田中 新吾

「多忙」も「忙しいアピール」も別にいいけど、「マルチタスク」は今すぐやめた方がいい。

タナカ シンゴ

少し前に読んだ、ライターの武田砂鉄さんの記事が面白かった。

誤解を恐れずにいうと、

日常生活の中にもよくある「目立てば勝ち」戦略は、政治家がテレビに露出すれば「頑張ってる」と言われる風潮と同じ

そして、橋下徹氏や今の維新首長はそのことをよくわかってメディアを使っているでも「頑張ってる」という指標で評価していいんだっけ?

このような内容だと私は解釈した。

そもそも、「頑張ってるかどうか」を指標にするべきではないのだが、首相も都知事も含め、「どう目立つか」というチャンネルを重視しすぎている

「テレビにたくさん出ている」と「まとまろうぜ、と言っている」の掛け算を、たちまち「頑張ってる」とするのは危ういと思う。

この部分、まったくの同感だ。

世の中には「忙しいアピール」をする人が一定数いる

さて、この記事の冒頭にある「忙しい」には、私も思うところがある。

例えば、大学生の頃。

「昨日は2時間しか寝てなくて」

「アルバイトを3つ掛け持ちしてて」

「忙しそうだね?」と聞くと「いやー忙しい!」と返してくる。

大学やアルバイト先で「忙しそうにする人」と結構会ってきた。

社会人になってからはさらに増えた。

例えば、マーケティング会社にいた頃。

社内をバタバタと走るように動き回る「忙しそうにする人

「今、忙しいですか?」と尋ねると、「忙しいから後にして!」といつも「忙しそうにする人

毎日のように夜遅くまで残業をしている「忙しそうにする人

会議中なのに電話がきたからと、電話に出る「忙しそうにする人

飲み会に毎回遅れてくる「忙しそうにする人

思うに、この世の中には「忙しそうにする人」がかなりの数で存在している。

そして経験上、「忙しそうにする人」は「二つの状態」に大別される。

一つは、本当に「忙しい」状態の人。

もう一つは「これだけ忙しそうにしているのだから頑張っていると思われたい」状態の人。

これは先にあげたような行動が人一倍多く、ちょっと度が過ぎているような状態の人だ。

単純化すれば、「忙しいアピール」をしている人といえる。

武田砂鉄さんがいう「とにかく忙しいと思われたい人」とおそらく同意。

今まで私が会ってきた「忙しそうにする人」の中にも、「忙しいアピール」をしている人が間違いなく一定数いた。

しかし、なぜその人は「忙しいアピール」をしているのか?

に関しては、本質的な理由はずっと分からないままだった。

人は自尊心を満たすために「多忙」な状態をつくり「忙しいアピール」をする

ところが先日、

リーダーシップやチームマネジメントを専門とするオンリー・コネクト・コンサルティング社CEOのデボラ・ザック氏が書いた、

SINGLE TASK 一点集中術「シングルタスクの原則」を読んでいた時、「その本質的な理由」を理解することができた。

現代の文化には「より多くのものごとをこなす」ことを重視する風潮がある。

そして奇妙にも人は自分を疲弊させ、すり減らすことで「自分は重要な人間だ」という認識を持とうとしている。

作家のローラ・バンダーカムが指摘しているように、「多忙」であることと「自分は重要な人間である」という認識には、強い相関関係がある。

過労と睡眠不足を嘆いてみせることで、自分が必死にやっていることを証明したいのだ

人は「自分は重要な人間だ」という認識を持つために、「多忙」という状態を作っている。

本の中にはこう書いてあった。

つまり、私たちは、生まれながらに毎日与えられる時間と活動エネルギーを使い「多忙」によって「自尊心」を満たそうとしてしまう動物

ということだと解釈した。

ここで以前読んだ、不朽の名作と称される「人望が集まる人の考え方」の中に記されていた「人の習性」ともつながってくる。

この本によれば、

・すべての人は程度こそあれ自分本位である

・すべての人は自分に最も強い関心を抱いている

・すべての人は自分が重要だと感じたがっている

・すべての人は他人に認められたいと思っている

シンプルに言えば、人は「自尊心」を満たしたいと四六時中考えている

多忙」にすることで、自分が重要だと感じることができ、

忙しいアピール」をすることで、他人から「がんばっているね」と思われたい。

つまりはこういうことだ。

毎日与えられる時間と、自分の活動エネルギーを使えばこれらを得ることができると考えれば、自尊心を満たしたい人がやらない理由はない。

「多忙」にするのも「忙しいアピール」をしてしまうのも、空腹を満たしたいという思いと同じくらい、自然で普遍的なことだったのだ。

であるならば、「多忙」にすることも「忙しいアピール」をすることもやったらいい、と私はシンプルに思う。

当然、それをすることで誰かに迷惑がかかるようならば考えなければいけないが、自尊心が満たされることは重要だと思うからだ。

参照:「2時間しか寝てない」とか言われても…忙しいアピールしてくる人への対処法

ただし、「多忙」状態に、「マルチタスク(複数のことを同時に処理する)」で対処するようなことは、今すぐやめた方いいという主張はしたい。

マルチタスクを試みてもいいことがない

現代社会には「マルチタスク(複数のことを同時に処理する)が有効である」という考え方が広く浸透している。

ということもあり、マルチタスクを試みている多忙な人は実際多い。

これに対して、デボラ・ザック氏は、

最新の脳科学・心理学の研究から「目が回るほど忙しいからといって、マルチタスクはなんの役にも立たないし、弊害しかない重い現代病」と述べている。

マルチタスクを試みようとすると、

集中力が低くなる

集中力が低くなると、情報を記号化できず、記憶力が下がる。

集中力が低くなると、知識の応用力が下がる。

よって、生産性(能率)が下がる。

このような連鎖的な弊害があることをザック氏は指摘している。

いずれも、したのような研究から明らかにされたものだ。

・マルチタスクをこなそうとすると、瞬時(0.1秒未満)に集中する対象を切り替えるよう、脳が強要される。すると遅れが生じ、切り替えのたびに集中力が落ちる。こうしたことが積もり積もると、貴重な時間が無駄になるうえ、知力が衰える。

あたふたとせわしなく働いている社員たちは1日に500回も注意を向けるタスクを変えるが、もっとも能率の高い社員たちは注意を向ける回数がむしろすくない

・ハーバード 大学の研究結果によれば、注意を分散させていると、情報を記号化しにくくなる。すると記憶力が低下し、何も思い出せなくなる事態も生じる。いわゆる「マルチタスク」行為は「認知処理能力を低下させ、より深い学習を妨げる」のだ。

・気が散っていると、状況の変化に適応する柔軟性も低下することがわかった。1つの知識をべつの状況にあてはめて使えるようになることを「知識の転移」というが、マルチタスクを試みると、この能力が落ちるのだ。

優先順位をつけることができない複数の要求にさらされると、脳は圧倒され、うまく機能しなくなる。というのも、マルチタスクを試みると、情報処理能力を低下させるコルチゾール(別名ストレスホルモン)が分泌されるからだ。

つまり、「マルチタスクをこなそうとする試み」と「生産性(能率)の悪さ」の相関関係は明確で、厳然たる事実なのだ。

加えて、マルチタスクは生産性のみならず「生活の質」「対人関係」「あなたにとって大切なこと」のすべてを犠牲にする、とまで言及している。

他にも重要なことが示されていた。

これはオダギリジョーが本名だと知った時くらい衝撃を受けた。

でも、同時に行っているものもあるのでは?」といった疑問に対しては、したの説明で、附に落ちる。

マルチタスクとは、2つ以上の活動を同時におこなおうとした結果、少なくとも1つの活動に十分な注意を向けられなくなることを意味する。

とはいえ、意識的な努力を必要としない活動は、メインの作業と同時におこなうことができる。よって、これはマルチタスクにはあたらない。

こうしたシンプルな作業には「簡単で機械的におこなえるもの」「集中力を要さないもの」が含まれる。

私自身、以前からマルチタスクに対しては疑問を持っており、できる限りしないように気をつけてきたが、

この本を通じて、エビデンスと明確な言語化でマルチタスクによる弊害をしっかりと理解することできたのは大きな収穫だ。

オススメは、シングルタスクのモードに入れる仕組みを入れること

ザック氏は、マルチタスクという現代病に対する有効な処方箋として、「シングルタスク」の考え方と具体的な取り組み方を本の中で紹介している。

例えば。

・「いまここにいること」「一度に1つの作業をすること」を徹底する。

・SNSや電話の相手より、「目の前にいる相手」をつねに優先する。

・1つのプロジェクトに取り組んでいる合間に「別の仕事」の確認をしない。

・最重要タスクを明確にして、最優先で取り組む。

などである。

ここに挙げたものはこの本を読む以前から私が実践していたものでしたが、いずれも「シングルタスク」の実践に役立つ。

ちなみに、仕組みで自分をシングルタスクモードにすることができ、時間管理もできるマネジメントツール「TaskChute Cloud」はウルトラお勧めしたい。

「TaskChute Cloud」を使うようになって、タスクに一つづつ集中して対処していくことこそが、「生産性を上げる」ということを、身をもって知った。

このツールはもう当分は、手放すことができないだろう。

また、タスクの「成果」で「自尊心」は満たされていくため、「多忙」や「忙しいアピール」で自尊心を満たすようなこととも無縁になった。

【著者プロフィール】

著者:田中 新吾

プロジェクトデザイナー|プロジェクト推進支援のハグルマニ代表(https://hagurumani.jp)|タスクシュート(タスク管理術)の認定トレーナー|WebメディアRANGERの管理人(https://ranger.blog)|「お客様のプロジェクトを推進する歯車になる。」が人生のミッション|座右の銘は積極的歯車

●X(旧Twitter)田中新吾

●note 田中新吾

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