田中 新吾

「課題」と言いながら「問題」になっている人についての話。

4年くらい前の話なのだが、お客さんから「社内向けの提案資料にアドバイスをもらえないでしょうか?」という相談を受けることがあった。

私に断る理由はなかったので相談に乗ることにし資料に一通り目を通した。

その中で、私が最も気になったのが「課題」が書かれた部分だった。

何かというと「課題」と言いながらも「問題」になっていた、のである。

その内容を直接的に書くのは問題がありそうなので別の例をいくつか挙げてみたい。

例えば、

・課題は、顧客へのフォローが確実に行われていないこと

・課題は、ついつい食べ過ぎてしまうこと

・課題は、目標とする今月末の一斉リニューアルオープンに対して、計画通りに進捗していないこと

という具合だ。

いかがだろうか?

何か違和感を感じるだろうか?

私の経験からいくと、これらはいずれも課題ではなく「問題」である。

したがって、私であれば、

問題は、顧客へのフォローが確実に行われていないこと

問題は、ついつい食べ過ぎてしまうこと

問題は、目標とする今月末の一斉リニューアルオープンに対して、計画通りに進捗していないこと

というような修正をする。

なぜか?

「問題」というのは「目標と現状のギャップ」で、「課題」というのは「そのギャップ(つまり問題)を埋めるために取り組むこと」だから、である。

そして、課題を設定する場合は「問題解決につながるための具体的な行動」でなければならない。

少なくとも私は昔このように学んだ。

したがって、前述の

・問題は、顧客へのフォローが確実に行われていないこと

に対して言えば、例えば、以下のようなものが「課題」となってくる。

・課題は、顧客へのアフターフォローの流れを見える化する

・課題は、フォローに必要なことをチェックリストにする

・課題は、フォローできているかどうかのチェックを毎週の営業会議で必ず行う

そして、私の観測の範囲であるが「課題と言いながらも問題になっている人」の存在は意外に少なくなかった。

前職の時に関わりのあったKさん。

クライアントでT社のSさん、N社のTさん。

こんな具合にこれまでちょくちょく遭遇してきたのだ。

つい最近もある人から提案を受けることがあったのだが、その人もこのタイプだった。

そして何を隠そう、私も元々は「課題と言いながらも問題になっている人」であった。

ところが。

今はその区別ができる。

そして、区別できていないものを見かけると非常に気になってしまう。

一体なぜ私は課題と問題を区別できるようになったのか?

課題と問題が区別されていないことに気づくようになったのか?

これをあらためて考えてみると二つほど理由が思い浮かぶ。

一つは前職で「課題と問題は違う」を学んだこと。

もう一つは同じく前職で「似たような言葉を区別することの重要性」を教えてもらったからである。

特に後者は有用だったと今思うのだ。

「製品」と「商品」の違い

少し話は変わるが、私が「似たような言葉を区別することの重要性」を強く意識するようになった時のエピソードをご紹介したい。

先日、部屋の片付けをしていたら就活時代の痕跡が出てきて、それを眺めながら当時のことを色々と思い返していた。

私は理工学部の学生だったのだが、販売促進のアルバイトを通して広告・マーケティングの仕事に興味を持ち、そういう仕事に携われる会社にエントリーをいくつかしていた。

前職のマーケティング会社はその中の一つだった。

その出会いは今も鮮明に覚えている。

当時学生だった私は、リクナビを眺めていて「なんとなく面白そう」と思い説明会に申し込んだわけだが、同日、実はその会社の説明会の前に「別の会社の説明会」も入れていた。

しかし、朝寝坊をしてしまいその会社説明会に参加することができなかったのだ。

罪悪感を感じた私は「もう一つの方にはいかなければ・・・」と思い、会場へ赴いたのである。

もしも、この順番が逆だったとすれば私は前職に出会っていなかったのだ。

スタンフォード大学の教授で、キャリア論の研究で有名なジョン・D・クランボルツ教授の研究によれば「人生の8割は計画した通りにはいかない」という。

これについて私は「人生の8割は計画した通りにいかないのかもしれない。でも、計画した通りにいかない方が良いことは結構ある」というような解釈をしている。

そして、会社説明会で圧倒的に印象に残っているエピソードといえば、社長がしてくれた「製品と商品の違い」の話になるだろう。

前方に立った社長は私たちに、

「商品と製品の違いはなんだと思いますか?」

という質問を投げかけてきた。

ポツリポツリと回答があったが社長の反応を見るにどれも的を得ていなかった。

かくいう私に関しては答えることもできなかった。

すると、社長はおもむろにとある会社の「ペットボトルのお茶」を取り出し、ベリベリーッとそのパッケージを剥がし始めたのだ。

すると「これが製品です」と言った。

そして、パッケージを剥がす前のペットボトルをもう1本持ってきて「これが商品です」と言った。

私も含むその会場にいた誰もがそのプレゼンテーションに大きな納得感を得ていたようだった。

社長は続けた。

「製品というのは「製造したモノ」のことです」

「つまり、製品は売れるか売れないかはまだ関係がありません」

「「良い製品」というのは製造した人にとって良いのであって、買う人にとって良いかどうかは分からない状態です」

「これに対して、商品は買い手がいることが前提となっているモノのことです」

「だから、良い商品というのは買い手にとって良いことを意味しているわけです」

「でも「どんな風によいのか」が買い手に分かってもらえないと買ってもらうことはできないですよね?」

「良いかどうかを理解してもらえなければそれは商品にはならず製品にすぎないということです」

「何が言いたいか分かってきましたかね?」

「要するに、商品というのは「製品+コミュニケーション」のことなんです」

「コミュニケーションがなければ商品にはなりません」

こう言って、再びパッケージの剥がされたペットボトルのお茶とパッケージが付いたペットボトルのお茶を私たちの前に出した。

そして社長は、私たちの会社はこういう「商品開発」のお手伝い、つまり買ってもらいたい人に買ってもらえるようなコミュニケーションの開発のお手伝いをしたりする会社です、と教えてくれた。

これ以外にも「なるほど!」と思うことが多く、私にとって社長のプレゼンテーションは遥かに大きな価値があった。

説明会終了後、私は数回の選考を経てこの会社に入社することとなった。

入社を決めた理由はそれこそいくつかあるが、社長が説明会の時にしてくれた「製品と商品の違い」の話がフックになったことは間違いない。

そして、現在は自分が誰かに話す一つのネタとして有難くストックさせてもらっている。

そして私は「似たような言葉を区別することの重要性」をこの時から強く意識するようになったのである。

使用する言語の影響により物の捉え方が変わる

話は冒頭の「課題と言いながらも問題になっている人」についてだ。

思うに、課題と問題の区別ができるようになるためには、その違いを自覚して自ら考えていく以外に方法は、ない。

しかし、逆に言えば自覚して考えるようにしていけば誰でも区別ができるようになる。

実際、社内向けの提案資料についてアドバイスを求めてきたお客さんに、その違いを伝えたところいい感じに修正がかかり、プレゼンもうまくいったという話を後日もらった。

話は変わるが「メッセージ」という映画をご存知だろうか。

この映画のストーリーを簡単にご紹介する。

地球上に突如降り立った巨大な宇宙船に乗る謎の知的生命体。

彼らと意思の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者が物理学者とともに、彼らが人類に何を伝えようとしているのかを探っていく。

謎の知的生命体とのセッションや彼らが使う表義文字はまさに禅の世界観。

音響効果賞にノミネートされた作品とあってサウンドデザインもよかった記憶だ。

そんなメッセージの物語の中盤に「サピア=ウォーフの仮説」という話が登場する。

これは「話す言語がその人の考え方を結成する」というものである。

すなわち、サピア=ウォーフの仮説とは「使用する言語の影響により物の捉え方が変わる」という説であると言えるだろう。

課題と問題の話もまさしくこれだ。

課題と問題の使い方をきっちり仕分けできているからこそ、適切に「問題」の発見ができるようになり、適切に「課題」の設定ができるようになる。

きっちり仕分けができていなければ、いつまでたっても事物の捉え方は漠然とし、問題の発見も課題の設定も適切にはならない。

したがって一向に問題解決は進捗しないだろう。

こう言うと「細かいなー」と思うひともいるかもしれない。

だがこれまでの経験から思うに、こういう細かいところこそが仕事のアウトプット(成果)に大きく影響する。

今の私はそう思うのだ。

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【著者プロフィール】

田中 新吾

映画「メッセージ」は、世界絶賛の感動ドラマに「ジェレミー・レナー」が出演していた作品というのもあって結構記憶に残っています。

プロジェクトデザイナー/ブロガー/ポッドキャスター。プロジェクトネーミングを起点にプロジェクトチームの運営をするのが得意です。元マーケティング支援会社。複業実践中。詳しいプロフィールはHTML名刺をご覧ください。

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