田中 新吾

外部の強大な力が自分の身体を通り抜けて発動するように、自らを「良導体」に仕上げていく。

タナカ シンゴ

最近、平日夜にしているランニングにおいて新たな視点が加わった。

何かと言うと「足を前方に運ぶ力は地面から得ている」という意識を持つようになったのだ。

「え、当たり前でしょ?」と思う方もいるかもしれないが、私にとってこの意識の変化はかなり大きい。

きっかけは元陸上競技選手の為末大さんが書かれた「熟達論」という本を読んだからである。

以下で該当の箇所を引用してみたい。

片足で立つことが基本なのは、走りの質がそこで決まっているからだ。走りは循環運動であり、すべての力は地面からもらっている。

ということは地面に力を加える接地の瞬間が、移動速度も足の軌道も決めている。  

走る行為を横から見ると、くるぶしが円のような軌道を描いている。

足は地面を踏み終わった後、次の着地の準備をするために前方に運ばれる。

この足を前方に運ぶ力は、地面から得ている。

ボールを地面に叩きつけると跳ね返ってくるように、足も地面を強く踏むと跳ね返ってくる。

もし十分に地面から力を得られなければ、地面の反力を利用できずに足を前方に引き出すことになる。

砂浜で歩くと疲れるのは、砂浜が反力を吸収してしまい自分の力で足を持ち上げなければならないからだ。  

十分に足を持ち上げられない時は、自分の足首を使って積極的に地面を蹴って力を補う。

足首で地面を蹴ると足が後ろに流れ、上半身ごと前に突っ込んだ姿勢になってしまう。

当然バランスが崩れてスピードは出なくなる。

しばらく運動していない大人が急に全速力で走ると前に転んでしまうのはこのためだ。

正直に言って、この視点を持つ前までの私は「いつものルートを一定のペースで走り切る」という頭しかなかった。

しかし、ここで加わった新たな視点によって「地面から得る足を運ぶ力を上手く使う」ということを意識しながら走るようになったのだ。

自ら力むのではなく、地面から得る力を上手く使うのとでは同じ「走る」でもその中身・質は全然違ってくるということを実感している。

そして、こんな風にランニングをする際の意識が変わった時、同時にふと思い出したことがあった。

それが「人間が発揮することのできる最も大きな力は人間の中に起源を持たない。」という話である。

この話は以前に内田樹さんの著書「武道論」を読んでいる中で知った。

心身のパフォーマンスが爆発的に開花するというのは、外部にある強大な力、誤解を恐れずに言えば、超越的な力が正しく調えられた身体を経由して発動するということである。

人間の身体はそのときある種の超越的な力の通路になる。  

人間が発揮することのできる最も大きな力は人間の中に起源を持たない。  

自分の外部にある力が、自分の身体を通り抜けるとき、人間は「人間を超えた力」を実現する。

人間を超える力の淵源は人間の外部にある。

この話がそうなのだとすれば、ランニングにおいては地面から得る力をいかにして身体を通り抜けさせて発動させることができるかという話になる。

そうすることで自分一人では決して発揮することのできない「走る」を実現することができるということ。

内田さんは著書の中で「自らをある種の「良導体」に仕上げることである。そのとき、外部の強大な力が自分の身体を通り抜けて発動する」と続けているが、私にはこの「良導体」という例えが非常にしっくりきた。

ここまで書いていてまたふと思い出したことは養老孟司さんが「自己とはトンネルのようなものである」と言っていたこと。

自分には個性がないと思う人には、今の自分を自分だって決めつけるな、とも言いたい。

自分なんて、いくらでも変わり、いくらでも広がる。   

現に、熱烈な恋愛から冷めてしまった後は、自分が相手に夢中だった時代のことはまったく理解できない。

なんであんなやつの尻を追っかけてたんだって……(笑)。

つまりそれは自分が変わったんですよ。気が変わったんじゃない。

自分なんてそのくらい変わりうるものだから、自分を固定したものと考えてもしょうがない。   

そもそも自分というものは、中身は空だっていう人がいます、昔から。

ドイツの若い哲学者のトーマス・メッツィンガー(『エゴ・トンネル 心の科学と「わたし」という謎』の著者)は、自己とはトンネルだって言っている。

トンネルは、中が空じゃないと電車も車も通れない。

存在するのは何かと言ったら壁だけという。同じようなことは老子にもある。

もし、部屋が空じゃなくて、ぎっしり物が詰まっていたら使えないだろうって。   

要するに、自己とは実体じゃない。この空というは仏教ですよ。

よくわからないって? まあ、ゆっくり考えてみてください。

養老さんの言うトンネル。

内田さんの言う良導体。

冒頭の為末さんの話。

それぞれが今私の中ではひと繋がりになったところである。

要するに、自分が社会のために大きな力を発揮するためにやるべきことは、自分自身を外部にある力をよく通す良導体、良いトンネルにしていくということ。

仕事にしてもランニングにしても、人間が力を発揮する必要のあるすべての部分において、この考え方は非常に重要な気がしている。

本件については自分自身を実験台に探求を続けていきたい。

今回書いておきたかったことはこんなところである。

UnsplashCompare Fibreが撮影した写真

【著者プロフィールと一言】

著者:田中 新吾

プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|プロジェクトデザイナー|タスクシュート認定トレーナー|WebメディアRANGER(https://ranger.blog)管理人|ネーミングの仕事も大好物|白湯の魅力や面白さをお伝えする活動もしています(@projectsau

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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