を設立・運営中。複数の立場で、企業・地域・個人の商品開発と集客を支援中。元マーケティングファーム。詳しいプロフィールについてはこちら

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