大事なことは美しく見える角度(黄金視)を追求していくこと。
先日、NHKオンデマンドでヒューマニエンス 40億年のたくらみ「“左と右” 生命を左右するミステリー」という回を観た。
この回、興味深い話のオンパレードだったのだが、中でも特に個人的に印象に残ったのが「左側を見せたがる人類」という話題だった。
以下、その内容をダイジェストでご紹介したい。
・脳の右側が、顔の左の表情の筋肉を動かすことで、表情が生まれてくる
・人は左右の腕と同じように、表情までも右脳と左脳で使い分けている
・モナリザをはじめとしたフェルメールの代表作、16世紀頃からの著名な絵画作品1,474作枚を調査した研究では、肖像画の68%が左側の顔を見せるポーズをとっていた
・「言葉を脳の左側で扱う」のなら、「コミュニケーションは分業して脳の右側で扱う」のは決して不合理な選択ではない
・逆に「権威や知性」を見せたい場合は、表情が現れない顔の右側を向ける傾向がある
さて、いかがだろうか?
この話を受けて「これからは写真に映る際に顔のどちら側を向けるかをしっかり意識しよう」と思ったのはきっと私だけではないはずだ。
私としてはデフォルトは左側。
場合によっては右側を見せるような形で写真に写りたい考えでいる。
そして、この番組の視聴後すぐに連鎖するように私の中でリンクしたことがあった。
「黄金視」という考え方である。
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「黄金視」という言葉ははじめて聞く人の方が多いのかもしれない。
「黄金比ではなくて?」と思った方もきっといるはずだ。
私はこの考え方を、以前も記事の中でご紹介したことのあるデザイナー秋田道夫さんの著書の中で最近になって知った。
参照:「服装は出会った人へのプレゼント」という考え方を知って、年をとってもちゃんとお洒落をしていこうと思った。
以下で該当の箇所を引用してみる。
ものを美しく見せるための技法の一つとして「黄金比」という言葉は、ご存知でしょう。
ギリシャのパルテノン神殿もこの比率でできているそうですが、人の目に美しく感じるプロポーションを導く手法の一つです。
価値を効果的に引き出す比率のことです。
私が考えるのは「黄金比」ではなく「黄金視」という考え方。
つまり見る側の工夫によって、ものを美しく見る角度があるのではないかということです。
黄金比によって精緻につくられたものであっても、見る角度によってはその美しさが変わってしまう可能性もあります。
逆に言えば美しく見える角度を探り当てることが大切かなと思います。
自ら美しさを「見に行く」わけです。
この部分に強く感銘を受けてしまい以下のとおりXにも投稿をした次第だ。
デザイナーの秋田道夫さんが提唱されている「黄金視」という考え方がとても好き。黄金視とは見る側の工夫によってものを美しく見る角度があるという考え方。「黄金比」によって作られたものであっても見る角度によってはその美しさは変わってしまう。大事なことは美しく見える角度を追求していくこと。
— 田中新吾|ハグルマニ (@tanashin115) June 12, 2024
その定義・考え方もさることながら「黄金視」というネーミングが極めて素晴らしい。
私もネーミングの仕事をする時があるのだが、この名付けのセンスには正直言って強く嫉妬をした。
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冒頭の<左側を見せたがる人類>と、秋田さんの「黄金視」という考え方をふまえて思うのは、物事は見る角度によって感じる価値が全く違うということである。
そして「人間の顔の左側」のように物事には必ずや美しいと思える「黄金視」がある。
私はアラン・ライトマンという宇宙物理学者のエッセイが集められた「宇宙と踊る」という本が好きだ。
この本をはじめて読んだ時、私は「こんなにも文章が上手い科学者がいたのか!」とちょっと戸惑うくらい感銘を受けてしまった。
思うに、集められたエッセイはどれもこれも粒ぞろいと言って言い過ぎではない。
特に私が触発されたのが冒頭にある「パ・ド・ドゥ(二人の舞踊)」というエッセイだ。
以下、一部を引用する。
やわらかな青い光のなかでバレリーナは滑るように舞台を横ぎり、つま先をわずかに地球にふれて飛び上がる。
ソナー、バットリー、ソテー。両足が交差し、羽ばたき、両腕がひらいてアーチを作る。
バレリーナは知っている ー よい演技をだいなしにするいちばんの早道は、自分の身体の動きを意識しすぎること。
それよりも、長年のあいだ毎日欠かさずつづけてきた練習と、力とバランスを理解している筋肉そのものを信じたほうがいい。
彼女が踊るあいだ、自然は完璧に、絶対の信頼性をもって自分の役割を演じている。
ポアントでは、バレリーナの体重がシューズにかかる床の圧力とぴったり釣り合い、相手の力に等しい力がそこにはたらいて、接触した分子が正しくひしゃげてくれる。
重力が電気力と釣り合う。
地球の中心からバレリーナとの接点を通過してさらにその上へと、目に見えない線が伸びている。
ライトマンは、「バレリーナ」の動きを力学の観点から分かりやすく説明した後、バレリーナのジャンプの反作用で「地球」もごくごくわずかだけ軌道を変えているのだ、と実にエレガントに結ぶ。
このエッセイを読み終えた時、私には付けられたタイトルの意味もよく分かった。
バレリーナはある意味で「地球と二人で踊っている」のだ。
実に美しい見方ではないだろうか?
そして今思うのは、これも「黄金視」と言っていいのではないかということ。
私たちは日常の中で多くの物事を見過ごしがちだが、その見方や視点を変えるだけで、新たな発見や美しさに気づくことができる余地はまだまだある。
日常の何気ない瞬間に、少しだけ意識を向けてみる。
そうすることで、普段は気づかない美しさや価値を見出すことができるかもしれない。
冒頭の番組と「黄金視」という考え方を通じて、私は自身の視点や意識をより豊かにし、日常の中での発見を楽しむことの大切さを改めて感じたところである。
皆さんも、自分なりの「黄金視」を見つけて、日常の中で新たな美しさを発見してみてはいかがだろうか。
今回の記事が何かの参考に少しでもなれば嬉しい。
【著者プロフィールと一言】
著者:田中 新吾
プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|プロジェクトデザイナー|タスクシュート認定トレーナー|WebメディアRANGER(https://ranger.blog)管理人|ネーミングの仕事も大好物|白湯の魅力や面白さをお伝えする活動もしています(@projectsau)
●X(旧Twitter)田中新吾
●note 田中新吾
秋田道夫さんの考え方はしっくりくるものが多いです。
実際にやられていることはどんどん真似していきたいと思っています。
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最後まで読んでくださりありがとうございます。
これからもRANGERをどうぞご贔屓に。
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