田中 新吾

「お互いに共有する目的」が、無くなると関係性は細くなっていき、生まれると関係性は太くなっていく。

タナカ シンゴ

私がこれまでの人生経験で得ることができて良かったと思うものの中に「お互いに共有する目的が、無くなると関係性は細くなっていき、生まれると関係性は太くなっていく」がある。

例えば、結婚した後に夫婦仲が突然悪くなることがあるが、なぜ起こるのか考えたことはあるだろうか?

様々な理由が思い浮かぶかもしれないが、私の観測範囲では「結婚する、子育てをするというようななんとなくあった目的が達成されてしまいビジョンが共有できなくなった」ことがかなりの部分で影響していると思う。

なんとなくあった目的が達成されたことによって夫婦という関係性が細くなってしまった、ということである。

逆に、夫婦で小さなお店を運営する、夫婦で自給自足の生活を目指すなど、それ以外の目的も共有している夫婦というのは突然仲が悪くなるようなことはなく、関係性は細くならず長期的に良好な関係を保つことができている。

思うに、長期的に良好な人間関係というのは、お互いに目的を共有する中で生まれてくる「一種の成果」であって、目的が共有されない細い関係性の中では生まれてこない。

だからこそ、長期的に良好な人間関係を作りたいと思うのであれば、お互いに共有できる目的があるかどうか、お互いに共有できる目的を作ることができるかどうかを考える。

これは私の中に刻まれている大切な考え方になっている。

Tくんとの関係性

お互いに共有する目的がなくなると関係性は細くなっていく」について、個人的なエピソードについて話をしてみたい。

私は20代半ばの頃、前職同期だったTくんと一緒に時々「クラブイベント」を行うことがあった。

クラブミュージックが好き、何かを企画して皆んなと楽しむことが好き、など共通な好みが多かったことからTくんから誘いを受けサークル活動的に動くことになったのだ。

会場のブッキング、DJへの声かけ、フライヤーの制作、SNSを使った集客、当日の催しの企画。

このようなことを仲間に協力してもらいながらTくんと私中心で行った。

毎日のように連絡を取り合い、企画会議というていで定期的に飲みにも行き、結構なリソースをクラブイベントのために投下していたのが懐かしい。

そんな当時のTくんと私の関係性は「太かった」といっても過言ではないだろう。

そして、こうなれたのは間違いなく「クラブイベント」という「お互いに共有する目的」があったからである。

その証拠に、それから10年ほどたった今現在はTくんとはほとんど連絡を取ったり、会ったりすることもなくなった。

これは決して喧嘩して仲が悪くなったからとかではなく。

それぞれの働き方が変わり、家族ができ、住む場所も変わり、という中でお互いに共有する目的が無くなったから関係性は細くなった。

そして、お互いに別の人と共有する目的が出来た。

突き詰めるとこれに尽きると思う。

昨年末、それこそ本当に久しぶりにTくんと食事をしたのだが、Tくんと会話をしながらそんなことを改めて思った次第である。

大学時代の友人との関係性

今度は逆のパターンで「お互いに共有する目的が生まれると関係性は太くなっていく」についてのエピソードを。

以前にも書いたとおり私は最近「フォートナイト」というゲームを時々やるようになった。

参照:習慣的に「オンラインゲーム」をやるようになったら、「何かに没頭しやすくなる条件」が分かってきた話。

2人、3人、あるいは4人とその日によって人数は異なるのだが、夜になるとパーティを作りゲームがスタートする。

野良で全く知らない人とやるようなことはなく、毎回ほとんど決まったメンバーでパーティーが作られる。

パーティーメンバーのうち2人は大学時代にとても仲の良かった友人達だ。

こう聴くとフォートナイトをやる以前からずっとさぞ太い関係だったのだろう、と思う人もいるかもしれない。

ところが実態は違う。

私がフォートナイトをやりはじめる以前は、時折LINEなどで連絡を取り合う程度で直接会うようなこともほぼなかった。

昔は関係が太かったということでもちろん社会人になってからもずっと繋がりはあったが時間が経つにつれ、日に日に細くなっていたという方が実態に近いと思っている。

ところが、30代半ばになってお互いに共有できる「フォートナイト」という新たな目的が生まれたことによって、コミュニケーションの頻度は上がり、細くなりつつあった関係性が再び太くなってきているのだ。

目的は道具

「目的」というのは人と人の関係性を変え、それを細くしたり太くしたりするための一種の「道具」のようなものだと捉えている側面も私にはある。

「バカとハサミは使いよう」という言葉があるように「目的」も使いようということだ。

上手に使えば関係性を良くすることができたり太くすることはできる。

でも、使い方を間違えればむしろ逆効果になることもあるという解釈だ。

例えば、ある会社の担当者がプロジェクトを動かすことになった場合。

プロジェクトであるから一人であることはなく、それは3人〜5人、場合によってはもっと大所帯になることだってある。

プロジェクトを行うということは、当然ながらそのプロジェクトの目的があるわけで、目的という「ゴール」を見据えプロジェクトは推進されていく。

私の経験則になるが、目的がハッキリとしてない、かつ目的が関わるメンバーにハッキリと共有されていない、かつ目的がそれぞれに腹落ちしていない場合は、プロジェクトというのはいい感じに進捗していかない。

こういう場面を多くみてきたので、プロジェクトがスタートする以前にメンバーそれぞれの「共通了解でお互いに共有できる目的」にまでなっているか、また「目的の再確認」も都度必要だと考えている。

ちなみにこの観点において、私の経験則では「目的を包含したプロジェクトのネーミング」をプロジェクトメンバー全員で開発するワークショップの実施には大きな効果がある。

こういう発想が私の中に生まれたのも目的を「道具」としてとらえているから。

Googleの研究で注目を集める「心理的安全性」の生みの親として知られるエイミー・C・エドモンドソン教授も著書の中で「目的を塾考することの重要性」を述べていた。

目的──人々の意欲を高め、組織の仕事をより広いコミュニティにとって意義あるものにする目的──について熟考すると、多くのリーダーがよい結果を得られるだろう。

(中略)

職場はもとより人生において私たちが目的と意味を実感することが不可欠であることは、きわめて多くの心理学の研究によって証明されているのだ(17)。

「焚き火は小さな方が良い」という教え

つい先日の話だが、ネイティブ・アメリカンの教えの中に「焚き火は小さな方が良い」というものがあることを知った。

焚き火が大きい場合、火は大きく強くなるため、人が火に近づくことはできず、人はバラバラになってしまい、会話が弾むこともない。

その一方、焚き火が小さい場合は、火は小さくそこまで強くもないため、火に近寄って火を見ながら暖をとることができ、人と人との距離も近くなって会話も弾む。

私自身キャンプで焚き火をするのが好きなこともあって、この教えは「まったくその通りだ!」とストンと腹に落ちた。

そして同時に、「目的」というのはまさに「焚き火と同じ」というアナロジーを感じた。

関わる人数に対して、程よいサイズで共有できる焚き火のような「目的」を立てることができれば、それは人を集め、人と人を結びつける、ということである。

ネイティブ・アメリカンの教えは「組織はより小さい方が完全に近づく」というピーター・F・ドラッガーの言葉とも私の中では結びついた。

外の世界への奉仕という組織にとっての唯一の存在理由からして、

人は少ないほど、組織は小さいほど、組織の中の活動は少ないほど、組織はより完全に近づく。

思うに人間関係というのは、あらゆる関係性が存在するこの世界においてもとりわけ面白い対象だ。

だからこそ、人間関係を面白がることがイコールで人生を面白がることだと解釈もしている。

そして面白がる上で意識しておいて損はないと個人的に思うのが、お互いに共有する目的が、無くなると関係性は細くなっていき、生まれると関係性は太くなっていく、という話。

今回書きたいことはこんなところである。

Photo by Robson Hatsukami Morgan on Unsplash

【著者プロフィール】

田中 新吾

バナナフィッシュ24話」のアッシュと英二の「名前は付いていない太い関係性」が大好きです。

プロジェクトデザイナーとして、中小企業・地域・NPOのプロジェクトの成功支援をしてます。得意なことは、相手の話を聞き頭の中を整理すること・モヤモヤを言語化すること・プロジェクトの課題や必要なタスクを洗い出し整理して推進して目標達成させること・チームの方向性をまとめること・経験したことを再現性のある形にすること。

詳しいプロフィールはHTML名をご覧ください。

●Twitter 田中新吾

●note 田中新吾

会員登録していただいた方に、毎週金曜日にメールマガジン(無料)をお届けしております。

ちょっとした気づきや最近の出来事など、メールマガジン限定のコンテンツもありますのでぜひご登録ください。

登録はコチラから。

幅を愉しむwebメディア「RANGER」に対するご意見やご感想、お仕事のご相談など、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

これからもRANGERをどうぞご贔屓に。

記事URLをコピーしました